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飛ばされた最強の魔法騎士 とっても自分の星に帰りたいのだが……  作者: 季山水晶
第二章 アリス

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28.接触

「おいおい、いくら何でも柄だなんて酷いのではないのか?巨匠が作った剣だぞ、綺麗な刃も沢山落ちているではないか」


 おい、ほらバルディーニが睨んでいるではないか、折角の機会なのに嫌われてもいいのか?スミスよ。


 周囲の心配は他所に、無言でその場を睨みつけるバルディーニに全く臆せず、スミスは毅然と振舞った。


「いえ、遠慮はいらんと言われたので申し上げます。ましてやその発言次第で私の存在価値までも問われそうなので、後悔の無いよう正直に申し上げたいのです」


 バルディーニは真剣な表情のスミスを凝視したまま、少し口角を持ち上げた。


「ほほう、儂の剣に物申すとな、いいだろう、好きに言ってみろ」


 スミスは拳を握りしめ、ゴクンと生唾を飲み込んだ後、震える唇を開いた。


「き、きっとそれらの剣は硬さを重要視して打った試作品、とても名刀と呼ばれるものではありません。きっとレアさんの細剣レイピアの強度を調べる為、敢えてそれらを選択されたのでしょう。そして駄作であれ、名刀であれ、持ち手である柄の部分が駄作であればその能力を発揮できません、だから、どの柄も素晴らしい完成度で作り上げられています」


 スミスの鼓動が離れている俺にまで伝わってきそうなくらい、周囲の空気を揺れ動かしている。刃ではなく、柄を選択してそれを巨匠に言ってのけるとは。それが正解であるかどうかは兎も角、自身の進退をかけた一言に違いない。


 驚いたな、こいつは俺とは全く違うところを見てやがる。これが鍛冶師の眼ってやつなのか。


 バルディーニはスミスの言い分を黙って聞いていた。そして、勢いよく立ち上がり、鬼の形相でスミスを怒鳴りつけた。


「この馬鹿者!お前のような奴は儂が自ら鍛冶の神髄を叩きこんでやる」


 なんだなんだ?好きに物を言えと言ったくせに、怒鳴りつけたではないか。全く、自分の言った事に責任を持ってほしいものだが……む、どうしたことだ、よく見ると口元が笑っているではないか。それに「儂が自ら鍛冶の神髄を叩きこんでやる」だと?それはスミスを弟子に取るという事か?このおっさん、いい年をしてツンデレっぽい事を……


 だが、スミスの方はそのセリフを聞いて浮かれるどころか、少し寂しそうに目を伏せた。自分の意志を貫いた自信からか、先程までとは別人の様に落ち着いている。


「有難いお言葉ですが、それはなりません。私にはライザー様に借金があり、工房で働きながら借金を返している所でございます。そのお話は借金を返し終えてから、受けたく存じます」


 スミスは深々と頭を下げた。そうだった、確かスミスは家族が作った借金の肩代わりをしてくれたライザーの元で、見習いとして働いているのだったな。借金が残っている間は動けぬという事か。


「借金だと?」


「ああ、何やら、家の借金をライザーが肩代わりをしてくれたらしいぞ」


 怪訝な表情を浮かべたバルディーニを見て、レアは直ぐにそう口を挟んだ。


 借金がある者は人として信用のおけない人物とみなされがちだ。少なくとも、スミス自身が作った借金ではないという事くらい言ってやってもいいだろう。とは言ったもののその話が本当はどうかなど確かめようはないが、その話を聞いてスミスの人柄を判断するのは俺ではない、バルディーニだ。


 俺のその言葉でバルディーニは再びその場に座り込み、腕を組んでスミスを見つめていた。何やら考え込んでいるようだが、俺とアリスにとっては剣を打ってもらう依頼は成立したのでこれ以上ここにいる理由はない。それに俺達にはやらねばならない事もあるのだ。


「すまないが、スミスの事は二人で話し合ってくれ、それと、剣が出来るのは何時いつくらいだ?」


 急な俺の発言にバルディーニは考え込むのを止めた。


「申し訳ないが、何時いつとは約束は出来ぬな。なんせ、レアの持ってきた金属を打ったことが無いからな」


 バルディーニのいう事は至極当然だ。打った事のない金属を打つのだからな。それにこの男の事だ、出来に満足しなければ剣を渡してはくれぬだろう。とすると、そこそこ使える既成の剣でも手に入れないと仕方が無いな。


 後は防具だ、一応アリスの防具だった魔術師ウィザード用のローブは既に脱いでしまっている。今は素の状態だ。今の強さなら防具を付けなくともそれなりに戦えるが、今後もっと強い敵と戦う事を考えれば、魔法剣士ウィザードフェンサーにふさわしい防具を揃えないとな。


 スミスの行く末は少し気にはなるが、俺たちは武具を調達しに行くことにした。武具を買う金が足りなければ、依頼を受けて稼がないといけないしな。俺たちは忙しいのだ。


 俺はバルディーニに「可能ならひと月後の武術大会で剣を使いたい」とだけ告げた。彼は苦笑しながら黙って頷いた。それとバルディーニは自身が推薦する武具職人を教えてくれた。彼の推薦する職人なら、相当の腕の持ち主だろう。よって、そこへ向かう事にする。その職人の名はロッシ、彼もバルディーニと同様一癖あるらしいが、俺が相手なら大丈夫だろうと言っていた。さあ、武具屋に行くぞ。


 バルディーニの家から武具屋に向かっている時である。どうも誰かに付けられているのだ。俺達がバルディーニの家に入っている時も、ずっと外で待ち続けていたのだろう、暇な奴らだ。


「アリス、振り向かずに聞け。誰かに付けられているぞ。やっつけるのは簡単だが、理由を知りたい。そこの曲がったところで捕獲するからな」


 俺たちは後ろの奴ら、どうやら二人組に気付かぬふりをして路地角を曲がりそこで身を潜めた。その路地角には偶然にも立て看板が有り、俺たちはその陰に隠れることが出来たのだ。暫くして、足音を忍ばせながら奴らはこの通りに入ってきた。


「おい、あいつらどこ行った?確かここを曲がったはずだが……」


「くそう、見失ったのか……」


 二人がそう言いながら俺達を通り過ぎた後、俺は二人に後ろから声を掛けた。


「おい、お前ら、俺達に何か用事でもあるのか?」


 二人はビクッと驚いて肩を震わせた後、俺達の方へ振り返った。


「あれ、あなたドナルドじゃないの」


 アリスが驚きの声を上げた。


「ドナルド?名は……ダックか?」


 俺達を付けて来ていたのは二人の冒険者ワーカーだった。一人は青髪、一人は茶髪で如何にも……弱そうに見えるが、一体何の用だ?


「おい、誰と間違っているんだ。俺はドナルド・ジャックだ」


 青髪をした冒険者ワーカーの一人が声を張り上げた。ジャックでもダックでも殆ど変わらないじゃないか。それによく見れば口はアヒル口だ。いっその事ダックにする方がいいと思うぞ。


「で、そのダックは俺達に何の用だ?」


「ジャックだと言っているだろう。おまえ、わざと言っているのか?俺はお前に用はない。用が有るのはそっちのアリスの方にだ」


 青髪と茶髪の冒険者ワーカー……そうか、こいつらアリスを追放した元パーティの奴ではないか。今更アリスになんの用だ?

いつも読んで下さりありがとうございます。

揉め事の予感がします。

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