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飛ばされた最強の魔法騎士 とっても自分の星に帰りたいのだが……  作者: 季山水晶
第四章 魔物を喰らう魔物

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50.少女

「うおおお!さすがはマイクさんとアリスさんだ」


「凄いぜ、ベヒモスを倒すなんてよ」


「きゃああ、マイクさん。流石ですう、今度一緒に食事でも行ってお話聞かせてください」


「アリスちゃん、是非是非、俺のパーティに入ってくれ、特別手当を出すぜ!」


 ヒドラの時と同じ、二人は大喝采を浴びている。もう、揉みくちゃだ、俺以外は……おい、お前ら、俺は荷物持ちだと思っているのか?いくら何でもそりゃないぜ。……まあ、いいけど。でも、マイクは……


 それだけ二人に対する評価が高くなっているのだろうが、その喝采がマイクの心をえぐっていく。彼の表情がだんだん険しくなり、わなわなと震えたと思うといきなり声を荒げた。


「黙っていてくれ、俺は……俺は何もできなかったんだ。完全に実力不足だ、ベヒモスを倒したのはそこの二人だ……彼らがいなければ俺は死んでいた……」


 やはりこうなったか。マイクのお陰で討伐が出来たというのは決して嘘ではない。アリスだけなら俺が出て行かないと絶対に倒せなかった。落ち込むマイクに何度も何度もアリスはそう言ったし、俺もそれに同意をした。だが、自分の考えている通りの役割を果たせなかった事が許せなかったのだろう。


 それに大きく間違っている所がある。今回俺は全く手を出していないのだ。だから倒したのは()()()()()ではない。


 マイクはテーブルをダンッと叩き、歯を食いしばりながら冒険者ワーカー達を掻き分け、外へ出て行った。


「あのマイクさんが?どういうことだよ?」


「……マイク様……」


 多くの冒険者ワーカー達が困惑する中、そんな事を全く気にしない様子で、頭まですっぽりと被ったローブを身に纏っている一人の小柄で若い女性冒険者(ワーカー)が俺に声を掛けてきた。


「あなたがレアさんね。うん、お友達から始めましょ」


 ? 一体何を言っているんだ、こいつは……


 そう言うと女性冒険者(ワーカー)は頭にかぶっているローブを下ろした。なんと女性というより少女、見た目はいっていても十歳くらいでまだ身体も成長しきれていない。おまけに黒髪のショートカットなので仮に後ろから見ると男児と間違えられてもおかしくない。


 声も変声期を迎える前の男の子だとこんな声もありうるので、わずかな身体のラインの違いから辛うじて女性と判ったのだが、それにしても「お友達から始めましょ」とは一体どういう意味だ?


「えっと……君は……」俺がそう言いだした時である。


「ちょっと、レア!いつの間にそんな女の子を口説いて!何考えているのよ!どう見ても幼子じゃないの、あんたにそんな趣味があるとは思わなかったわ、それ犯罪よ、犯罪!」


 いきなりアリスが俺の襟首を掴んだ。俺の事をあんた呼ばわりかい、一応師匠なのに。それにしてもお前、興奮しすぎだろう。


 しかしまあ、この娘の勘違いなのは間違えないので、誤解など直ぐに解けるだろう高を括っていたのだが……


 こんな娘、俺には全く見覚えが無い。その少女はキョトンとして首を何気に傾ける。表現のし難いあどけないポーズ、どう見てもわざとやっている様にしか見えない。おい、傍観していないで何か説明しろ。


「いや、ちょっと待て、絶対何か誤解があるぞ。俺はこんな小娘、見た事も無い」


「そんなわけないでしょ!あんたの名前をちゃんと読んだし『お友達から始めましょ』って言っていたじゃないの。口説かれたけど付き合わない、でも、取り敢えずキープみたいな感じじゃないのさ。で、それ喜ぶの?喜んだらいいじゃないの、完全に振られたわけじゃないんだからさ!ううわぁ、あんたにそんな趣味があるとは思わなかったわ、幻滅よ幻滅」


 遂には汚いものを見るような目つきで、更にアリスはえらい剣幕で突っかかって来る。やれやれ、取り付く島もない。それに見ろ、アリスが騒ぐから周りに居る冒険者ワーカー達のコソコソ話しが聞こえて来る。


「うわあ、あいつロリコンだったのか……」


「尊敬していたのに最悪……」


「引くわぁ、アリスちゃんもあの人に騙されたのよきっと」


「何か、足も臭そうだしね……」


 おいおい、この話と関係ない悪口まで聞こえて来るぞ。あらぬ誤解の元凶である少女はそれらの声を聞きながらニヤニヤしている。すると俺の後ろから何やら殺気が……


「レア!あんた女の子になんてことをしようとしているのよ。成敗するわ」


 何処から持ってきたのか判らないごついハンマーを肩に抱きながら、突如として現れたヤックが鬼の形相で迫って来る。石の下に隠れていた虫たちがその巣を暴かれて慌てて逃げだすように、俺の周りからサササッと冒険者ワーカー達が散っていく。俺の傍に居るのは仁王立ちのアリスとその娘だけになってしまった。こうしてヤックが誰も気にせずにハンマーを振り回せる準備が整ってしまったわけだ。周りの奴らはもうマイクがしょんぼりして出て行った事などすっかり忘れて、これから起こりうる俺の未来に夢中になっている。


 そんなに俺がぺしゃんこになる所を見たいのか……


「ちょっと待て、お前ら、何故に俺の言葉が耳に入らぬ。俺は本当にこんな小娘など知らぬ。そもそも、ここに居るのだからこの娘は冒険者ワーカーじゃないのか?ヤックなら知っているだろう?」


 俺は慌ててヤックを制しながら、少女の肩を掴みヤックの前に連れ出した。ヤックは少し難しい顔をしながら少女の顔を眺めつつ、自身の顎に手をやり首をかしげた。


「うーん、見た事ないわねぇ、お嬢ちゃんみたいな若い女の子冒険者(ワーカー)になれないと思うよ?ごっこ遊び……でもしているのかな?」


 ごっこ遊びと言われて少女の顔も歪む。そして腕を組み頬を膨らませながらちょっぴり悪態をついた。


「本当にあたしは冒険者ワーカーだよ。でも、長らく依頼をこなしていないからお姉さんも私の事を見た事ないかも。それでも、あたしを知らないって、お姉さん受付嬢でもかなり()()()()()()じゃないの?」


「(カチン)な、な、な、何を……優秀な私に向かって素人ですって!ちょっとレア、こんな礼儀知らずな娘何処から連れてきたのよ」


 どうあっても怒りの矛先は俺の方らしい。だから、さっきから言っているだろう知らんって。そんでもって、長らく依頼をこなしていないって、お前一体幾つなんだ?適当な事を言いやがって……


「もう、ちょっとお前は一緒に来い」


 このままでは収拾がつかぬ、俺は少女の腕を取り表へ連れ出した。


いつも読んで下さりありがとうございます。

レア「俺は無実だ」

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