1ー42【反撃の口火9】
◇反撃の口火9◇
公国の南にある漁村、【サクレー港】には、巨大な倉庫が常備されている。
村の範囲よりも大きいそれは、まるでこちらの倉庫が村の本体なのでは思わせる程だ。因みに去年、俺が用意した物で、冷蔵設備も完璧にしてある。
何故かって?野菜好きの姉が美味しく食べられる、魚たちの為でしょうよ。
「久し振りに来ましたけど、ちゃんと手入れされているようで良かったです」
「あ、当たり前ではないですかぁ!」
焦ってるじゃないかユン・ハルバート。
さてはあれだな?流石は漁村、海の男たちの雑な扱いで、一時的にでも汚くなったんだな?
「管理はしっかりですよ?衛生面で気をつけないと、折角【アルテア】で爆売れの海鮮なんだから、管理不足で腐ったりでもしたら……こちらも害を受けるので」
「わ、分かっております!管理も徹底させておりますので、今度は失敗しません!!」
いや、今度は……って。
まぁいいか。まだ実害はまで出てないし、釘を刺しておくだけで。
実際に問題が起きたら、切られる覚悟はしているだろうし。
いや、斬られる……かな?
「……」
「アイシア?」
海沿いの倉庫に来てからアイシアは静かだったが、海の方を見て、ジッ――と視線を向けていた。ぼーっとしているのとは違うし、何かあったのか?
「おーい、倉庫入るぞ?」
「あ……うん。だよね、今はいいかな……ねぇミオ、帰りにちょっといい?」
アイシアは仕切り直すように俺にそう言う。
「ん?ああ、いいよ」
急務ではなさそうだから、とりあえずこっちを優先するか。
「それでユンさん、俺に渡したい物とは……?」
「はい!こちらです!この奥に」
案内されるそこは、倉庫の奥。
魚が置かれるには奥すぎる……荷物置き場だよな?
「……お!おお!?」
驚きの声を上げる俺。
「なぁに?これ」
それは山のように積まれた何か。
そして掛けられた布。凄い量だ……その量に、まだ何か分からないのに驚いてしまったぞ。
この感じ……金属か?
そして、ユンさんは困ったように言う。
「漁をしていると、こういった物体もよく引っ掛かるのですが。底引き網が破れるほどの量に驚き、漁師が潜って確かめたところ……この金属が、地下にあったのです」
この量の金属が、海の地下にか。
「ミオ、これが何か分かるの?」
「まぁ一応ね。ユンさん、お願いします」
「かしこまりました」
ユン・ハルバートが布を取って見せてくれる。
そこには銀色の鉱石……しかし、【銀星鉱石】とも違うし、ましてやただの銀でもない。
「これは、アルミニウムっていうんだけど……なんで海の底から?」
(正確には違うんだろうけど、この軽さ……かなり似た素材だ)
「アルミニウムですか……金属でいいんですよね?余りにも軽いので、使い物にならないと思っていたのですが」
確かに武器や防具に加工するには脆いし軽い。
固さはあるが、それ故に割れやすかったりもする。あと腐食に弱い。
しかし、これは……
このアルミに似た金属、後で俺が名前つけるか。取り敢えず……今の会話の中ではアルミで行こう。
「アルミは加工製品によく使われます。車……馬車の本体とか、日用品とかにも色々と。有能ですよ」
そう考えれば、この収穫はデカすぎる。
あ!!そうか……創ろうとしている携帯端末の素体、これで作れるじゃないか!!
「ユンさん、こんなにも大量のアルミニウム……頂いて良いんですか?言っちゃなんですが、ただで頂くにはそちらが大損ですけど」
ここまでの量を頂くとなると、流石に申し訳がない。
「え!そうなのですか……こ、困ったなぁそれは」
その使い道を分からないと、ただの金属ゴミだもんな。
しかしユンさんのリアクションを見るに、もしやこれを処分させようとでもしたか?確かに邪魔だもんな、倉庫にこんな量を置かれたら。
でも、あんたコレを俺に押し付けようとしたんだよな。いいんだけどさ。
「……それじゃあ、買わせてもらおうよミオ」
アイシアが言ってくれる。
うん、それが最良かな。
「そうだな。それがいいだろう」
その方が牽制にもなるし。
あと、しっかり仕事をしてもらわないと駄目だし。
「ですがその……よろしいのですか?こう言ってはなんですが、我々には使い道が」
加工職人もいないだろうし、ましてや武器にも防具にも使えないとな。
「俺としては、この漁村は【アルテア】の海鮮販売の要だと思ってるから……これを気に気合を入れてくれたらそれでいいですよ」
ユンさんにも、それを分かって貰う為の金銭取引だ。
それを見せ付ける為に、俺はアイシアの前で跪き、わざとらしく。
「――【慈愛神オルディアナ】様、オルディアナ様のご意向、【アルテア】の管理者ミオ・スクルーズが承りました」
ゴクリ――とユンさんの喉が鳴った。
プレッシャーはかけた。これで怠けるようなら、ルーファウスにチクってやる。ディルたそもがっかりしちゃうぞ?
「は、ははは……」
顔が引き攣るユン・ハルバート。
ディルたその元ご主人だし、本当はあまり強く言いたくはないんだけどさ。
「それじゃあ購入決定で。あ、でも今は持ち合わせないので……」
「あぁいや!全然平気でございます!先んじて運んでいただいても、大丈夫ですので!」
それは助かる。
なら、ディルたそに仕事として頼もうか。
ユンさんにも会いたいだろうしな。
さてと、それじゃあ後は。
外でアイシアが気にしていた、海の向こう……だな。




