2ー21【帝国、その真意6】
◇帝国、その真意6◇三人称視点
セリスフィアとゼクスが帝都【カリオンデルサ】から逃亡した直後の玉座。
軍兵や臣下たちを早々に追い出した謁見の間では、皇帝が一人呟く。
「――これでよいのか、【叢雲】よ」
その言葉は宙へ向けられている。
そこには、ふわふわと小さな魔力塊が漂っていた……【感知】では判別が難しいレベルの、極細なものだった。
そしてその魔力塊は、驚く事に言葉を発する。
「まぁいいだろう。これで俺と貴様の契約は完了だ……これで貴様の野望という些細な願望も、叶うことだろう」
「……であろうな」
その契約とは、皇女セリスを陥れる事だった。
数年、いやもっと前から、この皇帝と繋がりを持つ、この魔力塊が助力をしてきたという事実。
そして皇帝の野望、そのための戦力、それこそが……銃と軍兵だった。
魔力塊は皇帝の周囲を回りながら続ける。
「貴様にくれてやった強化兵も銃器も、今後も自由に使うがいい。帝国がどこまで出来るか見ものではあるが、俺も暇ではないのでね」
「ふん。余の信念を曲げてまで侵攻を行うのだ……うぬの兵も武器もある、自ずと成果はでようぞ」
長い髭を触りながら、皇帝は魔力塊を睨む。
帝国の信念……それは強者は自ら攻め込まないという、鉄の掟だ。
それを曲げてまで叶えたい何か。それがもし領土というのであれば、セリスはもっと憤慨する事だろう。
「それは楽しみだな。これで北に西、そして東からの軍勢を加えれば……【アルテア】などひとたまりもないだろう」
「うぬは動かぬのか?」
「俺か?はははっ、こんな雑務に王が駆り出されるなんて、間抜けな話だろう。それに暇ではないと言ったぞ。俺にも探しものがあってな……意外と見つからないのだよ」
その王……皇帝が自ら動くというのに、あっけらかんと言い放つ魔力塊。
しかしそんな態度を取られても、バルザック皇帝は眉一つ微動だにしない。
「それもそうだ。うぬにとって我ら人間は……ただの駒なのだろうからな」
「その通りだ。だから黙って行動しろ。さすれば生涯安泰だろうよ、この国は……神の属国として、なぁ」
「……」
その言葉を残して、魔力塊は消えていく。
それを確認して、皇帝は少しだけ椅子に座る位置をずらした。
「……どこまで驕り高ぶれば、自らを神と称することが出来るのか。しかし、それを信ざるを得ない力を持つのが……あの【叢雲】か」
【叢雲】を名乗る誰か。
帝国に兵と銃器を贈与した、姿の見えない人物……その正体は、もう一人しかいないだろう。
◇
「……バルザック・セル・オラシオン・サディオーラス、つまらん男だ。世界を見極める目も持たぬ愚かな人間、私欲に溺れ骸となるだろうな、いずれ」
「……だってあの人間は簒奪者でしょう?」
「あいつの言うアレか。まぁそうだな、それが全てだ」
一人の壮年の男と、そして霊体のような女性。
二人は意識を戻すと途端に、先程まで会話をしていた男を嘆く。
「さてと、それじゃあ私も……あら?」
「どうした?」
霊体のような女性は、嬉しそうに歪めた唇で、壮年の男へ耳打ちをする。
「ほう……そうか、見つかったか。我が不詳の息子が」
その報告を待ちわびていた。
実に千年、限界が近い身体の代用を……ようやく形にするのだと。




