記憶62 見ることのできない目
JRセントラルタワーズ内は非常ベルの音が鳴り響いていた。
頼斗は部屋を出る。
「冷たっ!」
頼斗がホテル内の廊下に出ると、スプリンクラーが作動していた。
「さっきのでかい音は・・・」
頼斗が音のした方向を見ると、720号室のドアが外れていた。
「亜理砂!」
頼斗は走って720号室に入ると、部屋の中はメチャクチャになって、窓のガラスも全て割れていた。
「どこだ!どこにいるんだよ!」
「う・・・ぎっ・・・」
部屋の中から声が微かに聞こえる。
頼斗は周りを見渡すと、ひっくり返ったベットの下に人の足が見える。
「亜理砂!」
頼斗はベットを起こそうとするが、重たくてなかなか上がらない。
すると、亮介が部屋に入ってくる。
「何があった!?」
「これ退かすの手伝ってください!」
亮介が頼斗が退かそうとしているベットを見てすぐに亮介は頼斗を手伝う。
「いいか、せーので上げるぞ」
「はい」
「せーの!」
ベットを起こすことが出来て、頼斗は素早く亜理砂に声をかける。
「おい!大丈夫か!?」
「う・・・うあああああああああああ!」
亜理砂は必死に左目を押さえている。
左目周辺からは大量の血が流れ出ていた。
「何があった!」
数人の自衛隊員が部屋に入ってくる。
「怪我人です!早く手当てを!」
「わかった。救護班!」
部屋に箱をもった自衛隊員が入ってくる。
「退いてください!」
自衛隊員は頼斗を亜理砂から引き離す。
「すいませんが治療の邪魔になるので部屋から出ていってください」
自衛隊員は亮介と頼斗を部屋から出す。
廊下のスプリンクラーはすでに止まっており、廊下は水浸しになっていた。
亮介は頼斗の手をつかむと野次馬を掻き分けて723号室に入る。
「何が起こった・・・斎藤くん!?」
723号室には再び手錠をつけられた優香里がベットに座っていた。
優香里は頼斗の血塗れの服を見て驚く。
「座れ」
頼斗は無言で椅子に座る。
「何で・・・何で俺の周りの人はこんな事になるんだよ!」
「仕方がないよ。こんな事が起こってるもん」
優香里が頼斗を励まそうとする。
「前もあったんですよ・・・結局俺はただ人が死んでいくのを何も出来ずに見ていく」
「そんなの皆同じだ!」
頼斗は亮介の方を見る。
「お前はまだマシだ!俺はな、助けられる命を見捨てたりもした!お前一人が辛い思いをしていると思うな!」
「・・・」
頼斗は言い返すことができなかった。
すると、亮介の無線から声が聞こえる。
『一階入り口で起きた爆発により感染者が建物内に侵入した。警察官、自衛隊員は速やかに対処にかかれ』
亮介は優香里に手錠をかける。
「一応かけとかないと俺の首が飛ぶからな」
亮介は部屋を出ていった。
部屋には頼斗と優香里が残された。
「あの時はごめんなさい・・・」
「もう過ぎたことですから気にしてませんよ」
コンコン
723号室の扉がノックされる。
「はい」
頼斗が扉を開けると、女性の自衛隊員が立っていた。
「何ですか?」
「佐々木 亜理砂さんの応急処置が終わったので会えますよ」
「そうですか」
「隣の722号室にいますよ」
「ありがとうございます」
女性の自衛隊員はエレベーターホールに向かっていった。
頼斗はすぐに722号室に入る。
「亜理砂!」
「あ、斎藤さん」
亜理砂の左目は包帯でグルグル巻きにされていた。
「怪我大丈夫か・・・?」
「かなり痛みますけど、大丈夫です」
「それなら良かった・・・」
「でも、治療してくれた人が言ってました。もう左目で何かを見ることはできないだろうって・・・」
「・・・」
頼斗には返す言葉が見つからなかった。
「でも、右目は大丈夫ですから!」
「そ・・・そうか」
「一体こんな事をしたのは誰でしょうね?」
「何でピンポイントでお前を狙ったんだ?」
「知りませんよ。私、犯人じゃないですし」
「そうだよな・・・考えても仕方ないな。一階の方も心配だけど、自衛隊に任せるか」
「一階で何かあったんですか?」
「爆発があって入り口が吹き飛んだらしい」
「そんなことがあったんですか」
「とにかく俺は部屋に戻る。眠いからな」
頼斗は722号室を出る。
感想など、待っています。




