2ー13【苦労を買った結果5】
◇苦労を買った結果5◇セリス視点
重苦しい空気と、物理的に重い鋼鉄の扉。
それらが合わさり、余計に父……バルザック・セル・オラシオン・サディオーラス皇帝陛下と会いにくくなってしまった。
「き、緊張してきた」
(この前も会ったのに、叔父様があんな事を言うからっ!)
緊張というよりも、嫌な予感……それに近い気もする。
「殿下、そろそろ」
「……ええ、開けてちょうだい」
「「はっ!!」」
ゼクスに言われ、私は謁見の間の門番に合図を出す。
素直に従う二人の軍兵。待たせてごめんね。
ゴゴゴ……そんな分かりやすくも重苦しい音が鳴り響く。
それと同時に、私の気持ちも自然と引き締まった。
よし、行こう。
カツカツとヒールを鳴らし歩き、中央で跪く。
その際、陛下の様子は一切伺わない。どうせ厳しい顔で私の頭頂部を睨んでいるに決まっているんだから。
「――セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラス、帰城いたしました」
「うむ。ご苦労」
威厳のある低い声音。低すぎて振動しているんじゃないかと思ってしまうような、そんな重低音だ。
そして続けて、私の後ろで膝をつくゼクスが。
「【帝国精鋭部隊・カルマ】所属ゼクス・ファルゼラシィ……セリスフィア皇女殿下の護衛任務、恙無く完了を報告させて頂きます」
いつもの明るい空気など一切ない。
これがライネでもロイドでも同じだけど、でもやはりゼクスも緊張を隠せていないわ。相変わらず……その雰囲気だけは圧倒的な化け物だ、この父親は。
「うむ。ご苦労――して、セリスフィアよ」
「……はっ!」
顔を上げろとも言わない皇帝に、私は床に声を叩きつけた。
そして父はその返事に対して言葉を並べる。
「先の報告、大臣を通して閲覧したが……麦の収穫があの村に越されたようだな」
あの村とは、【アルテア】の事だ。
父はこの二年、【アルテア】の事を認めていない。
ミオには問題ないと宣っているが……実際はコレなのよね。
「お言葉ですが陛下、あの村……【アルテア】と、この【カリオンデルサ】では気候が違いすぎます。こちらの冬は長く、対して【アルテア】の冬は短くなっております。更には土壌の状態も、生育に関しては完全に、麦の成長と生産量を見越した【アルテア】が上回るのは、必然かと」
そんな事を聞きたいんじゃないでしょうね。
麦……【カリオンデルサ】の近隣で収穫できる名産であり、ライネ・ゾルタールの実家で管理をする、帝国の資金を占める品。
それを渡したのは、何を隠そう私なのだから。
「うむ。理解しておる。しかし売上が落ち込んだと、ゾルタールが嘆いておった」
「……はい、存じております」
背中から小声で「空気ヤベェ」と聞こえる。
分かっているわよ、一々言わないで。
現在、北の小国とも小競り合いが続いている。
その敵は、銃を使ってこの帝国に戦いを挑んできている……そうなれば、必要なのは軍資金。その大半を占めていた小麦が売れなくなれば、下手をすれば敗北の二文字が脳裏にチラつくだろう。
だけど、私にだって考えがある。
その答えを導き出すために、この二年を【アルテア】で過ごしたのだから。




