設定大事です
魔王城を出る前、私たちはいくつかの決め事をしました。
単独行動はなるべく控えるとか、目立ったことはしないとか、お子様の側には誰か一人が絶対に付き添うとか。まぁ色々ありましたが、一番重要なのは私たちの設定です。
馬車の見た目を多少は誤魔化しているとは言え、それはあくまでも外見だけの話で、内側までは誤魔化せません。
年に一度の大きな祭りということもあり、検問では馬車の中まで入念に見られるでしょう。それで貴族が乗っていてもおかしくない造りの馬車があれば、根掘り葉掘り聞かれるに違いありません。
検問を無事に突破できたとしても、お祭りの最中はそこらじゅうに見回りの兵士がいます。
そこでとっさに名前を呼んで正体がバレてしまわないよう、私たちは『どこかの我儘な一人娘のお願いで連れ出され、仕方なく遠路はるばるお祭りにやってきた貴族御一行』という設定を作りました。
まぁ、簡単に言ってしまえば私たちが魔王軍だということがバレないようにするための、ちょっとした偽装ってことですね。
曖昧で穴だらけの設定ですが、こういうのは意識するだけで結構変わるし、もし何かが起こってしまった場合は案外アドリブで乗り切れるものなのです。
「今回は遠出までして精霊祭に参加しに来たってわけか」
「そうじゃ。お嬢様がどうしても行きたいと言い出してな。折角だからと祭りに参加することにしたのじゃ」
「それはご苦労なことで。……はいよ。確認は以上だ。ご協力どうも。このまま進んでくれ」
「うむ。……ああ、ついでですまんが、流石の長旅でちょっとばかし疲れてしまってな。お勧めの宿泊施設を教えてもらえるか?」
「だったら、ここだな。少しばかり宿泊料が高めの貴族用だが、馬車を見た感じ払えない金額じゃないだろう。大人数の部屋は埋まっているが、小部屋ならまだいくつか空いているはずだぞ」
「おお、恩に着る。早速そこに向かってみよう。ご丁寧にどうもじゃ」
「どういたしまして。精霊祭楽しんでくれよ」
と、馬車が進み始めました。
どうやらアカネさんと門番との会話が終わったようですね。
「気のいい門番で助かった。おかげで今日の宿泊場所も決まったぞ……ほれ」
そう言って差し出されたのは王都の案内図です。
様々な建物が並んでいるところに一箇所だけ赤い丸印が付けられていて、どうやらここが先程話していたお勧めの宿泊施設のようですね。
「む? 今日は泊まるだけか? 祭りは?」
「精霊祭は明日からじゃよ。今日は宿でゆっくり休み、馬車での移動の疲れを取ってから明日の精霊祭に備えるのじゃ」
すぐにお祭りを楽しめると思っていたのでしょう。
ミリアさんは不満そうな顔を浮かべ、えー、と頬を膨らませました。
「えー、ではありません。ミリアさんはまだ子供だから、まだ元気なのでしょう……しかし、こっちは長い時間馬車に揺られるだけでも疲れるのです。だから、まずは休むために一日早く王都に到着する予定だと、そう説明があったはずですが」
「ふんっ、なにが疲れているだ。リーフィアはただ眠っていただけではないか」
それに気がつくとは、ミリアさん鋭い。
「とにかく、今日遊びに出たところで王都は祭の準備でろくに店も開いていない。楽しみにしていたミリアには悪いが、妾たちは当初の予定通りに宿でゆっくり休むとしよう」
「賛成です。……正直、まだ眠り足りませんので」
『あ、じゃ、じゃあ……うちもリーフィアと一緒に……』
「ええ、眠りましょう。ウンディーネと一緒ならば安心して眠れますからね」
もちろん、その時はアカネさんも一緒です。
だからそんな寂しそうな目でこっちを見つめないでください。
まったく、一緒に眠りたいならそう言えばいいものを……素直じゃないんですから。
「あ、それじゃあ余も一緒に……!」
「残念ながら、ミリア様は私と一緒の部屋です。我慢してください」
門番が言うには、すでに大人数用の部屋は埋まっているようです。
であれば残っているのは一人か二人用の小さなお部屋だけで、私とアカネさんは結婚している身なので同室にあるのは当たり前。ウンディーネはどうせ一緒のベッドで寝るし、シルフィードは宙に浮かんで眠れるから数には数えなくてよし。
あとはミリアさんとヴィエラさん、そしてディアスさん。
ディアスさんは唯一の男性なので一人部屋になるのは当然で、残るはミリアさんとヴィエラさんで二人部屋になるというわけですね。
ついでにお子様の監視役としてもヴィエラさんは適任なので、いい部屋割りになったのではないでしょうか。
……え、面倒な仕事を押し付けただけ?
はてさて、なにを言っているのか…………。
「このあとは各自、自由行動じゃ。くれぐれも面倒ごとは起こさぬように。では解散」
宿でのチェックインを済ませ、私たちは一旦解散になりました。
ディアスさんは適当に王都をぶらつくと言って宿の外へ。ミリアさんも初めての場所に来た興奮を抑えられないらしく、ヴィエラさんの腕を強引に引っ張ってお散歩へ行ってしまいました。
……私?
私はもちろん、自分の部屋に直行しました。
その後をついてくるウンディーネとアカネさん。
ちなみに、シルフィードは夫婦の邪魔になったら悪いからと別の部屋に行ってくれました。
と、いうわけで──────
「もっふーん……」
部屋に入り、まず初めにベッドへダイブ。
もふもふの感触を楽しみます。
「おお、さすがは貴族御用達の宿です。ベッドも上質ですね」
「いきなり飛び込むとは……こういう時だけ元気になりおって。普通は寝具より先に内装を確認すると思うのじゃが……相変わらずだな」
『そこがすっごくリーフィアらしいね!』
「…………うむ。ウンディーネも相変わらずじゃな」
私の後に入ってきた二人が何か言っていますが、私はベッドちゃんの具合を確かめるのに集中していたので気にしません。
「さぁ二人とも、こっちへ」
服を収納して、二人の嫁に手招きをします。
ウンディーネは元気に頷いて私の胸に飛び込み、アカネさんはまだ少し恥ずかしそうに服を脱いで布団に潜り込んできました。
でも、ぴったりくっ付いてくるところが素直で可愛いですよね…………と、変なことを考えていることを察したのでしょう。アカネさんに脇腹をつねられてしまいました。
さすがは力自慢のうちの鬼嫁。
思った以上に痛くて、うっすら涙が出てしまいました。




