1ー24【蠱惑と豊穣2】
◇蠱惑と豊穣2◇
悪徳詐欺師のような手腕で女神を籠絡した俺、ミオ・スクルーズ。
姉の冷めた視線に刺される気持ちの悪さを背中に感じつつも、イエシアスを優しく座らせる、紳士的にな。
「――ミオって意外と詐欺師の才能あるのかもね、ドン引きだわ」
刺さってる刺さってる!
「姉さん、わざと言ってるだろ……」
「まぁね。それよりイエシアス、どうしてそんなに簡単にミオに従えたの?あれだけ嫌がってた……ううん、嫌ってたじゃない」
ちょっと待ってくれないか。
意味深に言い直さなくてもいいじゃない。
「それは……さっきミオ様が言った通りよ」
「「ミオ様ぁ!?」」
お、落ち着こう。
さっき言った……つまりは、俺の言葉は絶対ってセリフだ。
「主神様は、飴と鞭の使い分けが上手なの……普段は飄々として、何をお考えか分からないわ……でも、一度創作活動に入れば――心変わりを起こしたかのように、その本質を変貌させる。さっきのミオ様のようにね……ああ、本当に……意地悪な人だわ……」
指先で俺の太腿を撫でるイエシアス。
アブソーブと同じ事をしてるのに、何だこのゾクゾク感。いや怖いから普通に、イエシアスの変わり身が怖いよ。
「と、とにかくだ。これからは俺がお前を見ててやる、だから協力しろ……そうすればきっと、お前の願いも叶えられるかも知れない……いいな、イシス」
「――はうっ!!……は、はい……ミオ様っ」
いやもう催眠術師か俺はっ!!
他の女神には絶対にしない!誓うからここに!
「それじゃあイシス、聞かせてくれ……お前が知ってる、先代アイズレーンの事を」
「……あの女の」
サーッと血の気が引いていくように、イエシアスは急に冷静になる。
しかし俺への感情が戻った訳ではなさそうだ……それは安心。安心?
自室と言う割には質素な、そして簡素なイエシアスの部屋。
協力してくれるのなら、他の女神と同等にしてあげないとな。配慮配慮。
イエシアスは一人椅子に座り、俺とクラウ姉さんはソファーで隣同士に腰を下ろす。
そして話を始める。イエシアスが語ってくれるのは、かつてのアイズレーン。
当代のアイズレーンの一代前……約千年前のアイズレーンの話だ。
「……あの女は、良くも悪くも自由な女神だったわ。それはもう迷惑だった……今のアイズレーンにも通ずるところかも知れないわ、そこだけは」
今のアイズも充分自由な気もするが、それ以上なのか。
「自由気ままで我儘で、だけど主神様に創られたいくつもの異世界を愛し、慈しみ……そこに関しては真面目だったわ。だから私は、エリアやウィンに黙って転生の儀式を代行した」
「……それだ!」
アリベルディ・ライグザールの言った先代アイズレーンの転生の義。
エリアルレーネ様やウィンスタリア様に隠れてやっていたのなら、知らないのも無理はない……しかもきっと、隠蔽してるはずだ。
「前のアイズレーンが行った転生は、二度」
「「二度!?」」
あの男の他に、もう一人いるのかよ!
まさか、ダンドルフ・クロスヴァーデン……いや、それならウィズが気付く。
「正確には、一度よ」
「「??」」
どういう事だ?二度なのか一度なのか。
「アイズレーンの転生者は……二度転生しているのよ」
「二度って、同じ人間がって事か。アリベルディ・ライグザール……二回も同じ女神の手で転生して、しかも他の女神に気付かれないまま生きてきたのか!?」
「なんでそんなまどろっこしい事をしてんの?」
クラウ姉さんが俺に聞く。
どう答えるべきか、思うことを言うしか無いな。
「さぁね。精霊女王が関係してんだと思うけど……それでも、隠れ続けたのは何か、言葉では表せない理由があるのかもね」
それを肯定はしないがな。ミーティアを狙い、剰え子供を産ませようとしてやがる……それをあの時聞いていたら、俺は【ステラダ】まで戻って殺しにかかってたっつの。
「私もその転生者の名前までは知らないし、二度も転生させている理由も聞いてないわ。アイズレーンだって、そこまで考えてやった訳じゃないと思う」
イエシアスが言っているのは事実なんだろう。
「きまぐれなのは先代から変わらないようね」
「……だな」
呆れる姉さんと、同意する俺。
何にせよ、あの男が先代アイズレーンの転生者だったのは確定だ。
先代アイズレーンが主神や他の女神に隠れて色々やってたのも分かった……女神の寿命、約千年……それだけの時間でも足りなかったんだ。
だけど、女神アイズレーンの思惑は……まだ、この世界で息づいている気がする。




