1ー26【蠱惑と豊穣4】
◇蠱惑と豊穣4◇
「――と……言うわけだ。理解したか?」
「……」
物凄いジト目で俺を見る女神。
おいおい、さっきまでのイエシアスとは正反対だな……アイズ。
「なにが、と言うわけよ。あたしは報告いらないって言ったっしょ?」
ツーンとそっぽを向いて、アイズは俺に牙を剥く寸前だ。
「はいはい、言うと思ったよ」
イエシアスの所から帰還し、現在夜になった。
アイズにイエシアスから聞いた話を伝えているという訳だ。
因みにクラウ姉さんはもうお眠らしく、部屋に戻ったよ……いや子供かな?
「何が先代のお言葉よ、あたしは知らないっつの。それに、なんだっけ?イエシアスのアホが味方ぁ?ミオ、あんた騙されてるわよ」
俺の鼻先にビシッと指を向けてくる。
それをそっと跳ね除けて。
「それは大丈夫だ、エリアルレーネ様に聞いた……主神のマネをするって方法で納得させた」
「――は、はぁ!?あんたねぇ……いや、もういいわ、言っても無駄っぽいし。でも相当の覚悟を持たないと、あの業突張の爺には通用しないわよ?」
アイズは一瞬身体を抱き寄せる。
やはり思い当たる経験があるんだろうな。
だけど、俺はそこまで我儘でも頑固でもないつもりだ。
ただまぁ、欲張りではあるかな。
主神に通用するとかしないとかは、まだよく分からないさ。
「張り合うつもりなんてないよ。ただ、この【アルテア】を……異世界を守りたいからな、だからイエシアスにも協力して欲しいだけなんだって」
蠱惑の女神イエシアス。
この世界に四柱しかいない、創られた女神たち。これ以上増えてはならない存在だ。されどその力は何よりも貴重であり、そして強い。
新たに誕生した【女神オルディアナ】と【女神ウィズダム】はまだまだ不安定。
だから先人の知恵と言うか古株と言うか、ベテランにも頑張って頂きたいのさ。
「あんた何気に失礼よね」
「はははっ!今更だろそんなもん。だから新人をイビるなよ、ポンコツ先輩」
俺は笑いながら言う。
今、俺はこの前時代の女神四人……そして新時代の女神二人が協力して築く世界を想像した。それが叶えばいいと、本気で思った。
だけどまだ足りない。そもそも、神は沢山いるはずだ……だから俺は。
「――イビんないわよ失礼ね!って誰がポンコツかぁ!!」
目尻を釣り上げて怒るアイズ。
ああ……やっぱりこういう関係性の方が、こうやって馬鹿みたいに言い合える関係の方が、俺は好きだな。
イエシアスのような重いくらいの思想も嬉しくはあるけどさ。
「ならいいけどな!はははっ」
「笑ってんじゃないわよぉぉ!」
怒るアイズを見て更に笑みをこぼす。
腹を抱えて笑う。だけど本当に楽しいよ、お前が消えないでいてくれてよかった。
だからこそ、こんな馬鹿を続けていく為に俺は……俺たちはやるんだ。
「……さて、一頻り笑ったし本題な。先代アイズレーンは、アリベルディ・ライグザールを転生させた。それも二度……これは可能か?」
声のトーンを落とし、真剣な眼差しをアイズに向ける。
するとアイズも目尻を下げ。真剣に向き合ってくれる。
「本来は無理よ。昔も言ったけど、転生は記録に残るわ……誰が、とか誰に、とかは分からないようにされるけど、それでも転生の特典の受け渡しは完全に書類に残るのよ……あんたを転生させた時、あたしが間違えたような奴ね」
「それは俺、見てないから。ま、そのおかげでこんなチートになったんだけど」
俺は手を上げて、やれやれと肩を竦める。
「それがまさか、こんなに早く神の領域まで到達するとか……」
そう言えば、想定より早かったらしいな。
「でもお前、ウィズの人格の元だろ?そう思えば、結構急かしてたじゃないか」
「だからって早すぎなのよ!本当ならあたしを――」
そこまで言って口を噤む。
ハッ――として押さえ、禁句を口にしたかのように。
「知ってるよ……」
俺に殺させるつもりだったんだろ?
アイズだけじゃない。エリアルレーネ様もウィンスタリア様も、イエシアスも。
そして大本のレネスグリエイトを殺させ、この世界に存在する神を全て排除する。
それが、この女神……【豊穣神アイズレーン】の目的。
「本来なら、俺がお前たち女神と主神を滅ぼして、そしてこの異世界を解放する……正真正銘の異世界、神の関与しない自由な世界を、お前は求めたんだ」
「……そうね。うん……そうよ。だけどあんたはそうしなかった。でもオウロヴェリアを倒したわ」
「あれは倒したんじゃなくて、別の世界にお送りしたんだよ」
【リードンセルク女王国】の女王。いや、今は元……なのかな。
シャーロット・エレノアール・リードンセルク、本名仙道紫月。
前世の俺とクラウ姉さんを殺した、日本人の女の子……しかしその子は、何度も輪廻転生を繰り返していた、【女神オウロヴェリア】だったんだ。




