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僕の記憶には愛衣(?)がいない!

「狐につままれる」とは今の状況ではないだろうか。


 僕はドラゴンも鵺も塀の上を唐草模様の風呂敷をせおって歩くヒゲの泥棒も見たことがない。


 なぜなら、それらは想像上の存在で実在しないからだ。


 ところが、僕の目の前には実在しないはずの「愛衣」がいる。


 長い銀髪、低い背に愛らしい顔。間違いなく美少女だ。ミニスカゴスロリメイド服に右手に包帯、目には眼帯。


 そして、僕の好みにピッタリだ。いや、ホントに「AMI」のイラストがそのまま現実に飛び出してきたような世界観の少女。逆だ、僕は「AMI」のファンだから好みにぴったりだと感じているのか。


 ホテルの部屋は、彼女用の部屋と僕用の部屋は別々に取ってもらっていたけど、今は僕の部屋に来てもらっている。部屋にはベッドが1つと小さいけれど、3人掛けのソファ、窓辺には丸テーブルと小さな椅子が2脚、テレビで見たビジネスホテルの部屋よりもだいぶ広い。リゾート用の一人部屋らしい。


 ベッドの上に座った彼女は現実世界ではすごく違和感があった。少なくともゴスロリメイド服がホテルの部屋にいたら違和感しかない。しかも、全く知らない人。


 当然、彼女から話は聞きたかったけど、聞くのは少し怖い。少なくとも、嘘をついている僕の罪を知っているのだから。知らない人に弱みを握られているみたいで、心が落ち着かなかった。


 そんな困惑した僕の表情を読み取ったのか、愛衣が訊いた。


「あれ? ボクのこと分からないの?」


 愛衣(?)が少し首を傾げて言った。その仕草だけでもかわいい。


 そして、聞きなれないアニメ声だ。僕の周囲にはこの手の声の人はいない。……いや、昔はいた気がするけど覚えていない。


「あの……どなたか知りませんけど、助けていただいてありがとうございます」


 僕は彼女の前に立って頭を下げてお礼を言った。


「いいよいいよ、気にしないで。ボクと(わたる)くんの仲じゃないか」


 僕と彼女の仲……というと、日々ひたすらガチャをしたことだろうか。軽く1万回以上はガチャをした。それが、彼女との思い出? いや、彼女は実在の人物だ。そんな訳がない。僕は激しく混乱しているらしい。


「これだけ気付かないと、ちょっと意地悪したくなったなぁ」


 愛衣が座っていたベッドから立ち上がった。


 立っている僕の目の前に彼女が向かい合う形になったけど、彼女は僕よりだいぶ背が低い。この背の低さ、そしてフラットな胸、あとは、イラストを描くということ……。総合して僕の知っている人から照合すると「助手」が割り出された。


 元々、僕の周囲の女の子なんてそんなにたくさんはいない。


 まず、遠いところから西村綾香先生は20代だし、こんな格好はしない。そして、背は160センチ以上あると思う。胸も普通に大きいので目の前の愛衣とは人物像が全く違うから除外。


 次の候補が、姉崎先輩だ。彼女はいつも背筋まっすぐで腰に手を当てて「九十九くん! おはようっ!」みたいにお腹から声を出しているタイプだ。背も比較的高い。西村綾香先生の次くらいに背が高い。


 黒髪のポニーテールがトレードマークでこちらも全然違う。除外せざるを得ないだろう。


 そして、最後が助手だ。消去法で彼女に決定してしまうのだけど、背は低いし、お胸はフラット、声は声色を変えているのだろう。絵は見たことがないけれど、イラストを描いているのも共通点だ。銀髪はウィッグというところだろうか。


「分かったよ、きみの正体が!」


 僕は僕の中で結論に到達した。彼女は助手だ。


 それにしても、こんなに化けるとは。普段の半眼ジト目はなりを潜め、大きな目でキラキラした瞳をしている。見事に「AMI」の世界観を再現していて、雰囲気も好感度が高い。そして、今日は全然毒を吐かない。言葉の刃で切り付けても来ない。


「実は……最近、きみのことが気になっていたんだ」


 僕は気が大きくなっていたのか、安堵して気が緩んだのか、意図せず告白めいたことを言ってしまった。


「え⁉」


「今日は僕のことを助けに来てくれたんでしょ? その姿を見て完全に好きになった」


「ほ、ホント!?」


「うん! もちろん! いつも僕を助けてくれてありがとう! ずっと言いたかったんだ!」


「気づいてくれてたんだね! 昔から弟くんはちょっと鈍いところがあったから、心配になってたんだ」


 ん? 昔から? 「弟くん」? 「なってたんだ」? なんだか違和感がある。僕はなにか大きな勘違いをしている事を予感した。


「ちょっと待ってくれ、助手。僕はだいぶ混乱しているみたいなんだ。申し訳ないけど、その変装を解いてくれないかな」


「じょしゅー?」


 愛衣は不機嫌そうに言った。いつもそう呼んでいるのだから、不満があるはずがないのだけど……。


「とりあえず、そのウィッグだけでも取ってよ」


「……これはウィッグじゃないよ?」


「え?」


 キャラ付けだろうか。銀髪の日本人なんている訳ない。


「たしかに、その姿も好みだけどさ、いつもの姿の方が安心するよ」


「やっぱり、弟くんは委員長タイプが好きなんだよね?」


「委員長!?」


「まだ分からないかな?」


 そう言って愛衣はウィッグを外すのではなく、カバンから黒髪のウィッグを取り出し被るのだった。


「その髪、そのポニーテール……」


 彼女は僕の知るあの人だった……。やっぱり、僕は思い違いをしていたんだ。


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