記憶50 自己中心的な考え
「・・・ここは?」
気絶していた亜理砂が目を覚ました。
「よかった!気がついたんだね」
そこまで亜理砂と年齢の変わらない女性が満面の笑みを亜理砂に見せる。
亜理砂が周りを見渡すとバスの中だった。
「あの・・・」
「どうしたの?」
「斎藤さんと優衣さんは?」
「男の子なら後ろの席で放心状態よ・・・」
優衣を看病してくれたであろう女性は外を眺める。
亜理砂が周りの人を見ても誰も目を合わせようとはしなかった。
亜理砂は立ち上がると後ろの席に向かう。
後ろの席の四人がかけられる席の端っこで頼斗は日が沈んで真っ暗な外をぼんやりと眺めていた。
「斎藤さん!一体何があったんですか!?」
「・・・佐々木か」
頼斗のおでこには包帯が巻かれていた。
「優衣さんは!?何処なんです!?」
「死んだよ・・・」
「え・・・?」
亜理砂は自分の耳を疑った。
「今なんて・・・?」
「だから・・・死んだんだよ」
「何で死んだんですか・・・?」
「自分で拳銃を口に入れて・・・撃ったよ」
亜理砂は頼斗の横に座る。
「嘘でしょ・・・そんなわけない・・・」
「いい加減に受け止めろよ」
亜理砂は頼斗のその言葉に怒りが突然込み上げてくる。
そして、亜理砂は立ち上がると頼斗の胸ぐらをつかむ。
頼斗の服の首の部分には血がついていた。
「受け止める!?何でそんなに斎藤さんは冷静でいられるんですか!?」
「知るかよ!自分でも何でこんなに冷静でいられるかわかる分けねぇだろ!」
「・・・チッ」
亜理砂は舌打ちをすると頼斗の胸ぐらを掴んでいた手を乱暴に離す。
頼斗は最初からいた席に座る。
亜理砂も先程までいた場所に戻る。
「大丈夫?」
「え?・・・あぁ、気にしないでください」
亜理砂は看病してくれたであろう女性に笑顔を見せる。
「そう言えば、あなたお名前は?」
「佐々木 亜理砂です。うみほたる第一高等学校の1年でした・・・」
「そう、あのうみほたる島・・・私は上田 優香里(うえだ ゆかり)静岡聖光学院高等学校普通科の3年だったの。よろしくね」
優香里は左手を亜理砂に出す。
「こちらこそ」
亜理砂は右手を出して軽く握手を交わす。
バスは静岡県と愛知県の県境にあるトンネルに差し掛かろうとしていた。
「私たちの銃は何処なんですか?」
「銃なら前の方の席で警察の人が預かってるわよ」
「そうですか・・・」
「もしかして、大切な人の遺品だった?」
「遺品・・・そうですね。遺品につい最近なったばかりです」
トンネル内部は電気がついていたが、路肩には事故車両が何台も壁に衝突しているのが見えた。
「優香里さんのご両親は?」
「・・・死んだわ」
「・・・ごめんなさい」
「・・・別に良いのよ・・・気にしてないから」
気まずい空気が周辺に流れる。
優香里は外を見るがトンネルの風化している壁しか見えなかった。
「殺したんだけどね・・・」
優香里はボソッと心で思っていたことを呟いた。
「何か言いましたか?」
「ううん。なんんでもないわ。独り言よ」
「殺したって・・・」
(チッ・・・聞かれてたか)
「殺したっていってもあの感染者なんだけどね。まぁ、その感染者に父と母を殺されたんだけどね」
「そうなんですか」
バスは新東名高速道路から東名高速道路に入った。
数時間前
優香里は学校が早めに強制下校となり自宅に帰っていた。
自宅はアパートで父親の新矢(しんや)と母親の秋穂(あきほ)の3人暮らしだった。
秋穂は前の夫を交通事故で亡くし、新矢と再婚していた。
優香里は静岡から逃げるために荷物をまとめていた。
「おい!優香里!準備はできたのか!?」
新矢が優香里の部屋のドアを勢いよく開ける。
「まだです・・・」
「んだと!?早くしやがれ!化け者共はもう来てるんだぞ!」
「あなた・・・それくらいにしてあげて・・・」
後ろから秋穂が声をかける。
「うるせぇんだよ!」
バシッ
新矢が秋穂の頬を平手で叩く。
「準備できました!」
優香里がバックをもって立ち上がる。
「遅ぇんだよ。今度こういうことがあったら化け者共の餌にしてやるからな」
優香里と秋穂は俯いたまま喋らない。
3人はアパートの部屋からでるとアパートの近くの静岡競輪場に向かうことにした。
アパートの外からは競輪場の奥の製作所の工場から火の手が上がっているのがはっきりと見えた。
そして、その方向に何台もの救急車や消防車が走っていくのが見えた。
「さっさと行け」
優香里は新矢に背中を押されてアパートを出た。
感想待ってます。




