プレゼントします
『あ、リーフィア……あれって……』
買った物を食べている時、不意にウンディーネが広場のとある方向を指差します。
そこにはボールを使って楽しそうに遊ぶ子供達の姿が見えました。
あの子達……以前にミリアさんと来た時、彼女と一緒に遊んでいた子達ですね。
『ボール遊びかぁ……』
「遊んで来ても良いのですよ?」
ウンディーネも子供に混じって遊びたいのかと思っての発言でしたが、彼女は『ううん……』と首を振りました。
『今は、リーフィアと一緒にいることの方が、楽しいから』
「……そうですか」
ウンディーネには特別です。
後でまたボール遊びをしてあげましょう。
私と一緒にいる方が楽しいと言っておきながら、内心はちょっとだけ遊びたいでしょうから。
「次は何のボール遊びをしましょうか」
『え……サッカーだけじゃない、の?』
「ボール遊びの種類は沢山ありますよ」
サッカーは『ボール遊び』というカテゴリーの中の一部です。
有名なのは野球やバレーボール、バスケットボールなど、他にもありますが掘り出したらキリがありません。
ボールだけで一生遊べるでしょう。
それを説明すると、ウンディーネは瞳を輝かせていました。
『凄い……! それって、リーフィアが元居た世界の遊びでしょう? ……沢山種類があって楽しそう……』
「…………そうですね。それでずっと遊べていたら、どれだけ楽しかったのでしょうね」
子供の頃はまだ幸せでした。
このような楽しい日々がずっと続くと、そう信じて疑っていませんでした。
大人になるにつれて、現実は甘くないと突きつけられ、次第に遊びよりも勉強を優先するようになりました。そして学生を卒業したら、社会人になって仕事の連続。
私は不運なことにブラックへ入社してしまったので、仕事以外の考えがありませんでした。
……まだ普通の会社に入っていたら、遊びということも出来たのでしょうか。
『……リーフィア……? どうしたの?』
「…………何でもありませんよ」
少し、暗い雰囲気になってしまいました。
こういう空気は好きません。
私は首を振り、過去を忘れます。
「さて、屋台で買った物も食べ終わりました。次はどこに行きましょうか?」
『うちはもう十分だよ。お城に帰ろう……?』
それは意外な言葉でした。
折角の外出です。まだ街を散策する気でいたのですが、ウンディーネの方から帰ると言われるとは思っていませんでした。
『……あ、遠慮はしていないよ……。ただ、これ以上街を楽しんだら、勿体無いなぁと思って……』
「勿体無い、ですか」
『他の楽しみは……また次の機会に残しておきたい。次の機会にも、リーフィアと初めての楽しみと、感じていたいから……』
「…………そうですか。そういうことなら、仕方ありません。……行きましょうか」
私は立ち上がり、歩き出します。
ですがそれは、魔王城とは別の方向です。
『リーフィア……? そっちは違うけれど』
「最後に、ある場所に行きたいのです。付き合ってくれますか?」
『え、う、うん……!』
「ありがとうございます。では、行きましょう」
今から行くのは人が多く集まる場所です。
逸れてしまったら大変なので、ウンディーネの手を取りました。
少し歩いて辿り着いた場所は、とあるお店でした。
その店の入り口には『装飾店』と書かれた看板が立てかけてあります。
『ここは……?』
「入りますよ」
困惑しているウンディーネに構わず、私は店の中に入ります。
「いらっしゃい」
店主らしき人が奥のカウンターに座っています。
私はそれを一瞥し、店内の商品を物色していきます。
「うーーむ……ウンディーネにはこれが……いや、やっぱりこっち?」
『り、リーフィア……? 何をしているの?』
「何って……プレゼント選びですが?」
それが何か? と言うように、私は首を傾げます。
『え、でも……急にどうしたの?』
「だって、思い出くらい作りたいではありませんか」
思い出と言ったら、アクセサリーです。
それを眺めるたびに、その日の楽しかった思い出が蘇る。
……うん、良いではありませんか。
地球ではこのような洒落たことはしなかったので、ちょっと憧れていたんですよねぇ……。
いつもは面倒だと言ってやらないのですが、折角外に来てウンディーネと街を散策しているのですから、思い出作りはしておきたいと思いました。
「……これはどうです?」
私が選んだのは『腕輪』です。水色と緑色の模様が混ざり合ったようなデザインが施されていて、中心に宝石のような物も埋め込まれています。どこか幻想的で綺麗な腕輪ですね。
エルフと自然の色である緑。ウンディーネの青。私達にぴったりの装飾品ではありませんか。
ちょっとお値段は高めですが、問題ありません。
『綺麗……じゃなくてっ……!』
「何ですか。これでは気に入りませんか?」
『そうじゃないけど、そうじゃないけどぉ……!』
「煮え切らない子ですねぇ。欲しいのか欲しくないのか、はっきりしてください」
『うぅ……! 欲しい!』
「では、買いですね」
私は同じ柄の腕輪を二つ持ち、カウンターへ持っていきます。
「お二人とも、デートかい?」
『で!? ち、ちがっ……!』
「はい、そうですよ」
『リーフィア!?』
店主がからかうように笑い、ウンディーネは顔を赤くさせて否定しようとしますが、その前に私が肯定してしまいました。
ウンディーネは更に顔を赤くさせ、何かを言いたげに私を見つめてきます。
「デートの思い出作りに腕輪を買おうかと」
「そうかいそうかい。お似合いだと思うよ」
「ありがとうございます。……あ、包装は必要ありません。すぐに付けるので」
「はいよ。まいどあり」
お金を渡し、商品を受け取ります。
店主に礼を言ってから外へ出て、ウンディーネの手を取りました。
「どうぞ。大切にしてくださいね」
『本当に、良いの……?』
「むしろここまできて要らないと言われたら困ります。なので、もらってください」
ウンディーネの右腕に、買ったばかりの腕輪を通します。
彼女は水の精霊です。形態が変わることもあるでしょうが、その時は私の『アイテムボックス』へと自動的に送られるようにしました。
え、どうやって、ですか?
そこは魔法ですよ。魔法。ザ・ファンタジー。
……というのは冗談で、私とウンディーネは契約しています。
私が許可を出せば、それぞれの所有物を共有することが可能です。
彼女の腕輪が自動的に送られるというのは、それを利用しているのが理由です。
あれ? 結局は魔法ですね。
流石ファンタジー・イズ・異世界。
『……ありがとう、リーフィア……』
ウンディーネは腕輪を眺め、自分の右腕を大切そうに抱えます。
少し強引に渡す形となってしまいましたが、結果オーライです。
……ここまで喜んでくれるのですから、これを買った甲斐がありますね。
『一生、大切にする……絶対に』
「ええ、そうしてください」
ウンディーネが笑います。
その笑顔を見ただけで、私は買って良かったと思えるのでした。




