第12-2話:僕の小説のヒロインは主人公を好きな理由がない!
「じゃあ、先輩はどうしてラノベ作家になりたいんですか?」
質問をして来た助手の目は相変わらず半眼ジト目。睨まれている様な気すらする。ただ、僕はこの助手のことが段々好きになってきている。この目も可愛く見えるのだから、もはや病気だ。そして、その目に魅入られて僕は段々集中していった。
「それは……」
「ラノベが好きだから……?」
「じゃあ、いつラノベ作家になろうって決めたんですか?」
「え?」
いつだっただろうか。まだ僕が小さいときだ。僕は泣きながらラノベ作家になりたいって言って紙にお話を書き続けた記憶が蘇ってきた。
そこまで強く思うってことは、なにか事件があったはす。それくらい強く思うほどの何か……。
「転校だ! 僕は昔から転校転校で友達ができにくかったんだ」
いや、待てよ? 友達ができないからってラノベ作家になりたいと思うか? しかもそんなに強く。
「そうか、僕には好きな女の子がいた……。まだ小学生の低学年の頃」
助手がピクリと反応した。
「それで?」
「え?」
「その女の子はどっちだったんですか!?」
「ど、どっちとは?」
助手は前のめりだけど、僕には質問の意図が分からない。
「えっと……」
僕が追加の質問をしようとして、それでも躊躇していると、助手の方が口を開いた。
「その女の子のことを教えてください。ゴミムシ……いえ、間違えました。先輩」
いま、僕のことを「ゴミムシ」っていった!?
益々助手の毒がひどい。
「たしか、仲のいい女の子がいたんだ。僕の家の右隣に……いや、左隣りだったかな? いや、やっぱり、右隣?」
「どっちでもいいです!女の子!」
「ああ、そうか。親達も仲が良かったから僕達は家族ぐるみで仲が良かったんだ。妹……いや、姉? いや、やっぱり妹? ……ああ、そこはどうでもいいよね!」
助手は僕が思い出すのを邪魔しないようにしたのか、黙ってくれていた。
「僕達は外で走りまわるっていうより、絵本とか好きでさ、三人で絵本を読み合ってたんだ。あれ? 三人?」
しゃべりながら芋づる式に記憶が蘇ってきていた。
「そ、それで、どうしたんですか?」
「あ、ああ。絵とお話が好きだったし、僕達はマンガ家を目指したけど、僕は絵が下手くそで……」
「だから、ラノベ作家へ?」
「いや、小説は苦手だった。読みはじめの設定に入るまでの部分で気持ちが離れちゃって……」
「あー、そんなこと言ってましたねぇ」
「映画でも本題に入るまでの静かな、何もない部分を描いてる段階で気持ちが離れるんだ」
僕はそれがどうしてラノベの方向に進んだのか思い出していた。
「妹が……妹ちゃんが、ラノベを持ってきたんだ」
僕は全身に汗を大量にかいていた。
「はあっ、はあっ、はあっ」
「大丈夫ですか? 先輩、少し休みましょう。すごい汗です」
「ああ…」
僕は無意識に近くの椅子に腰かけていた。
「……なにか思い出したんですか?」
「うん、僕が初めてラノベを読んだのは、妹ちゃんがマンガと間違えて持ってきたラノベだった……」
「はい」
「妹ちゃんのお父さんが好きだったんだ」
「はい」
助手は静かな目で僕が話すのを聞いてくれていた。
「可愛い絵と読みやすいお話……。今まで僕が読んだ小説とは全然違った……。僕達はラノベの虜になったんだ」
「そうでしたね……いえ、そうだったんですか」
でもおかしい。僕には姉も妹もいない。「妹ちゃん」って誰だ!?
「そうだ! あの子のことを『お姉ちゃん』って呼んだら、ずるいって言ったから、あの子のことは『妹ちゃん』って呼ぶようにしたんだ!」
「……」
「はあっ、はあっ、はあっ」
益々汗が吹き出していた。頭皮からも汗が出ている感じ。
「先輩、一回休んでください」
助手に声をかけられて我に返った気がした。少し頭がチカチカしている。もし立ったままだったら僕は倒れていたかもしれないと思った。
「大丈夫ですか?」
「あ、うん。ありがとう」
僕は少しの間呼吸を整えた。
「僕はなにかまだ忘れてることがありそうだ」
「もう分かりましたから、ちょっとおとなしくしておいてください。私、水買ってきます」
助手は、部室を出て水を買いにいってくれた。僕は集中が切れたのか、それ以上なにかを思い出すことはなかった。
□ 今日の活動報告
「今日はヒロインが主人公のことを好きになる理由を考えていたんですよね?」
「はい……」
今日も西村綾香先生に活動報告をしていた。
「じゃあ、なんで九十九くんは、そんなにぐったりしているんですか⁉」
「あ……なにか忘れていることがあるみたいで……」
「そんな土砂降りの中を走って来たみたいに汗びっしょりで⁉ 先生、外が雨なのかと思って、思わず窓の外を見ちゃいましたよ?」
「はは……。そっすね。すいません……」
もう、段々なんでも良くなってきていた。僕はそれくらい疲れていた。
「あ! 先輩! 見つけました! そんなにぐったりなんですから、報告は私が行くって言ったじゃないですか!」
職員室に助手が飛び込んできて、僕の腕を掴み支えてくれた。
「助手……ありがとう」
そのぬくもりを僕は以前どこかで知っていたような……そんな気がしたのだった。




