1ー25【蠱惑と豊穣3】
◇蠱惑と豊穣3◇
イエシアスは話を続ける。
自分と先代のアイズレーンとの過去の話を、丁寧に、思い出しながら。
「あの女はいつだって、この異世界を案じていたわ。その寿命が尽きようとした時……「次代のアイズレーンに」って、何かを託そうともしてたから」
「今のアイズにか?」
「残念だけど見た感じ、失敗してそうね……その継承」
身も蓋もないよ姉さん。俺も思ったけどさ。
イエシアスは笑いながら。
「実際アイズは何も知らないのでしょ、馬鹿だもの。それにエリアもウィンも、主神様も知らないかも知れないわ……」
「上手くやってたんだな、先代のアイズは」
(しかし次代のアイズレーンは、見事に主神に見つかってるんだよなぁ……)
呆れが勝つっての。
「そうね、私だって知らない事だらけよ」
イエシアスは呆れるように、懐かしむように。
けれど今までの怖い表情とは打って変わって、とても穏やかな表情をしていた。
「……なぁイシス、先代のアイズレーンが転生させた奴は、おそらくアリベルディ・ライグザールで確定だ。その情報、なんでもいいから無いかな?」
「そうねぇ」
腕組みして考えるイエシアス。
「……あの女、本当に適当だったから。でもそうね、二度目の転生を行った時……慌ただしかった気もするわ」
「慌ただしい?」
「ええ。私は……他の女神を連れ出すように言われたわ。私は当時新人だったし、先輩であるアイズレーンの言う通りにしたわ。その後は……分からない」
「その時に、アリベルディ・ライグザールは二度目の転生を?」
俺とクラウ姉さんは頷きあい。
姉さんはイエシアスに問う。
「そうかも知れないわね。で、それは何年前なの?」
「そうね……約五百年ってところかしらね」
俺は考える。アリベルディ・ライグザールが二度目の転生をしたのが約五百年前だとして、一度目はもっと昔、イエシアスが当時新人だとしたら……最初は千年。
「ん……なぁイシス、お前……もしかして寿命そろそろじゃないのか?」
「……」
イエシアスは答えなかった。
だけど、沈黙は。
「え、そうなの?それなのに、あんなにも神力を使ってミオに挑んでたわけ……?」
そう考えれば、数年前のアイズと同じくらいか。
今は神力を分け与えたりして、寿命をキープしていたが……イエシアスは何もしてない、出来てない。
「……そうね。私は女神に成る前、魔人だったとミオ様に言ったわね」
「ああ、言ったな」
「だから私は、魔力を使って戦えるわ……それで節約してたのよ」
ああそうか、だから魔法を連発して……あれは女神の魔法じゃなくて、本来のイエシアスが元々使用できた魔法か。
「それでも回収した転生の特典を使ってただろ……【シヴァ】とか【水刃】とか、【重力】とか」
今は俺が【強奪】で没収しているが、イエシアスは他にも結構な数の転生の特典を回収していた。
「心配して、くれているの……?ミオ様」
「……べ、別に心配では。他の女神と同じだっての」
潤んだ目で俺を見るイエシアス。この心変わりは、良い心変わりだ。
そんなイエシアスの制御も難しそうだが、それでも貴重過ぎる戦力……いや、戦力というよりも――象徴かな。
「それでもいいわ……何番目でも良い。ただ、もう私を見捨てないで……ミオ様」
「……イシス」
その視線が俺に重ねるのは、【主神レネスグリエイト】の影なんだろう。
女神として慕っていた、恋い焦がれていた。
先程俺がやったような罰も、きっと何どもされて来ている……それなのに、こんなにも儚げな表情が出来るのか。
「――とりあえず味方って事でいいわけ?イエシアスは私たちが生まれたときからの知り合いではあるし、何回かいざこざがあったとは言え女神だし……敵にならないに越したことはないと思うけど……もし裏切ったらどうするの?」
「裏切りはしないわ。もう……ミオ様が代わってくれるから」
俺を見詰めるイエシアスの艶っぽい瞳。
女神は嘘は吐けない。それは何年経っても変わらない。
しかし演技は出来るし冗談も言える。
だからもし、これが演技や冗談だったのなら……俺は、イエシアスを殺すだろう。
怠惰な主神に代わり、この不完全な女神たちを纏めるために。




