59.お前は……
第五部開始します。
第五部終了まで概ね二日に一度投稿します。よろしくお願いいたします。
木に隠れながら生命力8万の人物を観察していると、僅かに俺の潜在的エネルギーが漏れ出ていたのだろう。いきなり動きを止めたそいつはもの凄い速さで俺の元へと飛んできた。
こいつも浮空術が使えるのか……
そいつはレアのすぐ前、約1メートルの地点にまで飛んできて、ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべていた。
ん?こういう奴、何処かで見たことがある。
現在、俺は自身の生命力を抑制できる最低限の585まで抑えてある。どうやらそいつは検知魔法を持っており、俺の生命力の低さを判断して無警戒に俺の前に姿を現したのだろう。
そいつは黒いヘルメットを被り、近衛兵の様な黒い上着を装着し、下は黒い革のズボンに膝下からあるブーツだ。そう、こいつは惑星サージアの帝国軍の兵士だ。何故ここに帝国軍の兵士が居るのだ?帝国軍がこの星にまで侵略に来ているというのか?それとも、俺の様に何かのきっかけで飛ばされたのか?
レアは最大限に頭を回転させた。
後者であったとすれば最悪な状態だ。こいつだけなら兎も角、いくら俺が最強だとはいえ、帝国軍の軍隊相手にひとりで戦うには危険すぎる。最低でも俺が惑星イメルダの魔術騎士だと知られない様にしなくては……
だが、これはチャンスでもある。うまくいけばこいつの宇宙船を奪取して惑星イメルダに帰星できるかも……取り敢えず、こちらの事を知られない様にしながらうまくこいつの情報を引き出さないとな。
レアはワザと一歩後ずさりをして、とっさに怯えたふりをした。
「だ、誰だお前は?お前の様な冒険者はギルドで見かけた事とが無い。そ、それに一人でダークバイソンと戦おうとしていたのか?それとも、魔物を操ることが出来るのか?」
男はニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべたまま、質問には一切答えず、レアに問いかけてきた。
「へへへ、そんなに低い生命力でよくここまで来られたな。お前は何しにここへ来た?ダークバイソンというのか、そこにいる牛の様な魔物は。そいつを狩りに来たのか?それとも調査にでも来たのか?お前ひとりなのか?」
ダークバイソンを知らないとは、やはりこいつはこの星の人間じゃないな。
「そ、それよりも俺の質問を……」
「うるさい。死にたいのか?お前は俺の質問にだけ答えたらいいんだ」
口を挟んだレアに対して、男は声を荒げ手刀で空を切った。するとレアの横に立っている真っ二つに切り裂かれた。切り口は鋭い鉈で斬られたように綺麗な木目が露になている
切り口が綺麗だ、風魔法で切り裂いたな。魔力もそれなりに高い。
「判るか?俺はお前なんて何時でも殺せるのだ。死にたくなければ俺の質問にだけ答えろ」
男は手刀をレアの喉元に当てながらそう言った。レアは急いで体温を下げ顔から血の気を取り除き、僅かな水魔法で額から水を垂らした。
顔面蒼白になってガタガタ震え、冷や汗を掻いているこの姿、どうだ、見事だろう。映画に出ていたら名演技賞を貰えるぞ。
「お、俺一人で、こ、ここに来た。こ、こ、ここに来たのは調査の為だ。魔物を食う魔物が出た為に調べてこいというギルドからの依頼だ」
「ほほう、魔物を食う魔物だと?それでそいつはどうなったんだ?」
男は腕を組みながら興味深そうに聞いてきた。知らないふりをしているが、俺にはその魔物を作り出したのはこの男だという事が解かっている。俺の返答次第でこの後の方針を立てようとしているのだろう。
「ま、魔物が強すぎて怪我人が出た。何とか倒すことは出来たが、あんな奴が増えると街は大惨事になる。あ、あんたはその魔物を倒そうとしてくれたのか?」
「おい、質問をするなと言っているだろう。くそう、あの出来損ないどもめ、冒険者如きに倒されやがって……だが、それほどまでに困ったのならこの牛の魔物全部を……一気に……」
「ど、どういう事だ?あの出来損ないとか、牛の魔物とか。一体何の話をしているのだ」
レアは何も知らぬふりをしながら焦った口調でこの男に問いかけた。
「何度言えばわかるんだ、早々に死にたいのか?俺に質問をするなといているだろう。まあいい、一ついい事を教えてやろう。あの魔物を作ったのは俺だ」
はい、『黄魔』を作ったという証拠を頂きました。先ずは一つ目の言質を頂いた。やはりこの手の奴はちょろい。
思わず笑みを浮かべそうになるが、そこは何とか気持ちを制止しレアは引き続き演技を続ける。
「な、なんだとあんなに危険な魔物を作ったって?な、何故そ、そんな事を……」
「何故って?フフフそんな事決まっているではないか。この星を俺の物にするためだ」
この星と来たもんだ。ここで生まれた人間ならそんなセリフは思いもつかないはず。異星人であるという二つ目の言質もゲットだ。
「こ、こ、この星とは一体どういう意味だ?」
絞り出すような声で独り言の様に呟いたレアに、男はわざとらしく大きなため息をついた。
「お前、面倒くさい奴だな。まあいい、冥途の土産に教えてやろう。俺は偉大な惑星サージア人だ。そして、この星の王になる男だよ」
「わ、わ、惑星サージア?な、何を言っているんだ?こ、この星の王?」
慌てている様に振舞って見せたが、慌てては居ません、更なる情報ありがとう。
どう見てもこの男は単なる一兵士にしか見えない。一介の兵士がこの星の王になると宣言するという事は、ここには単独で来ているという事を宣言している様なものだ。もし、隊として来ているとしたらそのセリフは吐けないはず。仮にこいつが独りじゃなかったとしても、こいつが王なのだから他の奴はこいつより下っ端なのだろう。だが、自らが魔物を使役するように動いているのだから、やはり仲間がいるとは考えにくい。
後は、こいつの宇宙船が有るのかどうかだけだな。
「やはり田舎だなここは、偉大な惑星サージアを知らないとは……まあいい、そうだ王だ。俺は全宇宙最強を誇る惑星サージアの王だ。フフフフ。さて、お前はラッキーだったな。今日の俺はとても気分がいい、うまく大量の牛の魔物を使役することが出来そうなのだからな。そうだ、喜べ、お前の命は助けてやる。直ぐに街に戻り偉大な新たな王ロバーツ様に服従する様伝えてくるのだ」
男はふんぞり返り大きな声で笑い立てた。
お前はロバーツと言うのか。まあ、お前の名前などどうでもいいがな。
嘘つきめ、何が惑星サージアの王だ。帝国軍の皇帝はヴァンダーヴォート だ。お前じゃない。そのセリフこそがお前が此処にひとりでいるという事を証明するものだ。他の兵士が居たらたちまち殺されるぞ。
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