58.新たなる……
この話で第四章完結です。
「残念だな、折角レベルアップをしたところなのだが、お前には死んでもらう事になる」
こんな危険そうな奴、生かしておけばロクな事にはならない。それにミラージュから捕食者の血を取れと命令されているからな。
「お前がいくら強さに自信を持っていても悪いが格が違う。そのイカレた頭でその事を思い知るがいい」
なんてな、どうせこいつには言葉など通じまい、折角のソロ活動の場だ、好きな事を言いながら戦わせてもらうぞ。
案の定、俺の言葉など全く無視をして黄色い体のヒドラはまるでコブラが獲物を攻撃するかの如く、鋭い牙の生えた大きな口を開き俺を捕らえにかかって来る。ヒドラ同士の戦いで圧勝したとはいえ、所詮俺にとってはミミズ程度の強さだ。話にならない。
俺は飛びかかってきた一本の首を細剣で分断させてやった。その断端から黄赤色の液体が噴き出してくる。以前戦った時にはあまり気に留めていなかったが、これが奴の血液に違いない。他の八本の首が襲い掛かって来るところを俺は巧みにかわし、血液を採取する。
「悪いな、もうお前には用はない。早々に消えて貰おう」
試験管に血液を採取した後、再び細剣を構え「お前ごとき片手で十分だ」と赤面するようなセリフを発してしまい、少々後悔。
気を取り直して再生しかかっている首も含め、一気に切断してやった。切断された首がピクピク動きながら徐々に消滅していく。巨体が二体も倒れ込んだ為、木はなぎ倒され、ぽっかり空いた空間に太陽の光がなだれ込むように降り注ぐ。
「眩しい……これだけ日の光が入るようになったのだから、この辺りは別の植物が生えてくるかもしれないな」
日の光に照らされ、美しい緑色に輝く魔石を回収した後、採取した血液をじっくり眺めてみた。
先に倒されたヒドラの血液がまだ地面に残っていたので、それと比較するとやはり黄色が強調された血液だ。
「この黄色に染めている物質が何かは判らないが、こいつが何らかの影響を与えている可能性は十分考えられる」
俺はこの黄赤色を持つ魔物、つまり魔物を喰らう魔物の事を『黄魔』と呼ぶことにした。自分で言うのもなんだが、素晴らしいネーミングである。ただ、もしこの場にアリスが居たら横目で見られて口角を少し上げ、フッと笑われるのではと感じるのは何故だ。
……ネーミングおかしいかな?いや、大丈夫なはずだ。自分にそう言い聞かせ、何故か今ソロだったことにホッとする俺。おっと、こんな事を考えている場合ではなかった。
先ずは一体目終了。一応ミラージュに言われた最低限の目的は達したが、受け取った試験管は三本。やはり他の種の『黄魔』の血液も採取した方がより調査は進むだろうし、このまま帰れば「たった一本か?」と嫌味を言われそうな気がする。そう言われれば「たったもすわったも寝転んだもない、一本は一本じゃ」と言ってしまいそうだが、そこは自重して最低もう一体の採血はしておくことにした。
ここに一体居たのだから、この辺りで他の『黄魔』も探す価値はありそうだ。奴らの性質は判った。同種よりも生命力が高めで意思が無く、ただ見境無く他の魔物を襲いながら喰いつくす黄赤色の血を持つイカレタ魔物だ。
俺は空間認識魔法を行った。同種の中で特異な奴を探すのだ。
ここから東へ約20キロメートル、森の向こうに平原がありそこに約五十体程の魔物の群れが居る。一体の生命力は3,000程度、魔物の形からしてダークバイソンって奴だ。ダークバイソンは集団で行動していると百科事典に載ってあった。だが、不思議な事にそれらの集団に全く動きが無いようなのである。普通なら少しくらい動いていても良さそうなものだが……
そして動きのない約五十体のダークバイソンの中に生命力が6,500位持っている特異な奴がいる。それも十体だ。その十体は『黄魔』なのか?もしそうなら何故そいつらだけ『黄魔』になっている?
それになぜ『黄魔』は群れの中に居るのだ?群れの中に『黄魔』が居れば、今までの傾向から他のダークバイソンは逃げ纏う気がするのだが、一体?……そもそもそいつらに動きが無いのも変だ。
俺の思い過ごしか?生命力が高いのはその群れの幹部的存在である可能性も考えられる。のか?それにしては、生命力に差がありすぎだろう。
仮に、そいつらが『黄魔』だとすると、その辺りに魔物を『黄魔』に変わる原因が存在するのか?もしかして、その辺りに生息する植物か何かが特別変異して、それを食うと『黄魔』になるとか?
頭をフル回転させながら思いつく原因を検索した。が、取り敢えず、行ってみるしかない。
動きが無いのが気になる為、俺は空間認識魔法の感度を上げてみた。なんだあれは?その中心に妙な揺らぎを感じる。何かが居る、ダークバイソンの群れの中に別の奴が存在するのだ。
な、なんだ?『黄魔』中に桁違いの生命力を感じるぞ。生命力は約8万、ダークバイソンの群れの中でそいつは一体何をしているのだ。
そいつはどうやら意図的に幻影魔法の一種を使って、潜在的エネルギー(オーラ)を押さえ込んでいるようだが俺には判る。そのお陰で魔物かどうかも判らないのだが、明らかにこの星の生き物とは比較できない程の強さだ。
俺は移動のペースを上げた。
◇ ◇ ◇
安全を保てるぎりぎりの範囲で、出来る限りの潜在的エネルギー(オーラ)と気配を押さえながら、俺はダークバイソンの群れの居る場所に近づいた。
この辺りの地形は先程の樹海とは違い、サバンナに近い感じである。それも相当広い。ダークバイソンの様に集団で走り回る魔物にはもってこいの場所で、魔素濃度の関係かこの辺りだけ気候が違う様に感じる。背の高い草木が殆ど見当たらない。よって、俺はあっさりダークバイソンの群れを見つけることが出来たのだが、どうにも身を隠すところが少なすぎるのだ。
出来ればもう少し近づいてこっそりと様子を伺いたいのだが……
俺は所々にある岩と、単独で突っ立っている木の陰に身を隠しながら、ダークバイソンの群れに近づいた。そして、視力を強化すると驚くべき光景が目に入ったのだ。
近づいて初めて分かった事だが、すべてのダークバイソンがまるで作り物の様に全く微動だにしないのである。だが、生命力を感知できるので作り物ではない、確実に生きている。ただ、その中心にいる生命力約8万の奴だけは動き回っているのだ。そいつとの距離は約200メートル。
そして敵か味方か判らないその生き物は俺と同じ人間っぽい姿形をしている。生命力8万の強者、奴はここで一体何をしている?
いつも読んで下さりありがとうございます。
この話で第四章完結です。第五章開始まで暫く時間をください。




