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さようなら

 私は傍観を決めました。

 本音を言ってしまえば、面倒だからです。場を導くなんて、どうしてそんなことをしなければいけないんでしょうか?


 なので私は、ミリアさんがどのような選択をするのか。それを見させていただきます。


 国王が「我は何もしていない!」などと喚いていますが、ミリアさんはそれを無視して目を閉じ、何かを考え込んでいるようでした。


 約一分という時間が妙に長く感じます。


「うむ、決まった」


 永遠に続くかと思われた静寂の中、ようやくミリアさんが口を開きました。


「殺すか」

「いやいや、ちょっと待ってください」


 手の上に黒炎を纏わせながらそう言うミリアさんの肩を、私はガッと掴みました。

 傍観すると決めたばかりなのですが、すぐにそれは崩壊しましたね。


「まさかの無慈悲で私少し驚いています」

「……だって、仕方がないだろう。余は考えることが苦手なのだ。だから一番手っ取り早いのを選択しただけだ」

「ふむ、ミリアの言う通りじゃな。この場合……全員殺しておいた方が妾達にとって一番利益がある」


 ……むぅ……実際その通りなので言い返せません。


 私達は魔王軍です。

 この機会に人の国を一つ落とすことが出来れば、魔族の生活は楽になるでしょう。

 しかもこの国は歴史が長く、前国王のおかげで軍事力もあります。そこらの小国を潰すこと以上に、この効果は絶大です。潰せる時に潰しておいたほうが、私達のためにもなります。


 そもそも、生かす意味がありません。

 意思を持って魔王を殺そうとしてきた敵を、誰が許すでしょうか?

 私が魔王だったら絶対に殺します。


 私が驚いた点は、ミリアさんの決断があまりにも早かったことです。

 彼女はまだ幼いです。人の大量虐殺をそんなに早く決めるとは思っていませんでした。


 ……そうですか。

 ミリアさんは、魔王としての自覚をしっかりと持っているのでしたね。

 ならば文句はありません。

 もとより私は傍観を決めた者です。主人の決定にとやかく言うつもりはありません。


「お、お前ら! 突っ立ていないで早く武器を構えろ!」


 国王は半狂乱になって叫びます。


 それまで怖気付いていた騎士達は、恐れながらも剣を振り抜きます。

 主人の命令に忠実に従うのは素晴らしいことですが、残念なことに剣の切っ先は恐怖で震え、狙いは定まっていませんでした。

 腰は引けていて、戦意なんてあったものではありません。


 この程度、敵とは呼べません。

 騎士の数は30名と大勢います。普通の人を相手にしているのでしたら、それは驚異的な数だったでしょう。

 ですが、私達魔王軍幹部の前では、その程度の数は無いに等しいです。


「さ、どうしましょうかね」


 私は困ったように言います。


「リーフィアとウンディーネは休んでいるといい。お前達は十分に働いてくれたからな」

「……そういうことであれば、喜んで休ませていただきます」

「ハッ! よく言うわ。元から休む気満々でいたくせに」

「あ、バレました?」


 傍観するということは、つまりそういうことです。

 椅子に座ったが最後、私にはもう動くつもりはありませんでした。

 勿論、私と同じように傍観を決めているウンディーネも、動かせるつもりはありません。


 ……ま、何もするなと国王に言われてしまっているので、仕方ないですよね。


「早く殺せ! 早く魔王を殺すんだ!」

「ふん、小童が騒ぎよる……」


 アカネさんは腕を振るいます。

 たったそれだけの動作で、騎士達は獄炎に包まれ骨も残らず灰となりました。


「おお……危ない危ない」


 完全反応に従い、私はその余波から逃げました。

 振り向くと、私が座っていた場所は完全に融解されていました。おそらくあのまま座っていたら、私は熱い思いをしていたことでしょう。


「ちょっと、危ないですよ」


 アカネさんに文句を言います。


「すまんすまん。久しぶりに力を使ったのでな。調整をミスったわ」


 あっはっはと笑い返されました。

 ……笑い事ではないんですけど、まぁいいです。どうせあれに当たっても、私が死ぬことはありませんでした。ちょっと熱かったかもしれませんが、その程度です。


「こ、古谷殿! 貴公は勇者だろう。早くこいつらを殺せ!」


 騎士が瞬殺されたことにより、国王は更に焦ります。

 そして勇者がいることを今更思い出し、古谷さんの背に隠れます。


「ほほう? さぁどうする勇者。余達と戦うか?」

「……いえ、ミリアさん達は黙っていてください」

「なぬ!?」


 私は立ち上がり、ミリアさん達の前を塞ぎます。


「お前は何もしないと言っていただろう!」

「ええ、ですが……相手が彼ならば話は違います。古谷さんは私が──殺しましょう」

「だが、お前は──」


 ミリアさんが何かを言おうとしたところ、アカネさんが彼女の肩を叩きました。


「ミリア、ここはリーフィアに任せよう」

「……アカネ……わかった。リーフィアに任せる」

「はい、ありがとうございます」


 協力してくれたアカネさんに礼を言い、私は古谷さんに立ちはだかります。


「さぁ古谷さん。選択の時です」

「くっ、俺は、どうすればいいんだ……!」

「それはあなたが決めることです」


 古谷さんがここで私と戦うのであれば、それは『勇者』としての選択です。

 古谷さんが戦いを拒否するか、命令とは別の理由で戦うというのであれば、それは『古谷幸樹』の選択です。

 その選択は、私が決めるものではありません。

 私が決めていいものでもありません。


「私は迷いません。あなたがミリアさんを殺そうというのであれば……とてつもなく面倒ですけど、配下としてあなたを殺します」


 後ろの方で「おい、面倒とはどういうことだ! おいお前ぇ!」という声が聞こえましたが、そんなもの無視です。


「もし、俺が戦わないと言えば?」

「あなたを見逃してあげましょう。まだあなたは、私達の敵ではありませんからね」

「……そうか。だったら、俺の考えは決まった」


 古谷さんは私に剣の切っ先を向けました。


「俺はリーフィアさんと戦う。勇者としてではない。一人の男として、このままみっともなく逃げるわけにはいかない!」

「一人の男として、ですか?」

「そうだ。王の命令とか、勇者としての使命とか関係ない。俺は俺のために、リーフィアさんと戦う」

「……はは、なるほど」


 そうですか。あなたはそっちを選択しましたか。


「では、戦うということでよろしいのですね?」

「そうだ!」


 わかりました。

 それが古谷さんの選択だというならば、私は止めません。

 ただ、なんでしょうか。この気持ちは……そう、言い表すとするならば、


「残念です」


 私は憂鬱に手を上げました。

 そして最後に一言、彼にこの言葉を贈ります。


「さようならです」

いつもありがとうございます

次でキリがよくなる……と思います!(別の作品でキリがよくなると言ってから3話くらい続いたので絶対とは言えない)


前回のあとがきに書いた風邪の件ですが、少しは調子が良くなりました。……と言っても次は咳の方が酷くなって眠れない夜が続いていますが(笑)

執筆できないというわけではないので、問題はありません!ご心配をおかけしました!感想をくれた方、ありがとうございました!

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