記憶53 エチケット袋
生存者達が乗るバスは豊田ジャンクションに差し掛かっていた。
バスは東名高速道路から伊勢湾岸自動車道に車線を変更する。
「このまま名古屋駅に向かえばいいんですか?」
「はい。東別院まで走ってもらえますか?」
「分かりました」
前の座席では運転手と警察官がこれからの道順について話していた。
すると、一番後ろの座席に座っている頼斗が立ち上がり警察官の所へと向かっていった。
「すいません」
「どうかしましたか?」
「ドラグノフ・・・その狙撃銃返してもらえませんか?じいちゃんの形見なんです」
「こちらの散弾銃と拳銃もか?」
「はい。同じく形見です」
「・・・良いか?絶対に人間には向けるんじゃないぞ。向けたら没収だからな」
「分かりました」
頼斗は散弾とドラグノフのマガジンが入っているリュックと、レミントンM870とドラグノフ、M2013を受け取ると一番後ろの座席に戻る。
ポイッ
頼斗が戻るときにM2013とレミントンM870を亜理砂に渡す。
「お前が預かったんだから渡しとくな」
「渡すのなら弾ないと意味ないんですけど」
「そうだったな」
頼斗はリュックから散弾全てとM2013のマガジン2つを亜理砂に渡す。
バスは名古屋駅に向かって走るが、放置車両2台が道を塞いでいた。
バスはその放置車両の手前で停車する。
「ちょっと私が見てくるので皆さん待っていてください」
警察官が降りてきて一人で様子を見に行く。
その様子をバスにいる人達は見守っていた。
警察官は放置車両を見ると事故を起こしたわけでもなく、車には損傷はなかった。
警察官は車に乗るとエンジンをかけてみる。
キュルルル
エンジンは一向にかからずにいた。
「押すしかないか・・・」
警察官はバスに戻る。
「すいません!車を退かしたいので男性の方!手伝ってください!」
警察官が呼び掛けると数人の男性が立ち上がる。
頼斗も立ち上がるとドラグノフを肩にかけてバスを出る。
「それじゃあ、先に奥のタクシーを退かしますので」
男性数人がタクシーの後ろに回るとタクシーを押す準備をする。
警察官はタクシーの運転席に座る。
「せーの!」
男性数人がタクシーを押す。
タクシーはゆっくりと動き、警察官が路肩までハンドルを動かしていく。
頼斗はすることがなく、周りの警戒をしていた。
タクシーは高速道路の路肩に停められた。
男性数人や警察官はもう一台の放置車両に向かう。
男性数人はタクシーの時と同じように車を押す。
警察官もハンドルを操作してタクシーの後ろにつける。
「ありがとうございました。バスに戻りますか」
頼斗や男性数人、頼斗はバスに戻る。
警察官が全員乗ったことを確認する。
「出発してください」
バスはゆっくりと走り出した。
しばらく走ると豊明料金所にさしかかる。
料金所と本線の合流するところでは車が数台絡む事故が起きていた。
バスはその横を通りすぎる。
「このあと本州はどうなっちゃうのかな・・・?」
優香里が外を見ながら言う。
「さぁ?私にもそれは分かりませんよ」
「まさかと思うけど人類滅亡って落ちはないよね・・・」
「それはないと思いますよ。他の国でも完全閉鎖を行っているみたいですから」
「逆に人類がいなくなった世界を見てみたい気もするわね・・・」
「まぁ・・・このウィルスも人間が開発したんですから・・・本来なら人災と言われてもいいんでしょうけど・・・」
「う~ん、考えても仕方ないわね」
「そうですね」
バスは名古屋南インターチェンジまで来る。
バスの走行している車線の反対側の車線では大型のタンクローリーが横転して激しく燃えていた。
「消防なんて動いてるわけないか・・・」
警察官はため息をつきながらタンクローリーを見る。
タンクローリーを通り過ぎるときに火だるまのゾンビをバスに乗っている人のほとんどが見た。
「うっ・・・おげぇえぇええ」
一人の男性がバスに用意されていたエチケット袋に吐く。
「亜理砂ちゃんは大丈夫なの?」
優香里は口にてを当てている。
「はい・・・これよりひどい状況を体験してきましたから」
「そう言えば東京に核爆弾が落ちたって話本当?ラジオとかでは断片的にしか伝えてないし、情報が錯乱していてハッキリしてないの」
「本当ですよ・・・そのせいで私と斎藤さん以外の一緒にいた人はなくなりましたけど・・・」
「そうなんだ・・・」
ダン
突然、バスの屋根から何かが飛び乗ったような音がする。
「何だ!?」
「屋根から聞こえたぞ!?」
バスの中では避難民達が上を眺めていた。
その中で亜理砂はレミントンM870に散弾を込める。
「優香里さんはこれを使ってください」
亜理砂は優香里にレミントンM870を渡す。
「使い方よく知らないよ」
ジャコッ
「こうしたあと狙いを大体定めて引き金を引くだけです」
亜理砂はM2013を取り出すとマガジンをM2013に入れる。




