2ー35【アーゼルの都・入門】
◇アーゼルの都・入門◇三人称視点
一台の馬車が、【アーゼルの都】へ到着した。
普通よりは大きいサイズの、荷馬車といった所だ。
「――止まれ!」
検問所の兵士三人が馬車を取り囲む。
西方からの馬車は、最近突出を始めた三国国境の村、【アルテア】への搬入が多い。
「荷を確認させてもらうぞ」
「おい御者、この馬車……【コメット商会】じゃないか」
一人の兵が、小さな馬に乗る青年へ声を掛ける。
青年は控えめな笑顔で答える。
もう一人は中へ入り、荷物を確認する。
最後の一人は、警戒して槍を構えたままだ。
「へ、へぇ、この中には商会長、ミーティア様が乗っておられます。西方への荷出しを終え帰路につく途中に魔物に襲われてしまいやして、中にはもう一人、護衛の剣士さまが乗っておりまさぁ」
「西方に?行きはアーゼルを通らなかったようだが」
「行きは都の南、【テンデラ】を経由して仕事をしておりました。帰りは、治安の良いアーゼルを通るものですのでね」
「うむ、殊勝な判断だな」
中を検めている兵士が、降りてくる。
「……中は麦と果実、多少の酒もあるぜ?」
兵士は酒を三本持っていた。
「噂の会長さんは?」
「乗ってる。情報通りの青い髪だったから、間違いない」
ニヤニヤしながら、兵士は嬉しそうに酒を抱える。
【コメット商会】はここ数年で伸びた新鋭の商会だ……その長は、世にも珍しい青い髪を持つ超絶美人。
近々の村や町でも、荷を卸す以上情報の流布はされている。
この【アーゼルの都】でも、【コメット商会】は有名になりつつある。
「おいおい、いいのかぁ?」
そう言いつつも、兵士は酒を受け取る。
賄賂とまではいかないが、良い酒を得たら融通も利かせてくれるだろう。
「荷に問題はないから通っていいぞ。怪我人もいるしな、それに会長さんも美人だし」
「適当かよ」
「おい、俺の分は……」
「ちゃんとあるって、ほらよ!」
堂々と拝借した酒を配る。
馬上の男は冷めた目をしているが、気にもしないようだ。
「それにだ。この酒だって会長さんから頂いたんだしなー。「いつもご苦労さまです」だってよー!くぅーーー!かわいいぜ!」
まるで酒瓶をその会長になぞらえているように、瓶にキスする兵士。
御者の冷めた視線から、一瞬だけ怒りが込められた気がするが、それにも気付かない。
「あのー……通行許可という事でいいんで?」
「おう、怪我人を早いところ、医者に見せてやりな」
「へぇ、では会長!出発いたしまさぁ」
奥から「お願い」と小さく。
その言葉に、馬車は門を通る。
馬車が都に入った瞬間、荷を確認した兵士は残りの二人に向かって。
「いやぁ……すっげぇ胸だった。バインバインだぜぇ?」
自分の胸を揉みしだくような仕草をし、興奮を隠さない兵士。
「噂の美人会長かぁ。水面や空のような髪は、神秘的だよなぁ……俺も見たかった」
「俺は天幕の隙間から見た。マジで美人だったぞ」
「おい!ズルいぞっ!!」
わんやわんや。
三人の兵士が談笑を始めたと同時、馬車の中で青髪の女性が頭を抱えていた事は、当人しか知らない。




