表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

203/231

赤い花

朝の光が、薄いカーテン越しに滲んでいた。


エレノアは、ゆっくりと目を開く。

眠りは浅かったはずなのに、身体が妙に重い。


(……あれ……?)


胸の奥が、静かに、でも確かに疼いている。

夢の名残にしては、あまりにも鮮明だ。


掛け布を胸元まで引き寄せ、

ふと視線を落とした瞬間――息を呑んだ。


肌に、赤い花が咲いている。


描かれたものではない。

触れても消えない。

熱を帯びた、淡い痕。


鎖骨の近く。

肩の内側。

胸のあたりの心臓に近い場所。


(……花……?)


指先で、そっとなぞる。

ひり、と微かな感覚が返ってきた。


夢のはずだった。

あれは、確かに――夢だったはずなのに。


身体は、嘘をつかない。


胸の奥に残る、

抱き寄せられた記憶。

呼吸が重なった感覚。

触れられた“余韻”。


(……私……)


鏡の前に立つ勇気は出なかった。

でも、わかってしまう。


何かが、確実に変わった。


乙女であった“感覚”が、

音もなく、遠ざかっている。


それは喪失ではない。

むしろ――

満たされてしまった後の、静けさに近い。


(……夢だったのに……)


唇に、微かな熱を思い出す。

耳元で落ちた、低い声。

あの一瞬の、確かな抱擁。


そして――

封印核の奥から、かすかに伝わってきた気配。


(……ルベル……?)


赤い花は、

まるで“証”のように、身体に残っている。


夢の中で許したこと。

拒まなかったこと。

望んでしまったこと。


それらすべてが、

現実へ滲み出した痕。


エレノアは、そっと布に包まり、息を整えた。


(……これ……戻れるの……?)


答えは、まだ来ない。


ただ一つ、確かなのは――

夢は、もう夢だけでは済まなくなったということ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ