プロローグ3ー1【叡智の旅路】
◇叡智の旅路◇三人称視点
波が荒ぶり船が揺れる。
長い旅路は既に両手の指だけでは数えられない日数を超えていた。
魔物が溢れ、混沌と化す【ラウ大陸】から旅立った二人の男女……【叡智の神】ウィズダムと、転生者レイモンド・コーサル。
船旅にも慣れ、目指すべき【アルテア】へ向けて意気込む二人だったが、旅の中盤から海の魔物や荒波に阻まれ、中々に進行が思わしくなかった。
人の身体を得たウィズダムは、空腹や体調不良、体力の配分などに苦戦を強いられ、慣れるまでは一般人以下の行動しか出来なかった。
ただ、その馬鹿げた力は一般人を遥かに……いや、この世界の強者をも超えている。
もともとミオ・スクルーズをサポーターする為の能力でしかなかった彼女だが、顕現の際にミーティア・ネビュラグレイシャーとセリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラスの魔力をベースにすることで、二人の容姿に近い身体を持った。
更にはその力は、この世界に誕生した紛うことなき神の力。
【慈愛の神】【叡智の神】……そして新たに【破壊の神】。
顕現した事を、同族である二人は気付いている。
しかし、その波動はまだ小さく、弱々しい。
後の世界、多くの神が存在する未来の世界で。
これらの神たちは称えられる事になる……元来称えられていた、【豊穣の女神】【運命の女神】【救世の女神】【蠱惑の女神】、最後に【復讐の女神】。
この五柱の女神と並び、世界に、未来に、広がり続ける物語で紡がれる存在になる。
何十何百、何千かも知れない未来の世界で。
◇
「……神が誕生しました」
「は?なんだよ急に」
船の上、北の方角を睨みながらウィズは言う。
隣で辟易するのはコーサル。短くない時間を共にし、船に揺られる言わば相棒。
どちらも不本意だろうが、その連携は【ラウ大陸】で大いに磨かれ、【アルテア】での戦力としては充分過ぎる程に成長している。
特に。
「赤メッシュ」
「んだよ」
「魔物が来ました。迎撃をお願いします」
「ちっ、仕方ねぇな……!どっから湧いてきたんだコイツ等!!」
ウィズの言葉と同時に、魚人のような魔物が数体、甲板へ飛び上がってくる。
コーサルは腰から剣を抜き、左手には短い杖を持った。
始めは【ラウ大陸】の魔物に追われるだけだったコーサルだが、今はもう【ラウ大陸】の魔物に引けを取らない。
魔法剣士としての力を磨き、ウィズの隣に立てるほどに成長していた。
「おいウィズダム、てめぇも援護しろよ……紋章術で!」
「言われずとも分かっています、来ますよ?」
「分かってらぁ!」とコーサルは叫び、剣を振るう。
数は三体、ウィズはコーサルだけでも制圧できると考えているが、念のために雷撃を放った。
バリバリバリ――!と雷撃は甲板を走り、魚人の魔物の足元を感電させる。
ウィズの紋章術は、従来の魔法や転生者の持つ能力とはまた違う現象を起こす。
身体に刻印をすることで、その力を発揮する紋章術は、長文詠唱を必要としないのだ。
「おらぁぁぁぁぁ!死ねやぁぁぁぁ!!」
「言葉が汚いです、もう少し普通に戦ってください!」
ザンッ!ザンッ!ボボン――!!
斬撃と炎の魔法で魚人の魔物を攻撃するコーサルに、ウィズは呆れながら口にする。
「これが俺の普通だ!!うらぁぁぁっ!!」
三体目の魔物を斬り裂き、甲板は静かになった。
それを見届け、ウィズは言う。
「やはり、大陸に近くなって来たのですね。魔物が弱くなっていますから」
「……素直に俺が強くなったって言えや!」
プイッ……と、ウィズは再び海の向こうを見る。
「無視かよ」とコーサルもそちらを見る。
そこには、果てしなく続く海原だったこの旅路に、初めての光景を見せた。
「……陸です。とうとう、帰ってこれました」
「へっ。待ってやがれよミオ・スクルーズ……俺は強くなった、これでテメェに借りを返す!」
拳を海に突きつけて、コーサルは荒々しく笑った。
ウィズも、目を細めつつも少しだけ口元を緩める。
(先程の感覚……アイシア以外の誰かでしょう。おそらくウィズのように、神として覚醒をした誰か……ミーティアかセリスフィア、オーブを持つ誰かだとは思いますが……果たして)
そのウィズの思考は、図らずも近い答えだった。
視界に収まる大陸に、馳せる思い。
長く険しい旅がようやく終わる……その時は近い。
【アルテア】にウィズが戻る時、ミオ・スクルーズの物語はまた……加速する。




