ズルはダメですよ
劇を見終わった後、私達は商店街をぶらりと散策することになりました。
当然、好奇心旺盛なミリアさんが先頭を歩き、見失わないようにとその後ろをヴィエラさんとアカネさんが付き従い、そのちょっと離れたところで残りのメンバーが追いかけます。
面倒臭いのは真面目な二人に任せ、私達は出店を眺めながら雑談する。
決してサボっているわけではありません。面白そうな物があればミリアさんに教えるという、大切な役目があるのですから。…………まぁ、先を行くミリアさんがそれらを見逃すはずないので、このお仕事は全く意味がないのですが。
「リーフィア! リーフィア!」
「そんなに叫ばなくても聞こえていますよ。ちなみに私の名前はリフィです。設定忘れないでください」
いい感じにサボれていて満足……と思った矢先に名前を呼ばれてしまいました。
何かいいものを見つけたのでしょう。名前を訂正しつつ先頭に向かえば、なんともまぁ懐かしいものがそこにありました。
「これは射的、でしょうか……?」
しかし扱うものは銃ではなく、弓。
少し離れたところに景品が並んでおり、それを倒せば見事、景品獲得となるようです。
うん。まんま射的ですね。
お祭りだからこういうゲームもあるとは思っていましたが、どの世界でも考えることは同じなのか、それとも同郷の方が広めたのか。……後者っぽいですよねぇ。
この世界には同郷──転生者が一定数存在するようですし、こういった日本の文化がそこら中で布教されていても、なんらおかしくはありません。
というか、この国を作ったと言われている初代国王も転生者っぽいですよね。
この世界で初めて精霊との対話を成功させ、数多くの冒険の果てに国王となる。先程の劇を観た感じ転生者っぽいチート能力なので、その可能性は高いです。
私のほうが彼のチート能力を大きく超える力を有しているのは、ゲームでよくある『インフレ』なのでしょう。
「よぉし、余が一番大きいものを取ってやるぞ! 見ていろお前達、余の勇姿を!」
「…………ん?」
意気揚々と弓をつがえ、矢を引こうとするミリアさん。
わざわざ私を呼んだのだから弓術カンストの私にやらせて景品をゲットしよう! とずる賢いことを企んでいるのかと思いきや、単純に見ていてほしいから呼んだとは。
こういう正々堂々としているところは本当に良い子ですよね。魔王のくせに。
「ふんっ! はぁ! うりゃ! ──たぁ!」
気合いは十分。
しかし、その気合いとは裏腹に矢は全く飛ばず、どれも景品に届くことすらできませんでした。
「うぅ! こうなったら──!」
「こら」
ミリアさんの瞳が一瞬赤く光り輝く。
嫌な予感がした私は即座にミリアさんの視界を遮り、それを無効化します。
「ここで何をやらかすつもりですか」
「矢が全く当たらないのが悪い! だから、ちょっと小細工をしてやろうと……」
「ダメに決まっているでしょう。そんなことしたら景品ごと木っ端微塵ですよ」
さっきの正々堂々はどこへやら。
イライラしたからと言って魔眼でズルはやめてほしいですね。
……はぁ仕方ない。
「どれが欲しいんですか?」
「……え?」
「だから、どれが欲しいのか聞いているんですよ。代わりに私が取ってあげるので教えてください」
結果は散々でしたが、自分の力だけで頑張ろうとしたところは偉いと思いました。
なので、そのご褒美です。
「あ、あれだ! あれが欲しいのだ!」
ふむ、くまのぬいぐるみですか。
たしかに、とても大きくて感触がふわふわしていそうで、子供からの人気が高そうな景品ですね。
ただ、人気が高いのだから競争率も高い。
お子さんにお願いされたのか、お父さん連中が頑張って狙っているものの、ミリアさん同様飛距離が足りなかったり運よく当たっても重量のせいで倒せなかったりと、いまだに誰一人として獲得には至っていません。
いやらしい店主ですよね。しっかり当たってもギリギリ倒れない距離に、人気一番の景品を置くのですから。
普通ならあんな物、取れるわけがありません。
「でも、問題ありません」
一本だけの衝撃で倒せないなら増やせばいい。
射的は6回の挑戦ができるように、参加者それぞれに6本の矢を貸し出しています。
「よっ──と」
私はその6本を全てつがえ、一斉に放ちます。
それらは綺麗な放物線を描き、吸い込まれるようにぬいぐるみの頭にヒット。
流石の図体でもこの衝撃に耐えられず、ぬいぐるみは近くにあった多くの景品を巻き添えにしながら、ゆっくりと倒れるのでした。




