30.武具師のロッシ
バルディーニに教えて貰った職人の名はロッシ。この道をまっすぐ行けば店がある。バルディーニが丁寧に店の場所を教えてくれたのだが、彼は「お前たちに店を見つけられるかな?」と、不敵な笑いを浮かべていた。
教えて貰った通りの道を歩いていたが、この通りはまるで裏通りの様だ。ロッシの店などは地図にも載っていないし、とてもバルディーニが推薦するような店があるとは思えない街路だ。
「場所としては丁度ここになるが、このあばら家みたいなところが武具屋に見えるか?」
アリスは武具屋を見て、本当にここがお店なの?と言った疑問の表情を浮かべながら首を横に振った。
「本当にここは武具屋さんなの?人が住んでいる様にさえ見えないよ。バルディーニさん、間違えたんじゃないの?私が知っている武具屋さんはライザーさんのお店から東に500メートル程言った所に有るから、そっちへ行ってみる?」
アリスの言う通り、屋敷の壁は一部剥がれて、屋根瓦も落ちたりしている。木の扉は……開くのか?というくらい斜めになっているのだ。到底、誰かが住んでいるとは思えない屋敷。ただし、屋敷の中からただならぬ気配を感じるのも事実、どうも気になってしまうのだ。
兎も角、ここを勧めたのはなんと言っても巨匠バルディーニだ。見てくれだけで判断するのは彼の顔に泥を塗るのと同じだ。せめてノック位はしないとな。
「いや、折角バルディーニが教えてくれたんだ。彼が推す位だからそうといい武具を作るのだろう。この先の事を考えるとアリスにはよい防具を装着してやりたい。だから、取り敢えず扉は叩く」
俺の意見にアリスは渋々頷く、余程ここに入りたくないのだろう、お化けが出るとでも思っているのかもしれない、早々に俺の背中にへばりついたのだ。
「すまないが、ここはロッシという方の店に間違いはないだろうか?」
ギシギシと軋む扉を開けて中に入ると、俺の常備魔法である『幻影無効』の効果が自動発動された。む?何か魔法がかけられていたのか?
すると、外観からは全く想像が出来ない店中が現れた。中は外観からは想像できない程広く、美しいガラスのショーケースには高価そうな武具が並べられ、丁寧に折りたたまれた様々な衣類や下履きも綺麗に陳列されている。まるで都会のブティックの様である。
「え?あの外観からどうしてこの内装になるわけ?一体どうなっているのよ」
アリスはいきなり変わった光景を見て目を丸くする。こういう幻影魔法を見たことが無いのだ。
拙いな、俺自身にかけてある幻影無効の効果か自然発動してしまった。本来ならば選ばれた者しかこの店に入れない様になっていたのか……魔法の効果を勝手に無効にしてしまうと、店主から警戒される可能性がある。
「おやおや、招かざる客が入ってきたね。それもどえらい奴が二人も、特に男の方のあんたこの星を占領でもしに来ているのかい?」
ほらな、案の定である、敵意丸出しのセリフが俺の耳に入って来る。声のする方に目をやると、話し方からするイメージと全くかけ離れた少女が目を細めながらカウンターの後ろに胡坐をかいて座っていた。そして、返答によっては全力で排除する気でどんどん魔力を貯めているのだ。明らかに俺達を敵とみなしている。
「ちょっと待ってくれ、幻影魔法を勝手に解除させたのは悪かった。ただ、俺の解除魔法は自動で発動してしまうのだ。この店は鍛冶師のバルディーニが紹介をしてくれたのだが、武具職人のロッシに会いに来たのだが?」
俺がそう言うと、その少女はまじまじと俺の顔を見つめた。そして攻撃目的の魔力の蓄積を取り敢えずは解除した。
俺もその少女をまじまじと見つめてやった。膨大な魔力、彼女はロッシの用心棒か何かか?この店にはこの少女しかいないが、武具師のロッシがこんな少女であるわけは無いな……と思いながら見ていると、はたと気付いた。これは驚いた、間違いなく彼女がロッシだ。
ロッシの孫か何かが店番をしているのかと思ったら、長い白金髪に緑の瞳、ピンと跳ねた耳、それに小柄、どう見てもエルフではないか。この星にもエルフが居るのか。それに、魔法に長けたエルフなら優れた武具を余裕で作ることが出来る。
「ねえ、レア。この娘さんはお留守番の人じゃないの?ロッシさんは出かけているのかしら……」
アリスが首を傾げながら耳打ちしてくる。彼女は目の前の少女の膨大な魔力に気付いてはいない。見た目でその少女がロッシだとは到底思えないのだろう。絶対ロッシさんじゃないから、ロッシさんの居場所を聞きなよ、としきりに言ってくるのだ。
「いや、多分、彼女がロッシだ。ああ見えてもう300歳は超えていると思うぞ。彼女は長寿に加えて、膨大な魔力を持ち、優れた頭脳を持つ希少な種族のエルフだ」
俺としてはアリスにその事をこっそり告げたつもりだったが、少女は眉を歪め、耳をピクッと動かした。
「おい、悪口聞こえてるぞ。あたしは耳が良いんだ。誰が300歳じゃ。まだ250年しか生きてはおらんわ」
「ええ、250歳って、またまたそんなご冗談を……どう見たって7つか8つくらいの女の子よ?え?冗談じゃないの?エルフって知らないのかって?何よエルフって。本当にその年齢なら、鶴とか亀とかの血を引いているとか?だって、獣人種だって色々な種族の血が入っているものね。その仲間でしょ?」
俺の冗談をロッシが同調しているとでも思ったらしく、アリスは俺とロッシの言う事を軽く笑い飛ばし、全く信用をしない。どうやらアリスは本当にエルフを知らないのだ。
「おい、エルフを馬鹿にすると呪われるぞ。謝っておいた方がいい」
呪いと聞いてアリスは「ひっ」と言って顔を引き攣らせた。そしてすぐさま俺の後ろに隠れる。
「おい、あんた、出鱈目言うんじゃないよ。その小娘は何でもかんでも信じそうじゃないか。あたしは呪いなんてかけられないよ」
少女の言葉に胸を撫で下ろしたアリスは、すぐさま頬を膨らませ俺を睨んだ。
「ちょっと、レア、何故嘘をつくのよ。やっぱり、エルフって言う種族の話も嘘でしょ。もう何を信じていいのか判らないわよ」
そう言いながら俺の腹部をトントントントン叩いた。そのやり取りを見て少女は頭をポリポリ掻きながら多くなため息をついた。
「一体あんた達何しに来たんだい?用が無いのならさっさと帰っておくれ。あんたみたいに何処から来たのか分からない輩が近くにいると気が休まらないよ」
え?今どこから来たのか分からないって言ったのか?それに入った時に行ったよな、確か「この星を占領でもしに来ているのかい?」と。街じゃなく星と。それは、俺がこの星の人間ではないという事を知っているという事か?
俺は呆然と目の前の少女を見つめていた。
いつも読んで下さりありがとうございます。
ただならぬ相手……防具を手に入れられるのか。




