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早速サボりましたが何か?


 はい、やってきましたお祭り当日。


 初日は全員で一緒にお祭りの雰囲気を楽しんだり、屋台めぐりをしたりと楽しむ予定です。

 ミリアさんはもちろんのこと、ウンディーネも人間たちのお祭りに参加するのは初めてらしく、とても興奮している様子が伝わってきました。


 お祭りは毎日やるようなものではありません。

 この精霊祭も年に一度だけの開催だからこそ、こんなにも人々は総出で盛り上がり、貴重な数日を楽しむことができる。そして、そのたった数日は掛け替えのない思い出になるのです。


 だから、ミリアさんはこのお祭りを十分満足するまで遊び尽くすおつもりなのでしょう。


 その意気は良し。

 歳以外はお子様なのです。目一杯楽しむが勝ちでしょう。


 ですが、その前に一つだけ言わせてほしい。


「はぁぁぁ……つっっっかれたぁ…………」


 エレガントな雰囲気が漂う、とある喫茶店。

 休憩中でもお祭りの雰囲気を楽しめるようにと用意されたテラス席にて、私はテーブルに突っ伏した状態でだらけていました。


「もーやだ。歩き疲れた。帰ったら絶対、引きこもってやる」


 街行く人からの視線をいくつか感じます。

 ぶつぶつと呪詛を吐き続ける私を怪しんでいるのでしょう。……しかし、私はここから動く気力も元気も、とうの昔に消費してしまったのです。


 ……ああ、元気が欲しい。若さが欲しい。


 この体自体はとても健康なのですが、心は真っ黒に塗りつぶされた仕事に疲れたアラサー一歩手前のもの。

 たとえ体が健康でも、心が健康じゃないのです。


「なーにババ臭いことを言っているのじゃ?」


 そんな私の頭上から、呆れたような声を投げかけられました。

 いちいち目を向けずとも、それが私の愛する妻──アカネさんのものだとすぐにわかりました。


「……失礼な、私はまだピチピチですよぅ」


 顔を持ち上げずに、突っ伏したまま返答します。

 再び、呆れたような乾いた笑い声が聞こえました。


「そう言うならば、もう少し活気のある表情をしてくれ。精魂抜けすぎてこっちが心配になる」

「心配には及びませんよ。少し眠ればすぐ元気になれると思うので」

「その『少し』とは、一体どれくらいじゃ?」

「…………少なくとも、三日ですかね?」

「それは少しとは言わぬ。……いや、リフィにしては短いほうなのか? ああ、いかん。妾の中で何が常識なのかがわからなくなってきた……」

「アカネさんも大変ですね。少し休憩します?」

「その元凶が何を……ったく、ほれ。飲み物を持ってきたぞ」


 トンッ、と目の前に置かれるカップ。

 む、この匂いは…………。


「……オレンジ、ですか?」

「残念ながらそのような名前のものではないが、さっぱりしていて疲れを取るのに最適だと、こっこの店主にオススメされたのじゃよ。その反応を見るに、リフィのお気に召したようじゃな」


 そういえば、異世界には『オレンジ』と言う名前のものはないんでしたっけ。

 しかし、これは間違いなく柑橘系の匂いです。


「アカネさん、アカネさん」

「わかったわかった。ほれ、好きなだけ飲め」


 ストローとほとんど同じような筒状のものを口まで運んでもらい、それをチューチューと吸います。

 …………おお、味も一緒ですね。なんだか懐かしい気持ちになりました。


「そんなに美味しいのか?」

「特別美味しいってわけじゃないですよ。……ただ、好みの味ではあります。アカネさんも飲んでみます?」

「おお、それならお言葉に甘えて──」

「ただし、その場合は口移し限定です」

「っ! ばかたれ!」


 頭を叩かれました。かなり強めに。

 相変わらず突っ伏したままだったので、鼻にも深刻なダメージが…………泣いていいですか?


「痛いなぁ、何をするんですか?」

「なにって! お、お主が変なことを口にするから……!」

「口移しくらい、結婚した夫婦なら普通にしますよ。最近では若い恋人同士でも多いですよ?」

「そ、そうなのか……? ふむ、最近の恋人は進んでいるんじゃな……で、ででは、妾もリフィの妻として、と、っと、当然、同じようなことをしなければ、」


 まぁ全部適当に言った嘘ですが──って痛ぁ!


「…………え、なんで殴ったんです?」

「なぜだろうな。……ただ、なんとなく……嫌な予感がしたのじゃ」

「えぇ、なんですか、その第六感的なやつ。心の声が思わず口に出ちゃったのかと、一瞬焦ったじゃないですかやだぁ」

「すまぬ。気がついたら拳が、って──ん? 心の声……?」


 あ、やっべ。


「それはそうと! アカネさんはどうしてここへ? ミリアさん達は?」

「ああ、危うく用件を忘れるところじゃった……。そろそろ開演の時間だから戻ってこいと、我々の主人から伝言を預かってきたのじゃよ」


 私が今、一団から離脱して喫茶店でサボっている理由。


 それは劇が始まるまでの待ち時間、立ちっぱなしでいるのが嫌だったからです。

 だから適当な理由をつけて喫茶店に逃げ込み、あわよくばずっとここでサボっていたいと思っていたところ、アカネさんに見つかってしまった──という訳です。


 はぁぁぁ……休憩時間、終了ですね。


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