納品への道
準備を整え、エレノアはドアノブに手をかけた。
深呼吸をひとつ。
(よし……納品して帰ってきたら、お茶淹れよう……)
自分に言い聞かせて、ぎぎ、と扉を開ける。
朝の光が差し込み、森の匂いがふわっと流れ込んだ。
「さぁ……行きま――」
振り返った瞬間。
陽光を背にしたルベルが立っていた。
アッシュブラウンの髪が金色に縁取られ、
赤い瞳が光を反射し、
背は高く、顔は整っていて、ローブ姿が妙に絵になる。
(……無理。絶対目立つ……!!)
エレノアは長年“ボッチ”であった自分でも悟った。
これは、
隠しようがないイケメン
である。
そしてさらに言うなら――
背の高さ。
肩幅。
顔面偏差値。
全部が事件級。
「や、やっぱり留守ば――」
言い終わるより早く。
「ついていく」
即答。
息を吸った瞬間に返事が返ってきた。
「返事はやいな!!」
エレノアは頭を抱えた。
断る隙さえ与えられない。
「……はぁ……仕方ないか……」
深いため息をひとつ。
でも連れて行くしかない。
置いていけば、なんか別の意味で問題が起きそうだ。
「ルベル、とにかく……ローブのフードを深く被ってください。
絶対ですよ。絶対、顔を見せないでください!」
素直に頷くルベルは、ゆっくりフードをかぶる。
すると、影が深く落ちて、雰囲気が一気に怪しげになった。
(……うん、これなら……ギリセーフ……かな……?)
ギリギリのラインを攻めたところで、エレノアは歩き出した。
ルベルはぴったり半歩後ろをついてくる。
「そんなに近いと歩きにくいです……!」
「離れるのは……いやだ」
(ちょっと待って、この人獣の忠誠心が残ってる……!)
ツッコミを飲み込みながら村へ向かう。




