魔王が来るようです
それはいつも通りの何もない日のことでした。
「…………ふむ」
私は、中庭のベンチでゆっくりと日向ぼっこをしていました。
時間帯はまだお昼前。
まだ寝足りないところですが、妙に城内がうるさかったので、起きてしまいました。
中では、今も沢山の使用人が忙しなく動いています。
うーん、デジャブを感じますね。
「やぁ、リフィさん。お昼前に起きているなんて、珍しいね」
「ああ、古谷さん。おはようございます」
この人はよく会いますね。
きっと、王様から私の監視でも命令されているのでしょう。
勇者には早く魔族を倒すために力をつけるべきなのに、王様は何を考えているのでしょうね。
監視なんて、そこらで暇そうにしている兵士に任せればいいでしょうに。
……ま、こちら側としてはありがたいことですけど。
「……なんか、妙に騒がしいですね」
「えっ……うーん、そうかな?」
「同じ人が何回も廊下を行ったり来たりしています。ほら、あの茶髪のメイドさん。これで四回目の往復です」
「よく覚えているね」
「暇なので見ていたら、勝手に覚えていただけです。それで、どうしてか知りませんか?」
勇者なので何か知っているのではないでしょうか。という期待を込めて、私は古谷さんに問い掛けます。
顎に手を当て、少し困った表情をする古谷さん。
その様子から見て、使用人達が忙しなく動いている理由は知っているのでしょう。
それを言っていいのかダメなのか。それを悩んでいるような顔です。
ですが、何かあるのだとわかった以上、気になるので言ってもらいます。
「……古谷さん?」
必殺・上目遣いです。
私は美少女です。あえて自分で言います。
これに落ちない男性はいないでしょう。
「う……じ、実は、明後日に来るらしいんだ」
「来る? 誰がですか?」
「そのぉ……ま……が……」
「はい? 何です?」
「魔王、が……来るらしいんだ」
「…………はい?」
それは私の予想の、斜め上を行く答えでした。
◆◇◆
『どういうことですか』
『いやぁ、あっはっはっ……』
すぐに自室に戻った私は、ウンディーネを魔王城に向かわせてすぐに連絡を取りました。
ウンディーネは精霊なので、人と魔力を合わせれば、こうして私と念話が可能になります。
今は魔王ミリアさんに直接どういうことなのかを問い質している最中でした。
『なんかそっちから招待が来たから、面白そうだと乗ってみた』
『どうして罠ですよーって言っているようなものに、あなたはわざわざ乗っかるんですか。馬鹿ですか?』
『ば、馬鹿ではないわ! ……そう! リーフィアが心配だったから、行ってみようと思ったのだ!』
『さっき面白そうだったからと、ご自分で言っていませんでした?』
『……ま、まぁ細かいことはどうでもいいだろう!』
素直にこの野郎、と思いました。
軽い頭痛を覚えますが、ここで文句を言っても無駄でしょう。
『……流石に、誰かを連れて来るのでしょうね?』
『勿論だ。当日にはアカネを連れて行く』
ヴィエラさんは書類整理のためにお留守番。色々と大変な人ですね、彼女は。
ディアスさんは元勇者です。そんな人が王国に来てしまうと、色々と面倒なことになるでしょう。
だからアカネさんを選んだと。
魔王幹部の中では、彼女が一番強く、一番常識人だと思われます。
その人が来てくれるのなら、私も安心です。
『とりあえず、状況は理解しました。どうにかして私もその会合に参加出来るようにします。お願いですから、当日はおとなしくしてくださいね』
『わかった。任せてくれ!』
『ほんと、アカネさんの言うことをちゃんと聞くんですよ?』
『わかっていると言っているだろうが! とにかくお前は、それまでに少しでも情報を集めておけ!』
『はいはい、わかりましたよ。それでは、また会いましょう』
念話を切ります。
「はぁ……」
思ったのはただ一つ。
「何してくれてんですか」
これに限ります。
面白そうだと言う理由で招待を受けたミリアさん。
これはもういいです。私達配下が何かを言って止まるような人が、魔王なんてやっていません。
例えるならば、嵐。
自然現象を止めようとするだけ無駄です。
ならば、予想できる嵐にどうやって対処するか。これが重要になります。そこら辺はアカネさんと話し合った方がいいですね。
問題は王様です。
本当に何を考えているのでしょうか。
初対面の私に向かって嫁にならないかと言うほどの女好き、馬鹿みたいに勇者を召喚し、いきなり魔王に招待状を送るといい、意味がわかりません。
前王はあんなに有名だというのに、どうして今の王はここまでやらかしてくれているのでしょうか。
そういえば、現国王の良い噂を聞いたことがありません。
……面倒ごとの予感しかしませんね。
『ウンディーネ』
『……ん、どうしたの?』
『国王を見張ってください。今回のことの真意を知りたいのです。仕事を増やしてしまって、申し訳ありません』
『仕方ないよ。リーフィアは、動きづらい立ち位置にいるんだもん。だから、うちに任せて……!』
『はい、お願いします。私は私で、出来る限りの情報を集めてみます』
再び、念話を切ります。
「はぁ……何ですか、もう。これじゃあ、魔王城に居た方が何倍も楽でしたよ」
そう文句を言っても、後の祭り。とりあえず、ミリアさんが来るまで我慢です。
それまでに情報を探り、ミリアさんと合流した時点で見切りを付けていればそのまま帰り、まだ新たに良い情報があれば残る。
……出来るなら帰りたいですけど、そうすれば二度とここに来ることは出来ないでしょう。なので、新たな情報が見つかった場合は、我慢して残るしかありません。
これはもう本気を出すしかないですね。
さっさと帰って寝るために、今は頑張って情報を探ります。
「何だか、ブラックしていた時のことを思い出しますね」
早く家に帰るため、無我夢中で働く。
嫌な記憶です。出来ることなら、二度と体験したくありませんでした。
でも、あの時の辛さと比べれば、まだこれは優しいですね。
──コンコンッ。
「リフィさん? いきなり部屋に戻って行ったけど、大丈夫かい?」
ちょうど良いタイミングで古谷さんが来ました。
身だしなみを整えてから、私は扉を開けます。
「……大丈夫です。心配をおかけしました。では、行きましょうか」
「行くって、何処へ?」
「図書館ですよ。少しでもエルフの秘術に関した情報が欲しいのでしょう?」
相変わらず城内は騒がしく、おとなしく寝ていることは出来ません。
ならば、情報収集に努めましょう。
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