勇者について
あの後、私と古谷さんは夕暮れになるまで本を漁っていました。
国王との約束には『夜間の閲覧は禁止』というのがあるので、夜になった今はおとなしく部屋でゆっくりしていました。
普通なら寝ているのですが、あいにく今の私は寝る事が出来ません。
「……来ましたか」
部屋の中で不自然に、魔力が渦を巻きました。
「お帰りなさい。ウンディーネ」
水の精霊ウンディーネ。
私の契約精霊であり、もう一人のスパイです。
『どうでしたか?』
どこで聞き耳を立てられているかわかりませんから、これからは念話で話します。
『……エルフの秘術は、あまりいい情報がなかったよ』
『ふむ……まぁ、そうでしょうね』
むしろ、エルフの秘術の情報が、王国の機密情報の中にあったら驚きです。
それなら私いらないですし、ちょっと見た程度でわかる情報を見つけられなかった人達が、少し心配になります。
『この国のことはどうですか? 勇者のこととかあったら、嬉しいんですけど』
『……うーん、勇者については、前から召喚を続けていたみたい』
『昔から、ですか……方法などは?』
『やり方は普通の召喚術とあまり変わらないらしい、よ。ただ、比べ物にならないくらい、凄い人数を必要とするみたい』
『なるほど、おいそれと召喚は出来ないということですね』
それほどの人数をすぐに用意することは出来ないでしょう。という考えで発言しましたが、ウンディーネの表情を見るに、どうやらそれは違うようです。
『……これ、見て』
そう言って渡されたのは、ウンディーネが記したメモでした。
『これは……過去の召喚履歴ですか?』
『……うん、今までの記録を纏めてみたんだけど、ここの赤線から上が、前国王。下からが、現国王』
『……現国王になってから、勇者召喚の頻度が異常ですね。こんなに召喚して、大丈夫だったのでしょうか?』
普通の召喚術と変わりはないと言っても、勇者は異世界から召喚するのですから、魔力の消費は激しいものとなっているでしょう。
それなのに、今の王様は月一の頻度で召喚を行なっているようです。
『……大丈夫じゃないみたい。実際に、魔力欠乏症で何人かが死んでいるって書いてあった』
『そもそも、どうしてこんなに召喚を? 勇者というのは、そんなに沢山呼べるものなのでしょうか?』
『本当の約定では、勇者は一つの国に一人らしいよ?』
『ええ、私もそう聞いています。ですが、ならばどうしてこんな月一の頻度で召喚を?』
『……もしかして、全員死んでいる、とか?』
全員死んでいる。
ありえないことではないです。
それを証明するように、古谷さんが勇者として召喚されてからは、まだ召喚の儀式は行っていないようです。
この世界は魔族だけではなく、魔物も多数存在します。
不幸の事故で死ぬこともあるでしょう。
ですが、それにしたって頻繁すぎます。
「これはまさか……」
とある可能性に気づき、私は考え込みました。
だって、それが本当であるなら、この国はあまりにも──
『リーフィア?』
『っと、すいません。少し考えていました。……まぁ、このことについては、後で古谷さんに聞いてみます』
これは憶測だけで進めていい話題ではありません。
実際に勇者の証言を得てから、これについてはミリアさん達に報告した方がいいでしょう。
『他に何かありますか?』
『えっと、今日のところはこれくらいかな?』
『……わかりました。では、明日もお願いします』
『うんっ! わかった!』
ウンディーネが霞のように消えていきます。
部屋には、誰も居なくなりました。
「はぁ……」
溜め息を一つ。私は備え付けられているベッドにダイブしました。
「…………めんど」
今日一日中探しても、エルフの秘術に関しての情報は皆無。
逆に勇者について新たな情報を得てしまった。
これを面倒と言わずして、何と言うのでしょうか。
「一番早いのは、直接エルフに聞き出す。……いやぁ、ないですね」
他のエルフもあんな閉鎖的な思考をしていたのなら、正直言って話になりません。
あの時は心底呆れてどうでもいいと思っていましたが、また同じような状況になれば、私だって我慢なりません。
流石にミリアさんのように虐殺はしませんが……まぁ、出るところは出るでしょうね。
「はぁ……寝よ」
とにかく今日は疲れました。
なので、面倒なことは考えずに寝ることにします。
ウンディーネが情報を集めてくれるまで、私はゆっくりと休日を満喫させていただきましょう。
◆◇◆
「──うん? 人の国から招待状だと?」
ここは魔王城の執務室。
ヴィエラに監視されながら、魔王である余は今日も書類整理に追われていた。
そんな時に、とある兵士が一通の手紙を持ってきた。
そこには『魔王軍の皆様へ』と書かれていた。
ヴィエラが封を破って見てみると、余達を人の国へ招待したいという旨が書かれていた。
「いや、どう見ても怪しいだろ」
これは流石の余でも怪しいとわかる。
「どこだそんな馬鹿みたいな手紙を送ってきたのは」
「……ボルゴース王国、と」
「……ん? それって…………」
ボルゴース王国。
それは今、余達の中でも時々話題に上がっている国の名前だ。
「ええ、リーフィアが潜入している国ですね」
「どうしてそんなところから招待が? まさかリーフィアが何かやったか?」
「……いえ、リーフィアに関係していそうな記述はありませんね」
「となると、ただタイミングが良かっただけか。……何を考えているのだ?」
「さぁ? ですが、罠なのには間違いないでしょう」
「うむ、そうだな。……いや、待て? もしかしたらこれはチャンスかもしれないぞ?」
これで面倒ごとが一つ減るかもしれない。
そう考えた余は、口元をニヤリと歪ませた。
「はぁ……何かやるなら、一言くらいは言ってからにしてくださいね」
ヴィエラは呆れたようにそう言った。
「この魔王に任せておけ! ということで、すぐにあの二人も呼べ!」
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