記憶33 北エリア沈没
4階のファッションフロアに着くと、明らかに服の数が減っていた。
「みんな持っていってるんですね」
「良いんじゃない?どうせここも廃棄される運命なんだし」
ゴゴゴゴゴゴ
突然地響きらしきものが響く。
「何だ!?」
「まさか・・・!」
和花はフロアの窓から外を見る。
外には北エリアが広がっていた。
「まさか北エリアが沈むんじゃないだろうな」
「沈むわよ」
和花の行った通り北エリアが徐々に沈んでいた。
バキャ
バキバキバキバキ
北エリアに亀裂が走る。
亀裂の所にあった建物はどれもが崩落していた。
「すげぇ・・・」
中央管理棟にいた人達は全員といって良いほど北エリアを見ていた。
ゴゴゴゴゴゴ
北エリアのマンションや、アパートが建ち並ぶ方でマンション等が崩落していく。
住宅街の方はもはや住宅は完全に屋根まで水没していた。
ゴゴゴゴ・・・ゴ
「止まった・・・」
北エリアの浸水は止まり、水面から出ているのはうみほたる島中央公園時計台とマンションなどが少し位だった。
「次はこの南エリアか・・・」
「まだ大丈夫ですよね」
「多分ね・・・」
頼斗と亜理砂はそれぞれ銃弾を回収する。
「もう挑みます?」
「そこら辺は亜理砂ちゃんが判断してね。私達が決めることじゃないからね」
「一回薬局にいきましょう」
頼斗達は4階を降りて3階の薬局に向かう。
薬局の中の包帯など外傷を負った時に使う医療品はすべて空っぽだった。
「あ、もう挑むの?」
千秋が薬局の調剤室で薬品を混ぜていた。
「まだみたいよ」
和花が亜理砂の代わりに答える。
「まぁ、いつでも良いんだけどね」
千秋は薬剤の入った棚を見る。
「新しいウィルスの研究か?」
頼斗は憎たらしく言う。
「いや・・・ワクチンを作ってるんだけどね・・・前みたいには出来ないね」
千秋は白衣のポケットからおにぎりを取り出して、包装を取ると食べる。
「前には出来たのか?」
「そう。2年前に出来てた」
「・・・私は少し屋上行ってます・・・」
「ついていこうか?」
優衣が優しく話しかける。
「一人でいいです・・・」
亜理砂は薬局に上下二連式散弾銃を置いて出ていってしまった。
「行っちゃった・・・」
「話を戻すが、2年前に出来てたんだな?」
「そうだって」
「なら、何で公表しなかった?そうすればこの大惨事は防げたはずだろ?」
「そうなんだけどね・・・政府の人間がいきなり来たと思ったらワクチンを割ったんだよね」
「何でそんな無益なことを政府の人間が?」
「私が知るわけないでしょ。そんで、押さえつけられて開発途中のどんな効果があるか分かんない薬を射たれてこうなったって訳」
「研究データみたいなのは無いのか?」
千秋は首を横に降る。
「家ごと灰になったわ」
「・・・」
頼斗達は言う言葉がなかった。
「それより亜理砂ちゃん呼んでこなくて良いの?」
「俺が呼んできます!」
頼斗が薬局から出ていく。
「青春だねぇ」
千秋はそう言うと、2個目のおにぎりを取り出して食べる。
頼斗はエレベーターで最上階まで来ていた。
「おーい!どこだー?」
頼斗が叫びながらヘリポートに進むと、亜理砂がヘリポートの真ん中で座っていた。
「こんなとこで何してるんだよ」
「・・・夕日を眺めてるんです」
空は夕日で赤く染まっていた。
頼斗が亜理砂に近づこうとするとヘリポートに落ちていた空薬莢を踏んで派手に転ぶ。
「グヘッ!」
「プッ・・・!」
亜理砂が少し笑う。
「いたたたた・・・」
頼斗はドラグノフを杖の代わりにして立ち上がる。
頼斗は亜理砂の横に座り、一緒にもうすぐ沈む夕日を見る。
「お前は本当に最上を殺したいのか?」
「・・・」
亜理砂はなにも答えない。
「何か俺には殺したくないように見えるけどな」
「気のせいですよ・・・」
「そうか・・・まぁ、俺の両親もあいつのウィルスが原因で死んじまったんだけどな」
「そうなんですか・・・最上を恨んだりしないんですか?」
「もう4年前の話だからな・・・もうどうでも良くなってるんだ」
夕日は完全に見えなくなって辺りは照明がヘリポートを照らす。
亜理砂は立ち上がる。
「行くのか?」
「はい」
頼斗、亜理砂は3階の薬局にエレベーターで向かう。




