プロローグ3ー2【号外飛び交うアルテアの一日】
◇号外飛び交うアルテアの一日◇三人称視点
その号外は突然だった。
【アルテア】に参加する三国、その一つである帝国……【サディオーラス帝国】の代表であるセリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラス皇女が、婚約を宣言したのだ。
それも、【アルテア】の代表である――ミオ・スクルーズと。
帝国領【イズアーレ】で、豪勢にも号外が撒かれた。
『号外!我が帝国の希望セリスフィア皇女殿下が婚約を発表!お相手はアルテア管理者ミオ・スクルーズ様!!近日にも正式発表か!?』(※この世界の文字は本来ひらがな)
勿論、その号外は【イズアーレ】だけでなく、女王国領【エッシアース】、公国領【スタリーア】でも配られていた。
【アルテア】はその話題と衝撃で持ち切りになり、場所によっては昼夜を問わず大騒ぎとなっていた。
しかし、この婚約を複雑な心境で見る人も多く。
特にミオ・スクルーズの周辺では、彼とセリスフィア皇女に対する疑問で持ち切りとなっていた。
最も気にするであろう、ミオ・スクルーズの家族たち。
更には恋人であったはずのミーティア・ネビュラグレイシャーや、彼女の周囲の人たちが、心をざわつかせている。
そんな問題を引き起こしている【アルテア】に、目下迫る脅威。
それは、渦中の皇女……セリスフィアの国であり、ミオ・スクルーズたちの生まれ故郷。三国国境の一部でもある……【サディオーラス帝国】の軍勢だ。
今回の一連の騒動。
国の為、未来の為、一人の女性が選択した物語だ。
大切な人たちを巻き込む事も承知、かけがえのない友となった女性を傷付けるのも承知。
それでも、選択しなければならなかった。
セリスフィアが求める平和な世界の為に、ミオ・スクルーズたち【アルテア】の皆が求める……最良の未来の為の。
◇
管理者室で、渦中のミオ・スクルーズは頭を抱えていた。
しかし直ぐに、机に乗る一枚の紙を見つめる。
しゅく!!ごこんやく!
そんな文字をジト目で見て、ガクリと頭を落とした。
「先走りやがって、セリスの奴ぅぅ」
号外の紙をクシャっと丸め、ミオは唸る。
当然のように憤っているが、それもそのはず。
この号外は、セリスが独断で出させた……一種のヤラセのような物だ。
「はぁ……皆はなんか気を使って居なくなるし、セリスはこんな宣言しておいて放置だし……はぁ……はぁ〜〜〜〜ぁっ!」
苛立ちを込めたため息を吐き、ミオは丸めた紙を思い切り投げた。
ゴミ箱には入らず、角に嫌われ床に落ちる。
まるで暗示のように、コロコロと転がる紙。
「どうするつもりだよ、これ。どうするのが正解なんだよ、俺はぁぁぁぁぁ!」
ミオも分かっているのだ、これがセリスフィアの作戦なのだと。
本気で婚約するようなら、当たり前だが順次を追って事を進めるだろう。
しかし、そもそもミオとセリスフィアはそんな関係ではない……それは、【アルテア】に住まう者たちなら誰でも知りうる事実なのだ。
だがしかし、皇女の婚約……更には【アルテア】の管理者であるミオとの。
恋人という関係性でないと知っていながらも、喜ばずには居られないのだ……民は。
だからこその大騒ぎ、だからこその大袈裟な号外。
騒ぎは騒ぎを呼び、号外は【アルテア】にまで届くだろう。
それは当然、帝国の他の町や村……そして帝都にも。
「セリスの狙いは多分、帝都に残っている民衆なんだよな」
その通りであろう。
帝都【カリオンデルサ】にも、まだ皇女派は残っている。
【アルテア】に帯同して来た部下たち以外にも、セリスフィアを指示する多くの民草が存在しているのだ。皇帝に弓引くと言われるだろう、剣を向け歯向かった人もいるかも知れない。
そんな民たちの為に、セリスフィアは決断したのだ。
「その為のブラフ……結婚だなんて、したくないよなぁ、まだ」
ミオは思っている。
ただのブラフ、民を救う為だけについた嘘。
そう思わなければ、やってられなかった。
「あぁ……もうやだ、勘弁してくれぇ……」
机に突っ伏して、壁に向けて言葉を向けた。
誰に向けての言葉なのか、そんなもの……決まっている。
当事者セリスフィア、そして一番心労を与えているだろうミーティア。
【アルテア】の未来の為とは言え、ここ一番の苦労をする覚悟を……ミオは決めなければならないのだった。




