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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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村へ行く準備と、ついてくる影

朝の光が差し込み、台所に柔らかな明るさが広がっていた。

エレノアはパンを焼きながら、今日の予定を考えていた。


(魔力測定器が壊れちゃったし……補充もしたいし……

そろそろ村に行かないとダメだよね)


湿った空気の森で暮らす彼女にとって、外出はなかなか勇気がいる。

でも、生活のためには行かねばならない。


椅子に腰掛けているルベルへ、そっと声をかけた。


「ルベル。今日、少し村に……」


エレノアが言い終える前に、ルベルの瞳がカッと輝いた。


「行く」


「い、いや違う違う違う!まだ何も言ってませんよ!?」


「エレノアが行くところには、僕も行く」


「いやいやいやああああ!!」


エレノアは両手をぶんぶん振った。

しかしルベルは微動だにしない。

膝に置いた手までぴしっと決意を宿している。


「ど、どうして……来たいんですか……?」


「護るため」


一言。

夢の残滓をそのまま引きずったような、低く落ち着いた響き。


エレノアの胸が跳ねた。


ルベルは説明など求めず、当然の義務のように続ける。


「エレノアが行く場所なら、僕も行く。

それが……“正しい”気がする」


(やっぱり……魔術陣に刻まれた“護る使命”が残ってる……!)


エレノアは必死で説明を試みた。


「あ、あのねルベル。

ふつう外には人がたくさんいるから……あなたみたいな人型の精霊体は目立つし……」


言いかけたとき、あ、と気付く。


(ちがう……!

私は“人型にしてしまった”と思い込んでたけど……

本当は違うんだ)


エレノアは記憶を巻き戻す。


召喚時――

必死で陣を補強した。

性質を安定させるため、形を整えるため、魂の衝突を防ぐために、

彼女の魔力は“陣の欠損部分”を自動で埋めるよう動いた。


(私が……“人型にしよう”と思ったわけじゃなかった)


むしろ、陣の欠落を埋めるために

エレノアの魔力が“最も安定する形”を選んだだけ。


その形が“人”。

その基盤が“エレノアの願い”。

その核が“護れという命令”。


すべてが偶然と必然を兼ねて結びつき、

「ルベル」という姿になってしまったのだ。


(もう……どうしようもない……)


ルベルはエレノアの沈黙を見つめて、ゆっくり立ち上がる。


「エレノア。

僕は、君が行く場所に行く。

僕は……君をひとりにしない」


その言葉は、どこか“獣の忠誠”に似ていた。

だが形は人。

声は低くて胸に刺さる。


エレノアは頭を抱えた。


「はぁぁぁぁ……もう……好きにしろとは言えないし……

でも連れて行くのも危ないし……うぅ……!」


ルベルはエレノアの苦悩など一ミリも気にしていない顔で、


「支度を手伝う」


と言い、彼女の後をすっと追ってくる。


距離が近い。

ずっと後ろにいる。

影のように。


(……この人、外へ行く気満々じゃん!!!)


エレノアは今日一日でさらに寿命が縮んだ気がした。


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