抱っこです
唐突にそれは来ました。
「リーフィアーーーー!」
バァンッ! と開かれた扉。
いつものことなので、私はベッドから起き上がることをしませんでした。
ミリアさんには耳だけを傾けていれば十分でしょう。
「あれ? なんか扱いが雑になってる!?」
「ウンディーネ〜、面倒なので相手をお願いします」
瞼を開けるのも面倒です。
ミリアさんの相手は、隣で眠っているウンディーネに任せます。
『…………ん、むにゃ……ふ、ぁぁ……あれミリアちゃん、いらっしゃーい……』
「ウンディーネ!? お主も堕落してどうする!」
『ハッ!? つ、つい……』
ウンディーネはハッとした様子で、いつものおっとりとした感じに戻りました。
もう少しで洗脳……もとい堕落出来たというのに、惜しかったですね。
「それで大変なのだ!」
『うん、どうしたの? ……まさか、あの侵入者の件?』
「そうなのだ!」
どうやらエルフのことに関する情報が手に入ったようですね。
まぁ、そんなことだろうとは思っていました。
「──って! いつまで寝ているのだ!」
「ぐふっ……」
唐突に降ってきた衝撃。犯人は言わずともわかるでしょう。
「んもう、何するんですか……」
流石に攻撃を食らってでも眠っていられるほど、私は呑気ではありません。
目を擦りながら起き上がり、肩にかかっていた毛布がハラリと落ちました。
「なんでお前はいつも裸なのだ!」
ミリアさんは顔を真っ赤にさせ、私を指差します。
「だって、こっちの方が身軽なんですもの」
「い、いいから早く服を着ろ!」
「……はいはい。全く、相変わらずうるさいお子様ですねぇ」
「うるさいは余計だし、返事は一回でいい!」
「…………へーい」
私は魔力も用いて服を纏います。
いつもの動きやすくて眠るのに邪魔にならない良質なものです。
「それで何がわかったんです?」
「うむ、まずは執務室に…………そんなあからさまに嫌な顔をしないでくれるか?」
「だって嫌なんですもの」
寝起きなのに移動しなければいけないのですか?
どうしてそんな面倒なことを……。
「ここで話すのはダメなのですか?」
「余だってあまり理解していないのだ!」
「…………(ふっ)」
「おい! 余を残念そうな目で見るな!」
「残念そうな。ではありません。実際にそう見てます」
「なお悪いわ!」
だって状況を理解していないのに偉そうなんですもの。
そりゃあ残念な目にもなりますよ。
「じゃあウンディーネ。私を運んでください」
「こら、精霊をそんなことに使う──」
『はーい』
「相変わらず激甘だな!」
私はウンディーネに向けて両手を広げ、その背中に乗ります。ひんやりとした体が心地良いですねぇ。
「さて、行きましょう」
「キメ顔をしてもお前かっこよくないからな。思いっ切りダメ女臭漂っているからな」
ミリアさんが呆れたようにそう言っているのを無視して、私は執務室に向かいます。……正確には私ではなくウンディーネがですけど、細かいことを気にしたら負けですよね。
「おはようございますー」
腕を動かすことすら面倒になった私は、魔法で風を操って扉を開けました。
中にはいつものメンバーが揃っていました。ウンディーネに背負われる私を見て、みなさん苦笑しています。
「どうもー、休日出勤のリーフィアですー。今日はお日柄も良く、絶好のお昼寝日和ですねぇ」
私は皮肉たっぷりな挨拶をしながら、ウンディーネの背中から降りました。
「すまんなリーフィア。新たな情報が入った故、呼び出したのじゃ。用件が終わったらすぐに戻って良いから、今は話を聞いてくれぬか?」
アカネさんは苦笑して、私に謝りました。
「まぁ、良いですよ。でも別に情報程度ならば私の部屋で話してくれても良かったのでは?」
「妾もそう言ったのじゃが……ミリアが、たまにはあいつを動かさないと本当にダメになる! と言い出してなぁ……」
「もう手遅れだと思いますけれどね」
「それを自分で言ってしまうところ、やはりお主は面白い奴じゃな」
「お褒めに預かり光栄です」
そう言って考えます。
果たしてこれは褒められているのでしょうか? と。
「こぉらリーフィア! 余を無視して置いていくではない!」
そんな会話をしている間に、ミリアさんが遅れて到着しました。
「相手するのが面倒だったので……」
「おまっ! そろそろ泣くぞ!」
「やめてください。寝起きに泣かれるのはきついです」
「お、おう……すまん」
不満を漏らすと案外素直に従ってくれました。
そういうところは良い子なんですよねぇ。だからうるさくても不思議と憎めない。それがミリアさんです。
「では、全員揃ったようだから始めようか」
ヴィエラさんが立ち上がり、全員を見渡して口を開きました。
その場の雰囲気がピンと張り詰めたような、緊張したものへ変わります。
──そろそろ始まるのでしょう。
来てしまったものは仕方ありません。
私は気持ちを切り替え、空いているソファに座り、ウンディーネはその後ろに控えました。




