4.ギルドの冒険者(ワーカー)たち
「それにしても変わった服をしているな?どこの出身なんだ?」
ギルドに向かう途中、マイクはさりげなく俺の服装を問うてくる。ここで迂闊に本当の出身地を言ってしまうと、記憶喪失という事は嘘になる。地味に探りを入れているのだろうな、油断のならない奴め。だがその気持ちは分からないではない。ギルドに連れて行くと言った手前、何かあればその責務は彼に有る。俺に不審な行動があれば、自身で対処をするつもりで案内をしているのだろう。つまりマイクは「自分以外にはこの男は倒せまい」と思っているからこそ、その役を買って出たって訳だ。決して俺に気を許したわけではない。その背景にあるものは、この街の治安によるものか、もしくは別の街、または国との関係性なのかはわからないが、そういう輩が出た時には、自らが掃除屋になっているのだろう。
「すまない。本当に自分が誰だか判らないんだ。ただ、俺の服装はこの街の人とは違う。自分が誰だか判らない以上、極力目立ちたくはない。直ぐに金を稼いで目立たない服装に着替えたいんだよ、現にさっきも絡まれたしな」
「ああ、記憶喪失……そうだったな。さっき聞いていたな、すまなかった。思い出すにあたり、何か協力できることがあれば惜しまないぜ、何でも言ってくれ。それと、絡まれたとはどういうことだ?」
俺はマイクにチリチリ髪の男とのやり取りを話すと、マイクは「ああ、あいつは蝮のゲルダと言って、『ブラックシューズ』と言うこの街のマフィアの一員さ。よく無事だったな。街の人は目を付けられない様にみかじめ料を払っているぜ」と教えてくれた。
みかじめ料とは金を出す代わりに、絡まれない様にするためのものだな。街全体でそんな事をやっているとは、奴らをつけあがらせるだけだと思うが。
奴らを簡単に倒してしまったが、どうやらそれで終わりと言う事は無さそうだ。その話を聞くとお礼参りに来る可能性は十分にあり得る。「厄介なやつに絡まれたな」とマイクは同情してくれたが、まあ、別段大した事ではない。その気になれば『ブラックシューズ』自体を壊滅させる事くらい、俺にとってはたやすい事だ。だか、基本的には別世界の事情に介入するつもりはない。その世界のバランスを崩してしまう可能性があるからだ。
まあ、そういうハイエナの様な輩は何処の世界にでもいる。おっと、ハイエナに失礼か。ただ、街の人も泣き寝入りという事は、その『ブラックシューズ』やらはこの街の治安部よりも力を持っているという事か。だが、それは街の住民が何とかすべき問題であって、俺がしゃしゃり出る所ではないのだ。ただし、奴らが俺の生活に介入してきた時は例外だがね。
黙って話を聞いていると、マイクは話を続けた。
「冒険者も弱い間は目を付けられるから、腕に自信が無ければ強者の冒険者と契約関係を結んだ方がいい」
マイクが言うには冒険者達には集団があって、必要時に協力をしあっている。集団に所属すると会費は必要だが、その会費を元手に集団として武具を買ったり、活動資金にしながら難易度の高い依頼もこなしたりするのだ。それに集団に入っていると、マフィア達に目をつけられない様、冒険者になると直ぐにどこかの集団に所属をするのが一般的なのだそうだ。まあ、俺には縁の無い話だな。
「で、マイクは何処かの集団に所属しているのか?」
「ん?いや、俺はソロだ。必要な時に助っ人として手伝ったりはするがね、どうも派閥って奴は性に合わなくてな」
マイクは苦笑しながら頭をポリポリ掻いた。ソロで絡まれないという事は、ブラックシューズの奴らから警戒されているか、何らかの繋がりがあるかのどちらかだろう。俺は前者であって欲しいと思うのだが。
そうこう言っているうちにギルドの前に到着した。石造りで5階建て、大きな建物だ。確かに見た目は「腕に覚え有り」というような奴らが出入りしている。それに、杖を持っている奴もいるな。その雰囲気からして、魔法を使えるやつもいる様だ。
相変わらずここでもジロジロ見られてはいるが、誰も関わってはこない。それに時折、通り過ぎる奴がペコリとマイクに頭を下げている。マイクは冒険者の中でも上位に位置する存在なのだろう。
「ちょっと待ってろよ、ここは身分の分からないものには厳しいんだ。俺が話をつけてやるよ」
受付が近くなったところで、マイクは俺を置いてそちらへ行ってしまった。すると、今まで遠巻きに見ていた冒険者達が、物珍しそうに俺の元へと集まってきた。
「おいお前、若いな、新人か?変な服を着ているな。マイクさんとはどういう関係だい?」
「おいおい、俺が先に目をつけていたんだぜ、俺の集団に入らないか?冒険者のイロハをたたき込んでやるぜ」
「マイクさんと知り合いだからっていい気になってんじゃねえぞ。寝首を書かれない様に気を付けな」
「ちょっと、坊や、そんなごつい奴の相手なんかしないであたい達の集団に入りなよ。女性が多い方が楽しいわよ」
凄んでくる奴や、魅力的な足をちらつかせる女性等、口々に話しかけてくる。まあ、沢山の語彙を提供してくれるのは有難いのだが、正直煩わしい。それにしても老若男女、獣人を問わず色々な冒険者が居るものだ。いい賑わいだな、こうゆう奴らがこの街を支えているのだろう。
生命力はと言えば高い奴で800程度、平均的にはあのチンピラのゲルダとほぼ同じくらい。要は多少、腕に覚えのあるやつが冒険者になっているという事だろう。こうやって見るとやはりマイクだけけた違いの生命力だ。奴が一目置かれるのは当然の事だな。
それと、見た事も無い俺にいきなり声をかけて来るとは、余程仲間を増やしたいか、マイクと近づきになりたいか、はたまた威嚇をして従わせようと思っているのか。何にせよ、生存競争の激しさが見て取れる。
俺が黙っていると「あらあら、怖がっているじゃないの可哀そうに」とニヤ付きながら揶揄ってくる奴も出てくる始末。煩わしいが、ここは我慢のしどきか。問題行動は起こしたくないが、どうしたものかと思ったその時、マイクが戻ってきた。
「おいおい、お前ら、彼は俺の客人だ。何か言いたいことがあるなら、俺が窓口になるぜ」
少しばかり凄んだマイクが周りに向けてそう言うと、俺の周りの喧騒は閑寂へと変わった。彼の生命力からすれば、他の奴らが彼に口出しできない事は当然だろう。
「奴らがすまなかったな。申し訳ないがレアもこれからは、ああいう奴らの対処方法も覚えていってくれ。さあ、受付へ行こうか」
俺はマイクに連れられて受付へと向かった。
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