66.次にやるべきこと
激辛唐辛子水を飲ませたのはあくまでも刀身を出すきっかけを作るための手段だったので、ミラージュは失神するほどのその水をこれ以上マイクに飲ませたりはしなかった。そして、マイクに与えられた次の課題は、出せる様になった刀身を長く出し続けるれる事。マイクは一心不乱に刀身を出し続けていた。
修行と言ってもただ刀身を出し続けるだけ、他は何もやらせてもらえない。この第二弾の修行が始まってからマイクはミラージュの作った魔力を回復させる液体を何杯飲んだだろう。もう何も飲みたくないと思う程、胃がパンパンになっていた。だが、その甲斐もあってかマイクは冷や汗を掻きながらも、30分くらいは刀身を出現させられるようになっていた。
「まあ、随分と刃を出せるようになったな。では、少し実践に入ろうかの。お前さんは剣術の方はそこそこ出来そうだからその妙な剣に慣れる訓練をしよう。おい、付いて来い」
ミラージュは手をクイクイと手招きをして、表の方へ歩いて行った。ほぼ素人扱いするミラージュにマイクは見つからない様に軽く口を尖らせた。
「そこそこだなんて、ミラージュさんには俺が剣術を得意なのを教えてやらないといけないな」
そう独りで呟いたマイクは刀身の出たスカルサーベルを片手に鼻息荒く屋敷の外へ飛び出した。
家の裏手に回ると庭の様なスペースがあり、そこには沢山の丸太が積み上げられていた。
「おい。これからその丸太をお前に投げるからその剣で縦十字に切り裂いてみろ、正確にだぞ」
切り株の上に腰を掛けたミラージュは指先をクイっと捻り、魔法で丸太を一本宙に浮かせ、マイクに向かって投げつけた。
結構なスピードで飛んでくる丸太にマイクは両手でスカルサーベルを握り直し、ヒュンヒュンとそれを十字に切った。すると、マイクに向かって飛んできたはずの丸太は四分割されて地面にカランカランと音を立てて、転がった。
「どうですか?俺の剣を見てくれましたか?」とマイクがミラージュの方に目をやると「馬鹿たれ、一本だけのわけなかろう」と再び丸太を飛ばしてきたのだ。
「ほれ、連続でどんどん行くぞ、気を付けろよ」
そう言いながらミラージュは丸太をどんどん放り投げてくるのだ。それも、多方面から。
「うっ、くそう。ハァハァハァ……」
普段のマイクならこれ位で息切れを起こしたりはしないのだが、なんせまだ体になじんでいない魔力を使いながらの剣術だ、ほんの十分ほどで目の前が真っ暗にあり倒れてしまった。倒れた上から丸太がぼとぼとと落ちてきて、マイク自身が知らぬ間に青あざだらけになっていた。
「なさけないのぉ……ほれっブレンドじゃ(バシャ!)」
ミラージュは回復薬と魔力回復薬のブレンド液をマイクの身体全身に浴びせた。
「うわぁ!」
犬の様にブルブルブルッと顔を震わせ、マイクは目をパチクリ。魔力と体力が回復したので目が覚めたのだ。
「おいおい、もうくたばったのか?丸太はまだまだあるぞ」
やれやれとため息をつくミラージュにマイクは力強くスカルサーベルを握り直し奮起する。
「まだまだ!」
こうして、倒れては薬を浴びせられる修行を延々と続けていると、それを額から汗をひとすじ流しながらジトッーと見ている男がひとり。
「おお、遅かったな。今帰ってきたのか」
ミラージュはその男に気付いて声を掛けた。たった今『黄魔』の採血を終えて帰ってきたレアだった。その声を聞いてマイクもレアの存在に気付いた。
「レアおかえり。どうだ見てくれ、俺も刀身を出せる様になったんだぜ」
マイクは自慢げにスカルサーベルの青い刀身をレアに見せつけた。
「ああ、よくやったな。で、お前今何をしているんだ?」
「ああ、ミラージュさんに修行を付けて貰っているんだ。まあ、居合切り?みたいな?より実践に近い訓練をしながら俺の魔力のキャパを増やして貰っているのさ」
レアはマイクを調べてみると確かに魔力は随分増えている。だが、どう見ても訓練というよりも……
「どう見ても薪割を手伝わされている様にしか見えないぞ?」
「え?」
「ああ、ずいぶん助かったぞマイク。今切った薪をあそこの軒下に積み上げといてくれ、頼んだぞ。はっはっはっ」
笑いながら手をフリフリしながら屋敷に戻っていくミラージュ。
「え?」
修行だと思い込んでいたマイクは顎が外れそうに成ほど口を開けたまま、暫く呆然としていた。
◇ ◇ ◇
「で、成果はどうだったんだ?」
屋敷に戻った三人はテーブルを囲みレアの調査結果と『黄魔』について話し合っていた。
「ああ、『黄魔』に関しては異星人が関与していたよ。もう死んでしまったがな、そいつが『黄魔』を作っていた。奴がどれだけの魔物を『黄魔』にしたのかは定かではないが、五十体は居るらしい。残念ながら今の所それらを特定することは出来ない」
続いてレアがロバーツの実力と能力を話している時、ミラージュは眉間に皺を寄せた。
ロバーツが言っていたあいつの事に関しては不確定要素が多すぎるので、何も言わずに伏せていると、ミラージュはこんな事を言い出した。
「そいつはおかしいぜ、そのロバーツとかいう奴の他に誰かが居るんじゃないか?だってよぉ、それだけの実力のあるやつだ。わざわざその『黄魔』とやらを作らなくとも、この街くらい一人で制圧できるだろう。聞くところによると、お前以外そいつに勝てる奴なんて居ないぜ」
やはり、ミラージュもその辺りに引っかかりを感じたようだ。確かに俺さえ居なければ、ロバーツ一人でもこの街を制圧するくらいは容易いだろう。ロバーツの言うあいつは誰の事かは判らないが、後ろで糸を引いている奴はきっとそいつだ。それもロバーツよりも強い奴。
一体どんな奴だ、そいつは……
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