2ー40【アーゼルの都・遭遇】
◇アーゼルの都・遭遇◇アレックス視点
暖炉に焚べる薪を回収する。
そんな簡単な仕事に何分の時間を掛けるのか、僕は自分に問うていた。
治療院の真横にある薪の山、歩いても十数秒しかかからない場所に到達し、両手に抱えた瞬間、おぞましい程の邪気に薪を落下させた。
カランカラン……
「な……なんだ、この感覚は」
手が震える。
足が震える。
心が震える。
これは、恐怖だ。
「どこだっ!!」
無理やり恐怖を振り払うよう、大声を上げる。
すると少し先から。
「――ア、アレックス……さん!」
この声、カルカか。
僕を手伝いに来てくれたのだろうが、今は。
「カルカ、こっちに来るんだ!」
「は、はい!!」
自分からも移動。
見晴らしの良い場所まで来るとカルカと合流。
彼女を庇うようにして周囲を警戒するが。
「……」
(どこからだ、正確な位置が把握できない!)
まるで針の筵。
正面も背面も側面も、頭に足裏まで、全ての神経に棘が刺さったようだ。
「団長……あれを!」
「あそこか!!」
それは黒い靄のような、悪意の集合体のような黒い物体だった。
突然現れ、そして広がっていく。
「あれは危険だ。カルカ、行けるか?」
「は、はい、でも……私の腕じゃあ」
装備も一式を売ってしまい、ろくに戦える状況ではない。
だがもし、あの黒い靄がレフィルを狙ったものだとしたら、僕たちが守らなければ。
「援護を頼む、僕が……やるっ」
部下に野盗のようだと例えられてから七日。
ボロボロの格好に、ボサボサの髪、刃毀れした粗末な剣。
おおよそ戦闘の出来る物ではない……だが、やるしかないんだ。
「……来ます!!」
ブワァァァァ――!!
「ぐっ……くぅぅ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ」
黒い靄から発せられたオーラは、この一帯を一気に包んだ。
精神が摩耗する、心が萎える、身体が萎縮する。
紛れもない恐怖は、それ自体が災厄の化身なのではないかと、思わせた。
「――ミツケタ、ヨウヤク、ミツケタゾ……!!」
「なん、だ……!?」
靄の奥から聞こえるのは、誰かを探していたという答えだった。
そして声と同時に、その姿を見せた。
「……ま、魔物??」
「いや、口を利く魔物など!」
その姿は、明らかに人外だ。
巨大な四肢に大きく開いた口顎。
ギョロリとした瞳は、爬虫類のようだった。
だが、僕にもカルカにも、その姿に見覚えがあった。
正確には、似た者たちの姿に、だが。
「――まさか、レフィルの……【奇跡】か!!」
「そんな、まさか!レフィル様はこの数年、一度も【奇跡】を見せていませんよ……なんで、しかもこんな、ありえません!!」
かつて王国の、女王国の民草を異形の姿へと変貌させた、聖女レフィルの御業。
意思を奪い、超人的な肉体と力、そして魔力までを絶大に増加させる、文字通り奇跡の名に相応しい力だ……だが。
「しかしあの姿、僕も君も、あの時の戦いで似た姿の兵たちを見てきただろう!!」
「で、ですが……」
確かに似ているんだ。
似ているが、違うもの。その可能性もある、しかし……しかしだ。
「あの化け物はこちらに敵意を見せている!戦わねば、ならないんだ!」
おそらく聖女レフィルを狙った刺客、となれば。
「行くぞカルカ!」
守るんだ、彼女を。




