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先手を打たれました

「リフィ、妾もそっちの料理を食べてみたい。すまぬが、妾にもよそっては貰えぬだろうか?」

「ああ、はい。良いですよー」


 何気ない会話。

 長いテーブルに連なっている料理は、手が届かない物もあります。

 他の人に料理を取って貰うように頼むのは、特におかしなことはありません。


 ですがこれは、アカネさんからの合図です。


 彼女は、ミリアさんのように毒を回避していません。

 二人して毒を綺麗に避けるのは不自然だろうと、毒耐性が高いアカネさんには、我慢して毒入りの料理を食べてもらっていました。


 いくら毒耐性があると言っても、私のように完全ではありません。

 常人では即死するほどの猛毒は、しっかりとアカネさんの体内に蓄積されています。


 本当に限界だと感じた時、私が毒を回復してあげる。

 それの合図が、先程の言葉です。


「はい、どうぞー」


 私は料理を皿に乗せ、席を立ってアカネさんに渡しに行きます。

 手と手が触れ、その瞬間に回復魔法の詠唱を省略し、魔力をアカネさんに流し込みます。

 ついでに毒が効きにくくなる効果も付与しておいたので、これでしばらくは大丈夫でしょう。


 しっかりと効いたのか、アカネさんの顔色が治りました。


「うむ、ミリアも絶賛していた料理が、気になってしまったのでな。感謝する」

「いえいえー、また食べたくなったら、遠慮せずに言ってくださいね」


 私は席に戻ります。


 その時、ふと見えた王様の顔が滑稽でした。


 おかしい。あの従者の方は毒入りを食べている筈なのに、なぜ平然としていられるのか。


 ……そんなことを考えているような表情ですね。

 恨めしそうにアカネさんを見つめ、爪をガリッと齧っています。


 本当に隠さなくなりましたね。

 もう安全な手段を取っている場合ではない。ということでしょう。


 ですが、食事の場では毒を盛るのが精一杯のようです。

 私がそれを許すはずがなく、ミリアさんに降り掛かる障害を防ぎます。


 そんな攻防戦を続けていると、食事会を始めてから一時間も経過していました。

 それに比例して、料理も少なくなってきました。


 流石に、隠れて毒を盛るのも難しくなったのでしょうか。

 食事会はそこで終了となり、私達は部屋へと戻りました。


「はぁ〜〜、食った食った。余は満足だ〜……」


 部屋に着くなり、ミリアさんはベッドにダイブしてゴロゴロと転がります。

 そして、すぐにピタリと動かなくなりました。

 眠るの早くないですか? なんか、いつもの私を見ているようですね。


 ……というか、ミリアさんに先手を打たれてしまいました。

 私、一生の不覚です。


「何に悔しがっているのじゃ、お前は」

「私の仕事を奪われたのです。悔しいに決まっているではないですか」

「リーフィアの仕事はベッドにダイブすることではないじゃろう……」

「おお、良くおわかりで」

「わかるも何も、そんなのを仕事とは──」

「そうなのです。ベッドにダイブするのは、仕事を遂行するための過程であり、本当の仕事は睡眠なのです。そこを見極めるとは、アカネさんもやりますね……!」

「…………待ってくれ。盛大に勘違いをしておるな? やめろ。その同類を見つけたと言わんばかりの、キラキラとした目をやめろ」

「いいえ、アカネさんには素質があります。さぁ、その原石を磨くため、共に横になって寝ようではありませんか!」

「そんな素質いらんわ! というか、単にお主が眠りたいだけじゃろう!」


 ──ふっ、良くおわかりで。


「そのドヤ顔やめい。なんか無性に腹が立つ……」

「大丈夫ですか? 人は寝足りないと苛々しやすいと聞きます。寝ます?」

「いちいち睡眠に誘導するでない! ……まだ眠らぬ。そういう気分ではないのじゃ」

「そうですか」


 アカネさんとテーブルを挟んだ反対側の椅子に、私は腰掛けます。


「毒は大丈夫ですか?」

「……うむ、リーフィアが上手く治してくれたおかげでな。耐性を強化する魔法も、助かった」

「あら、気付かれていたのですね」

「治療して貰った後、不思議と毒入りを食べても何も感じなくなった。リーフィアが何かしたと考えるのは、当たり前じゃろう? まぁ、そのおかげで楽出来たわ。感謝するぞ」

「いえいえ……助け合うと約束したではないですか。感謝されるほどではありません」

「それでも、ちゃんとミリアを守り抜いてくれたことも含めて、妾は感謝しておるのじゃよ」


 それが今回の仕事だっただけです。


 ……と言っても、アカネさんは聞かないのでしょうね。

 だったら、おとなしくその言葉を受け取っておきましょう。


「──して、これからのことなのじゃが」

「とりあえずは食事会はクリア。ですが、まだまだ油断は出来ません」


 ミリアさん達は、後一日だけ滞在する予定です。

 国王が言うには「自慢の我が国を是非、ミリア殿にも見ていただきたい」とのこと。


「何か仕掛けてくるとしたら、街を観光している時じゃな」

「そこは民の被害を考えて、少し控えめで来るでしょう。……問題は、城内を歩いて回っている時です」


 城内は言ってしまえば、国王の独壇場。

 どんな命令でも出すことが出来ます。

 兵士も側近も、全員が国王の暗躍に手を貸している。


 唯一どちらでもない立場なのが、古谷さんです。

 彼は正義感の強い人です。

 国王にミリアさんを殺すように言われたとしても、二つ返事で受けるようなことはしないでしょう。


 古谷さんは食事会の時、ミリアさんと何度か話して笑いあっていました。

 そして、怪しい動きをする国王を、不審に思っていたようにも見えます。

 利用すれば、使えるかもしれません。


「いっそのこと、出歩かないという選択肢は?」

「それはダメじゃ。ミリアは街の観光を楽しみにしていた。外に出ないとわかれば、絶対に不機嫌になる」

「わかりました。では、お出かけをするのは決定としましょう」

「……すまんな。こちらの我儘に付き合わせてしまって」

「いえ、今回はミリアさんが楽しむことが最優先です。問題ありません」


 こうなることは事前に予想していました。

 勿論、対策もバッチリ考えています。


「…………という訳で、ウンディーネ」

『……はーい』

「街中での警護は、あなたに任せます」


 私が処理をしてもいいのですが、襲撃を何度も自然を装って防ぐのは、少し難しいです。

 なので、誰にも身バレしていないウンディーネに、ミリアさんの警護を頼みました。


「ほう、水の大精霊が守護してくれるのであれば、妾も安心じゃ。……よろしく頼む」

『……ま、任せて、ください。ミリアちゃんは、うちが絶対に守る……!』


 相手がウンディーネに勝る刺客を、この短期間で用意出来るとは思っていません。

 もし、それでも突破してきた場合は、私が居ます。


 絶対の守備。

 国王は、それに対してどう足掻いてくれるのでしょうか。

 それが今から、楽しみです。

日間ランキング外れたと思って落ち込んでいたところ、週間ランキングに乗ることが出来ました。素直に嬉しいです。


ただ、活動報告でもお知らせした通り、これからは毎週水曜の0時に投稿となります。

ということで、また12時間後にお会いしましょう!

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