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お久しぶりです

 ──活躍したのだから休みを寄越せ。


 そんな私の訴えは、見事に無視されました。

 何も聞こえていないように、侵入者達に歩み寄るミリアさん。私から視線を逸らすディアスさんとアカネさん。


 ──いつかストライキを起こしてやる。


 私は胸の内で、そう決意したのでした。


「我が国で何を企んでいたのだ?」


「…………」


「何も言わぬ、か……まぁ、そうだろうな」


 ミリアさんの問いかけに、黙り込む侵入者達。

 素直に答えるわけがないと予想していたミリアさんは、余裕の笑みを崩しません。

 彼らは今、一切の身動きが取れない状態です。完全に詰んでいる。利があるのはこちらなのです。


「アカネさんアカネさん」


 ミリアさんが尋問している後ろで、私はアカネさんの肩をちょいちょいと突きます。


「ん、なんじゃ?」


「あれ、大丈夫なのですか?」


「大丈夫とはどういう……ああ、そういうことか。まぁ大丈夫じゃよ」


 アカネさんは私が何を言いたいのか察したようですが、それでも大丈夫だと言い切りました。

 でも、身内贔屓が入っているのでは? と思った私は、それでも心配になります。


「本当に大丈夫なのですか? ミリアさんは、飴ちゃんをあげれば簡単に絆されるお子様です。もし侵入者が飴を持っていたら……」


「こらそこぉ! 全部聞こえているのだぞ!」


「だって心配なんですもん。本当に大丈夫ですか? 知らぬ間に餌付けされません?」


「んなこと…………されぬわ!」


 かなり長い間があったのは、なぜです?

 ──と、そうしている間に侵入者がポケットをごそごそと漁っていました。


 何かを仕掛けようとしている?

 私はいち早くそれに気づき、警戒しました。

 アカネさんとミリアさん、ディアスさんも何かをしていることに気がついたのでしょう。すぐさま警戒心を上昇させ、いつでも行動出来るように構えました。


 それと同時に侵入者が取り出したのは、一粒の丸い球体でした。

 あれは────


「飴、ですね」


「本当に持ってたの!?」


 これは私も予想外です。

 まさか侵入者が飴を持っているとは。


「って、いらぬわ!」


 ミリアさんはその飴をぶんどり、侵入者の口にぶち込みました。


「なっ!?」


「おいまじか」


「ほう?」


「うっわぁ」


 その衝撃でフードが外れ、侵入者の顔が露わになりました。

 その顔を見た私達は、それぞれの反応を見せます。

 ミリアさんは驚き、ディアスさんは呆れ、アカネさんは興味深そうに、私は気だるげに顔を顰めました。


 長く尖った三角耳。金色の髪色。整った男性の顔。

 彼は人間ではありませんでした。一纏めに『亜人』と言われる部類の中の『エルフ』という種類です。


 どこか感じたことのある魔力だと思ったら、まさかのエルフですか。

 はぁ〜〜〜〜ぁ…………この場合は「お久しぶりですエルフさん」と言えば良いのですかね?


「…………まさかエルフが人間側に加担していたとは……」


「あ、先に言っておきますが私何も知りませんよー」


 エルフ繋がりで何か疑いをかけられる前に、私は保険を掛けて口を開きました。


「わかっている。今更疑いはしない……それに、何よりも惰眠を優先するお前が、面倒な企てをするはずもないからな」


 おお、よくおわかりで。

 ちょっと言い方に棘があるような気がしましたが、間違ってはいません。


「しかし、面倒なことになったな」


 ミリアさんは重々しく呟きました。

 私もその言葉には同意見です。


 理由はわかりませんが、エルフが人間に協力している。

 侵入者の全ては似たような魔力をしています。おそらく、全員がエルフです。

 魔法に精通しているエルフは、まだ世に出ていない魔法を沢山知っています。今までは秘蔵していた魔法が人間に教えられるとなれば、戦力増強には十分な役割となるでしょう。


 だから面倒なことになった。

 兵士を纏め上げているディアスさんや、主に亜人との外交をしてくれているアカネさんは、とても真剣な表情になりました。きっとお二人の脳内では、無数の考えが巡っていることでしょう。


 ……え、私?

 いやぁ大変だなぁ。と思っているだけですが、何か?


「お前ら、どうして人間側に味方をしている? 目的はなんだ?」


 ミリアさんは、再度問いかけます。

 どうせ黙り込むでしょう。そう思っていたところで、男が悔しげにミリアさんを力一杯睨み、口を開きました。


「私達は、人間に与してなどいない!」


 そしてそれは予想もしていない言葉でした。

 嘘を言っている様子はありません。


 そして同時に理解しました。

 男が悔しそうにしていたのは、私に捕縛されたからでも、私達に素顔を見られたからでもありません。

 人間と共通していると思われたその屈辱から、男は怒っていたのです。


「我らはそこのエルフに用があるだけだ! 魔族如きが、邪魔をするな!」


 わーお、流石はエルフ。

 魔王を相手にしても傲慢ですね。


 ──って、エルフに用がある?


「…………ふむ」


 一応、私はぐるりと辺りを見渡します。

 私以外にエルフらしい人は見当たりません。


「え、私ですか?」


 侵入者はエルフで、私に用があってわざわざここまで来た。

 そして街中で私を見つけ、追いかけていたと…………なるほどなるほど。


 やっぱりストーカーじゃないですか。

再会のエルフ(別人です)

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