これは警告です
「それで用件は何です?」
私は『アイテムボックス』からシートを取り出し、その上に座ります。
兵士の方々のように、直に地面に座ることはしません。汚れならば『浄化』で落とすことは出来ますが、わざわざ汚れる必要はありませんからね。
「なんだ? やけに協力的だな」
「……どう喚いたところで、このまま帰してもらえないのはわかっていることですからね」
こういう時のディアスさんの面倒くささは理解しています。
ならば、さっさと彼の用件を済ませてしまった方が楽だし、早いです。
「相変わらず正直な奴だな。……まぁ、いい」
ディアスさんはその場にどっかりと腰をおろしました。
「お前に聞きたいことがある」
「……聞きたいこと、ですか?」
彼がその言葉を言った時、後ろの兵士達の雰囲気がピシッと硬くなったように思えましたが……気のせいでしょうか?
そして彼らに聞き耳を立てられている中で、ディアスさんが私に聞きたいこととはなんでしょうか?
重要なことであるのならば、ここで話すことはしないでしょう。だからって他愛ない話を、わざわざ強引に引き止めてまでする必要がありません。
「お前、こいつらと戦っただろう? その時の感想を聞きたいんだ」
「ああ、なるほど……」
「ん? どうしてそこで納得するんだ?」
「……気にしないでください」
私が納得したのは、先程の疑問が全て解決したからです。
兵士の緊張感が増したこと。
ディアスさんの聞きたいこと。
わざわざこんな場所でそれを話す理由。
確かに、あの時の感想を聞くのならば、兵士の方々に直接聞いてもらった方がいいのかもしれませんね。
……でも、一つだけ問題があります。
私はディアスさんの後ろ。今も聞き耳を立てている兵士の方々を指差し、口を開きます。
「感想を言うのは別に構いません。ですが、それを聞いた後ろの方々がそれに怒ったりしませんよね? また変に突っかかって来られると、本当に面倒なのですが?」
私は良くも悪くも正直者です。
相手を気遣って発言することはしません。
そんなのに気を使っているくらいなら、どうやって仕事をサボるかを考えていた方が圧倒的に有益でしょう。
「あの方々は私に不満を持っているようです。私がミリアさんの護衛になった程度で突っかかって来る人ですからね。素直な感想を言ったら、また戦えーとか言うのではないですか?」
たとえ魔王軍の兵士で、一応は『仲間』という部類に入る関係であっても、二度も邪魔をされるとなれば容赦はしません。……主にウンディーネが。
「だから、約束してください。私が何を言っても、ディアスさんが彼らの感情を抑えると…………ついでに二度と私に文句を言わない。という条件も」
「ちゃっかりしてんな」
呆れたように、ディアスさんが言いました。
「この場で我慢して、ディアスさんの居ないところで変に絡まれる。というのを事前に防いだだけです」
それに、これは兵士の方々を守るためでもあります。と私は付け加えました。
「あいつらを守るため。だと?」
「ええ。私に文句があるだけで兵士全てで試合を挑んでくるような野蛮な方々です。何か口論になれば簡単に手を出してくるでしょう。そんな時、誰が一番怒ると思いますか?」
「…………もしかして、ウンディーネか?」
「ご名答」
ウンディーネは、私に害を与える人のことを嫌います。
そして私以上に怒ってくれます。……それはもうカンカンに。
エルフに関してもそうです。
私に手を出したことでウンディーネは激怒し、彼女の眷属は絶対に手出しをさせないと宣言してしまうくらい、その規模は大きなものでした。
それは私を殺そうと思っていたからという理由もあり、ウンディーネも過激な手段に出たのでしょう。
ですが、私に手を出すということは、原初の精霊の怒りに触れることになると忠告しておけば、兵士達は軽率に絡んでくることはしないでしょう。
「と、いうことで……今後私に手を出すのならば、それ相応の覚悟でどうぞ」
それだけを言うと、兵士達は悔しそうに顔を俯かせました。
私の発言は、余計に彼らのプライドを刺激することになったかもしれません。
ですが、彼らとの差を自覚させておく良い機会でした。
これでも私は魔王幹部の一人。兵士程度とは何もかもが違うと理解させておくことも、上に立つ者として大事なことでしょう。
「お前……意外とちゃんと考えているのな」
「私が惰眠を貪るだけの、穀潰しで能天気なエルフだと思いましたか?」
「いや、そこまで言ってねぇけど……正直意外だったぜ」
「これでも私は良いところの学校を出ているんですよ。この程度のことを考えて行動するのは朝飯前です」
と言っても、今はその頭も全てサボるためだけに使っているのですが……。
「……で、どうするのですか? 私の感想を聞きます?」
警告は十分にしました。
後はディアスさんの判断にお任せします。
「…………ああ、聞こう」
ディアスさんは兵士の方々と目配せして、私に意見を求めてきました。
「では、感想を言いましょう」
……ならば私は、素直に感想を言うだけです。
「はっきり言って弱すぎです。話になりませんでした」
そして私は、尊重の『そ』の字も無い言葉を投下したのでした。




