1ー29【復讐の先に3】
◇復讐の先に3◇
真っ黒で重苦しいイメージ。
乱暴に、無茶苦茶に、怒りを込めてグシャグシャにしたのではないかと思わせるその頁は、一切読める文字がなかった。
でも。
「ちょっと待ってろ――【清浄】!」
ノートに手を翳し、俺は能力を使う。
既に二年前に解放されていた能力、清く清潔にする……たったそれだけの能力だが、この黒い汚れを落とせるかも知れない。
「あっちょ!文字までっ」
「そんなヘマはしない!書き殴られた箇所を、順に消していく!」
薄い膜を一枚一枚剥いでいくような感覚。
インクの成分を新しい順に分解し、少しでも文字を読めるように。
「お!おおおー!!やるわねミオっ!」
少しずつ剥がれてきた。
畝る黒蛇のように、空中にインクが浮かび上がる。
【清浄】の魔力で紙から分離され、俺の魔力で霧のように消えていく。
「凄い!ねぇそろそろ読めそうよ!もういいんじゃない!?」
「よしっ!」
魔力を止める。
綺麗……ではないが、書き殴られた大部分を順に分解できた。
先代アイズレーンは、どうしてこんな風に書き殴ったんだよ……
「じゃ、じゃ、じゃあよ、読むわよ!?」
「なんでお前が緊張してんだよ、落ち着け!ほら、声だけは綺麗なんだから、心に染み入る朗読頼むよ!」
「誰が声だけよ!見た目も最強でしょうが!!あと朗読出来る内容な訳ないでしょ!?」
肘で俺を小突く。
脇腹にドスン――と。
「うぐっ……いいから読んでくれ!お願いします!」
「わ、分かったわよ……もぅ」
落ち着いて入る為に、今一度座る。
そしてアイズは一呼吸置き、神妙な表情で声に出す。
「……失敗した。全部嘘だった。あの神は全部、始めから嘘を吐いていた。あたしたち女神に嘘を吐けないという枷をもたせておきながら、本人は嘘で塗り固められていた」
声違いすぎるぞ。
「あの神って、主神の事だな」
女神は嘘は吐けない。それは昔からアイズたち女神全員が口にしていた。
だけど主神は嘘が吐ける、と言うことか。騙していた……のか?
「そうね。続けるわ……あの神はあたしに嘘を吐いた。あの人間を転生させれば、彼女に会わせてくれると言ったのに」
あの人間を転生……それがアリベルディ・ライグザールか?
それに、彼女?先代アイズレーンは、誰かに会いたがっていた。そしてアリベルディ・ライグザールを転生させれば、その人の会えると……主神に嘘を吐かれた?
「何度もエリアルレーネやウィンスタリアを欺いて、あたしはあんなにも転生させたのに……神力も全部、全部全部全部!」
「……何度も、か」
これは、イエシアスが言う二度ってのは間違いじゃないか。
イエシアスも知らなかった時に、先代アイズレーンは何度も何度も、誰かの転生を行っている。それがアリベルディ・ライグザールなのかだな、問題は。
それ以外だったとしても、問題増えそうで不安だが。
「ねぇこれ、晶……あきらって読むわよね」
ん、漢字か。
「ああ……しょうとも読むけど。これ名前か?」
「だって晶を転生させ……って書いてる」
「もしかして、アリベルディ・ライグザール……あの男の前世の名前か?」
それにしても、この異世界での一般的な文字は平仮名だったが、このノートの文字は思い切り片仮名も漢字も使われてる。
ノートも日本製だしな。
「晶の五度目の転生で、ついに晶は神域に到達した。その時点で、あの神の目的は達成。あたしはお払い箱……寿命ももう無い、だから――」
「だから?」
アイズはハッとしたように、その一文を見詰めて。
「だから……次のあたしに託す――で、終わり」
「えーっと、何を託されたの?」
「……あ、あはは……さぁ??」
引き攣った顔で、アイズは「やべ」っと声を漏らす。
継承していたようだぞ……このポンコツ女神。
「さて次のページを……っあ」
「ん?どした――って、それだけ??」
ノート一冊。
たった一頁。
書き殴られていた最初の一頁。
それだけで、先代アイズレーンの記述は終了した。
「「……」」
残されたのは、今のこのポンコツアイズに託されたという何か。
晶という転生者がアリベルディ・ライグザールなのか。
先代アイズレーンが会いたがったのは誰か。
そして主神が目的にした、達成した何か。
それを探らなければならない。




