29.挑発
青髪も茶髪も俺の事をノービスだと知っている様で、上から目線で完全に舐め切っている態度だ。因みに二人の生命力サーチの結果だが、青髪のジャックの生命力は355、茶髪の奴は315だ。実にショボい。
まあ、舐め切っている態度と言えば、俺も青髪の事をダック呼ばわりしているので同じかもしれないが、大きな違いがある。俺はこいつらを舐めても良いくらいの生命力を持ち合わせているのだ。
それとは逆に、生命力300程度のこいつらレベルでは相手の強さを読めないのに強気の態度を取るわけだ。弱いとは悲しいな、相手が俺でなければ、そのつまらない人生が終わっていたかもしれないぞ。
俺がそのような事を考えているとはつゆ知らず、二人揃っている事で更に強気になっているのか、茶髪の方は噛み煙草をクチャクチャさせながらその辺りにペッと吐き出している。見ていると相当不快である。少なくとも自分よりも強い相手の前では見せない行動だ。
「で、お前たち、アリスに何の用だ?」
俺がそう聞くとジャックは俺の肩をポンと突き飛ばした。
「お前には話していない。黙っとけ」と言ってアリスの方を見た。少しイラっとは来たが、まだ我慢だ。
「なあ、アリス、お前が無くしたと思っていた回復薬がカバンの底から見つかったんだよ。申し訳なかったな。もう一度俺達と組まねえか?勿論分け前は折半だ」
「そうだ、ジャックの言う通りだ。ちゃんと調べもせずに疑って悪かったな。もう一度俺達とパーティを組んでくれよ」
茶髪の奴も両手を派手に広げてそう言った。結構リアクションの激しい奴だ。こういう無駄に動きが大きい奴っているんだよな。そういう奴を見ていると、徐々にイライラしてきて、意識を狩りたくなるんだが……いかん、我慢、我慢だ。
アリスはどう思っているのかとそちらに目をやると、下を向きながら身体を縮こませている。なに?こんな奴らが怖いのか。
黙っているアリスにしつこく勧誘する二人。ここはアリス自身が乗り切らなければならない場面だ。俺が黙っていると、アリスは俺の袖を掴み、震える声を出した。
「わ、私、この人と一緒に組んでいるから……それに剣も教えて貰っているので……」
お、よく頑張ったなアリス。
強引に行けば断られるとは思っていなかったのだろう。ジャックは「ちっ」と舌打ちをする。
ジャックに気を使ったのか、茶髪の奴がもう一度アリスに何かを言おうとした時、俺は突如として、アニメに出てくる犬を思い出したのだ。
茶髪の奴、イヌっぽい顔をしやがって、名前がグーフィーだと面白いな。
「おい、お前の名前はグーフィーか?」俺は茶髪の奴にそう尋ねてやった。
「はぁ?誰だそれ?俺の名前はグリフだ。誰と勘違いしてやがる」
近いが違うのか。残念だな。だが、絶対にダックとグーフィーの方がいいと思うぞ。ククク、ドナルドダックにグーフィーにアリスか。パーティの名前はDの付く奴にしたら人気者になれるぞ。
「お前の名前はグリフよりグーフィーの方が似合うぞ。名前を変えたらどうだ?」
「はぁ?舐めてんのかお前、痛い目にあいたいのか?このノービス野郎が」
顔を真っ赤にして、俺に殴りかかろうとするグリフをジャックは制した。すると、悔しそうに歯をむき出しにして、顔を顰めながらグリフは拳を下ろした。ククク、やはり犬だな。だが、ジャックの一声でグリフが止まるいという事は、実力通りジャックの方が立場が上か。
「おいおい、グリフこんな奴放っておこうぜ。それよりアリス、断るなんて冗談だよな。そう言えばお前、大量のサーベルウルフを狩ったらしいな。強くなったじゃないか、それだけ強いのなら俺達と十分やっていけるぜ、それにもっと強くなれる様に剣だってFランクの俺が教えてやるよ。そんなノービスに教わるよりよっぽど俺の方がいいに決まっているだろう」
ジャックはニヤニヤしながらアリスの肩をポンポン叩いた。まあ、お前は気付いていないかもしれないが、アリスの方が格段に強いぞ。どちらかと言えば、教えを乞うのはお前の方だと思うのだが。
アリスの方はというと、やはりまだ怯えている様で、俯いたまま身を縮こませている。ホテルであれほど恫喝されていたのだ、ある意味仕方あるまい。だが、歯がゆいな、怯える必要など全く無いのに……
分かった事は今のこいつらの狙いはアリスの腕と、金に狩場だな。たぶん、俺達がヤックにサーベルウルフの魔石を大量に渡していたところを見ていたのだ。どうせ、剣の指導料とか無理矢理こじつけてアリスの金をせしめるつもりだろう。そして、アリスは強引に誘えば断れないと女だと思っている。その証拠に威圧的な態度が見え隠れしている。
そして、アリスを見ていると、早くこの場から立ち去りたがっている。三人の名前からしたらパーティを組むにはピッタリの様にも思えるが。まあ、アリス以外は本物の名前とは微妙に違うし、それは却下でいくか。
「残念だな、アリスはお前たちと行きたがってはいないぞ。他の微妙に本物とは違う名前の奴を探してくれ、アレスとか、タリスとか……チーム名はダズニーとかにしたらいいんじゃないか?」
「何だ?お前、お前の言っている事は全く意味が分からん。ちょっと死んどけ」
俺の一言で相当イラっと来たのか、ジャックは腰に付けた剣を引き抜こうとしたが、俺はその剣が鞘から3センチメートル抜けた所で柄と刀身を、俺の細剣で切り分けてやった。
(え……)
その時、アリスの目尻がピクリと動いた。
「キン」と音は響いたが、俺の一振りはあまりにも早く、ジャックはまるで気付いていない。まあ、当然だな。250万の生命力を持つ俺が本気で剣を振ったのだから。奴は腕に走った僅かな衝撃は、剣を抜くときに生じたものだと思っている。柄だけになった剣を構えて、刀身を俺に向けているつもりだろうが……
「おい、刃のない剣でお前は何をするつもりだ?」
「え?あ?あぁ!どうなってるんだ!」
ジャックは柄だけの剣を持って狼狽している。その姿を見て俺がクククと笑ってやったら、奴は更に顔を真っ赤にしてグリフの剣に手を伸ばした。
「お前の剣をちょっと貸せ!」
俺は先程と同じように、再び柄と刀身を切り分けてやった。またしても奴らはその事に気付いてはいない。
ジャックは再び俺の前に刃先を向けているつもりだが……
「ククク……おい、さっきからお前何をしているんだ?お前のやっている事は全く意味が解らん、ちょっと死んどくか?」
またもや柄だけを握っている事に気付いたジャックは、顔を真っ赤にしながら地面に叩きつけた。そして握り拳を作り、殴りかかろうと動き出す瞬間に俺は奴の顔の前に細剣の刀身を突き出した。
「いくら相手がノービスでも、丸腰で戦うには分が悪いと思うが、どうだ?」
いきがっていても刃物の前では逆らえまい。ジャックもグリフも冷や汗をダラダラ流しながら、手足を小刻みに震わせている。今のレアは何時で二人に切りかかれる状態なのだ。ジャックは後ずさりをしながら、震える声でお決まりのセリフを吐いた。
「く、くそう……覚えていろよ」
負け犬の様に逃げていく二人の背中を見ながら、大笑いをしているとアリスがぽそっと呟いた。
「あいつら……レアの太刀筋が見えなかったのね。それに、剣を切られた事すら分かってはいなかった。でも私にはほんの少しだけど見えた……レアが動くのが……」
漸くアリスは自分の実力に気付いたようだな。そうだ、お前は本当に強くなっている。
しかしながら、あんなに品の無い奴らとよくもまあ、パーティを組んでいたものだ。なんなんだ?あいつらは。他にもう少しましな奴は居なかったのか?
「一体なんだってあんな奴らとパーティを組んだのだ?」
俺の問いにアリスは躊躇しながら話し出す。
「集団のトップの直属にあのジャックが居て、半ば強引にあのパーティに入れられたの。ジャックも最初は優しかったし、頼りもしていたんだけど……」
急に口を閉ざした。
「ん?一体どうしたのだ?」
「……実は、依頼にいって言う途中とか、食事のときとか、ジャックは結構触って来るから、距離を取っていたんだけど、挙句の果てに『俺の女にならないか』とか言い出して…」
アリスは俯きながら言い難そうにそう話した。
「で、断ったらいきなり態度が変わった、そういう訳だな」
アリスは黙って頷いた。やはり奴はクソ野郎だったな。最初から魔法使いが欲しかったわけではなく、アリスが狙いだったという訳か。もう少し痛めつけても良かったかもしれないな。
俺がウンウン頷いていると、アリスの表情が急に明るくなった。
「でもね、抜けてよかった。私強くなっているよね、あいつらが見えなかったレアの動きがほんの少しだけど見えたんだもの」
「ああ、お前は強くなっている。あんな奴やへでもないと思うぞ。武術大会で奴らにお前の実力を篤と見せてやれ」
「うん。私もっと強くなる。心も身体も……」
アリスは口を一文字に結び、両拳を握りしめながら頷いた。アリスの活躍が楽しみだな。
「フフフ、時間を食ってしまったな。さあ、武具を買いに行こう」
「ところでダズニーってなに?」
あ、それはどうでもいいから。
いつも読んで下さりありがとうございます。
漸くアリスも自信がついてきました。




