第9-2話:僕の小説には読んでくれる人がいない!
姉嵜先輩が、WEB投稿サイトについて教えてくれていた。
「まず、『小説家になろう』だが、アクティブユーザー数が多い! 九十九くんくらいの文章を書く様になったら、1日1万PVも珍しくないだろう」
「ぴーぶい……ってなんですか?」
僕は聞きなれない言葉を姉嵜先輩に聞いた。
「PVは、読者が見たページの数かな。例えば、10ページ読んだら10PVだ」
分かりやすい。
「じゃあ、短い文章でたくさんのページを作ったらPVが伸びるってことですか?」
「そうだな。理屈の上ではそうなるけど、あんまり短い文章を次々ページを開いてみるか……と言うとな」
たしかに。
「私の経験上、1ページ2000文字から3000文字くらいがちょうどいいようだ」
「5000文字くらいまで行くと多いですか?」
「WEB小説は、通勤とか通学の時に読んでいる読者も多いようだから、パッと見てパッと読める量というのがあるんだ。1分間に読む量は平均して800文字くらいと言われているから、3~5分くらいと言ったところか」
そんなことまで考えているのか。姉嵜先輩はやっぱりすごい。
「他の人の話も読むだろうから、1ページとしてはそんなもんだろう。あまり長いと書く方も大変になる」
「なるほど」
たしかに、文字数が多いと書く方も大変だ。
「それだと、3000文字に起承転結を入れて……ちょっと大変になりませんか?」
「3000文字だったら、普通の文庫本でも7~8ページ程度だ。その中で毎回起承転結を入れる必要はない。ただ、数ページ読むうちに面白くないと思われたら読者が離脱していくから、見どころはちょくちょく入れていく必要があるな」
意外と難しそうだ。
「『小説家になろう』の方は特定の出版社が運営している訳じゃないから、色々な出版社の編集が見ていると言われている。人気になれば出版社から声がかかるというな」
「そうなんですか!」
今までコンテストに応募すると言ったら、紙に印刷して郵送で応募しないといけないと思っていたから目から鱗だ。
「出版社から声がかかる目安として『ポイント』がある」
「ポイント……ですか」
「そうだ。読者が読んでいて面白いと思ったら、いいねや★を付ける制度がある。それがポイントに換算されるんだ」
「SNSみたいですね」
「そうだな。分かりやすい例えだ。そのポイントが1万とか1万5000とかを超えると出版社が声をかけてくるという噂があるな」
「へー……そうなんですか」
姉嵜先輩は得意気に人差し指を立てて説明を続けた。
「実は、単純にポイント数を見ている訳じゃなくて人気を見ているという話も聞いたことがあるがな」
「どういうことですか?」
「多くの出版社は統計学などを使って売れる本の冊数を予想したりはしないんだ。過去にこんな本がこれくらい売れたから、次のこれはこれくらい……みたいな感覚だ」
「随分原始的ですね」
「出版業界が実は特殊なんだ。コンビニのおにぎりのようにはいかないんだよ」
先輩が僕の食べていたおにぎりの包みに視線を送って言った。
「?」
僕がピンときていないことが表情から伝わったのだろう、そのまま姉嵜先輩が続けた。
「本は出版社から書店に出荷されるが、それではまだ売れたことにならないんだ」
「あれ? 本屋さんって本を買うんじゃないんですか?」
「一部は買取も行うんだが、言ってみれば『置いているだけ』だ。私達の様なエンドユーザーが買って初めて本は売れたことになる」
「知らなかった……」
「そして、一定期間本屋に置かれていて売れなかった本は出版社に戻される」
「え?」
「そんな理由で本が何冊売れたのかは出版社でも把握しにくいんだ」
「へー」
「だから、出版社も売れる本と売れない本の見極めは難しい。つまり、出版社としては既に人気のある作品、人気のある作者が必要なんだ」
「なるほど。それで人気のある作者の本が書籍化されていくって訳ですね」
「簡単に言うとそういうことだ」
「じゃあ、もう一個の『カクヨム』の方はどうなんですか?」
「こちらはKADOKAWAが運営しているサイトだ」
「こっちは1社だけってことですか?」
「まあ、簡単に言うとそうだけど、KADOKAWAはジャンルごとにたくさんの出版社がある。ジャンルごとに別の出版社が見ているし、1つのジャンルを複数の出版社が見ているところもある」
「そうか、KADOKAWAって大手だし」
「出版社によって得意、不得意があるんだ。例えば、九十九くんがよく書いているラブコメは『ラブコメ』のジャンルがマッチしているだろう。似ているが『恋愛』のジャンルにしてしまうと、やや女性向けの方の悪役令嬢なんかを扱っている出版社が見ているので書籍化はされにくい」
「そんなのがあるんですね! じゃあ、僕は『ラブコメ』を選べばいいんだ」
「その代わり、ラブコメでも異世界ものの場合はそちらの方が読者数が多い」
「ああ、単純じゃなかった……」
「まあ、それぞれのランキングの上位の物を見て傾向を見極めると良いだろうな」
「なるほど」
「求められるものを書く。しかし、他との差別化も付ける。そんな難しさもWEB小説にはあるってことだ」
「求められているものを書く」……か。僕にはなかった発想だった。
「おっと、少し偉そうに語ってしまったか。今日はこれで失礼しようかな」
姉嵜先輩が席を立とうとした。
「おっと」
姉嵜先輩がよろけたので、反射的に支えてしまった。肩を掴んでしまった。普段、頼りがいがあってしっかりしている印象の姉嵜先輩だったけど、その肩は細いし、なんだか軽かった。
女子はどうしてこうやわらかいのか、そしていい匂いもする。ほんの一瞬だったのだけど、色々な情報が僕の脳髄に叩きこまれた。
「すっ、すまない」
そう言って姉嵜先輩はしっかりと立った。
僕はなんとなく気になって先輩の足元を見た。今まで気付かなかったけど、姉嵜先輩の靴は随分そこが厚かった。姉嵜先輩が厚底靴。なぜ?
「先輩、随分厚底の靴なんですね」
オシャレかな、と思ってなにげなく聞いてみた。
「こ、これは、背が高い人が理想って言うから……。あ、いや、なんでもない! 人には求められたキャラクターってものがあるんだ」
そう言うと姉嵜先輩は僕から少し離れた位置に移動してしまった。
背が高い人が理想って誰が言ったんだろう。あの姉嵜先輩がそれに合わせるくらいだ。彼氏なのかもしれない。
はぁー、すごいな。そこまでやってるとは。そうでないと生徒会長兼文芸部部長なんて出来ないんだろうなぁ。人望や人気を集めるっていうのは簡単じゃないんだな、と思った。
今日も姉嵜先輩は顔を真っ赤にして逃げるようにしてラノベ研究会を去って行ってしまった。なんか最近多いな、こういうの。
「じゃあ、先輩。早速、先輩のラノベを色んな投稿サイトにアップしてみましょう」
僕がぼんやりと姉嵜先輩の後ろ姿を見送っていると、助手が話しかけてきた。
「そうだね」
ちょっと怖い様な、期待するような……。僕は初めてWEBサイトに自分の作品を投稿したのだった。
□ 帰宅後
僕はスマホで何度も何度も自分の投稿サイトのページを見ていた。PVは増えてない。またオンラインゲームにログインして「AAA」にも見てもらう様に頼んだ。
―――
AAA:おk。見てみる
WATARU:よろ
AAA:アクセス増えたらいいな
WATARU:ありがと。でも、僕がラノベ書いてても驚かないんだね
AAA:まえに聞いたからかな
―――
「AAA」に言ったかな? まあ、「AAA」だし、ぽろっと言ったのを覚えていてくれた可能性はあるな。
僕はどうすれば自分の小説のアクセスが増えるか色々考えた。
本日2度目の更新です♪




