可哀想な人でした
意図もしない修羅場に巻き込まれた私は、一先ず二人を落ち着かせて自室へと戻りました。
何かが起こったとすれば、間違いなく原因はここにあるのでしょう。
そう思いながら扉を開けた時、私が目にしたものは────
『むぐぅ……! む、ふごご……!!!』
そこには両手両足を縛られ、天井から宙吊りにされている真っ赤な人が。
「うっっっわぁ……」
異常はそれだけではありません。
私の部屋全体が真っ白に凍りついています。
床や壁、天井はもちろんのこと、普段は全く使わない家具も、愛しのベッドちゃんも、等しく全てが真っ白な銀世界に変わり果てていました。
ここは一種の拷問現場なのでしょうか?
色々ありすぎて思考を放棄してベッドちゃんにダイブしたいところなのですが……逃げるのはダメですよね。
「なんですか、これ」
まず、犯人はウンディーネと見て間違いないでしょう。
こうなってしまった経緯を話してもらおうと説明を求めれば、彼女は分かりやすく視線を彷徨わせました。
『え、えぇと……リーフィアに悪いことしてたから、ついカッとなって……気が付いたら、こうなってたの。…………その……うぅ、ごめんなさい』
「…………はぁ。次からは気を付けてくださいね」
『え……? ゆ、許して、くれるの?』
「ちゃんと謝ったんですから、許しますよ」
私の部屋が凍りついたとは言え、ウンディーネは私のために怒ってくれました。
たとえ私の部屋が凍りついても、彼女の気持ちは嬉しく思います。
部屋が凍りついてしまったのは、ただの事故なのです。
だから、これ以上怒るのは酷でしょう。
「でも、どうして宙吊りなんです?」
『あ、それは……アカネに説明したら、これくらいの報いは受けて当然だろう……って』
「……………………(じろっ)」
「……………………(サッ)」
視線を向けた途端に目を逸らされました。
どうやら、犯人は一人では無かったようですね。
「…………次は、ちゃんと怒りますからね」
二人に釘を刺しておきながら、さてどうしようかと赤い人へ歩み寄ります。
「こんにちは。うちのウンディーネが失礼しちゃったみたいで、ほんとすいませんね」
『ん〜! ん! んんんんんん!!!!』
「え? 可愛いお嫁さんに免じて許してあげる、ですか? いやぁ、寛大な方で助かりました。確かにうちの妻たちは可愛いですよね。私のために本気で怒ってくれるんですから、夫としては嬉しい限りですよ」
『んぐぁ! ぐ、んん〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!!!』
「本当にその通り。ですよね! わかってくれますか」
「なんじゃ、酷い拷問を見ているような気分になってきたな」
貴女に言われたくありませんよ、アカネさん。
『リーフィアは、そういう人だから……』
その意味、後で詳しく聞きますからね、ウンディーネ。
「あ、そう言えば貴方の名前を聞いていませんでした」
彼はウンディーネのお知り合いのようです。
……とすれば、思い浮かぶのはただ一人なのですが、多分それは正解なのでしょう。
口を押さえている猿ぐつわを外し、彼の言葉を待ちます。
興奮状態だった彼は何度か荒い呼吸を繰り返し、ようやく落ち着いたかな? と思ったところで私を強く睨みつけてきました。
『こ、こんな仕打ちをして……お前本当に人間か!?』
「いや、やったの私じゃないですし」
『俺にこんなことをして、お前タダで済むと──ヒッ!』
「? どうしたんで──ヒエッ」
彼が急に黙ったのを思議に思い、その視線を辿れば──そこには暗黒の微笑を浮かべた妻たちが。
…………たしかに、あれはめちゃくちゃ怖いですね。
今だけは彼に同情します。
『お、俺は世界の創造と共に生み出された、原初にして炎の──』
その時、
『ハロー! ねぇねぇ、一緒に私とお祭りに……って、あら? イフリートじゃない! ひっさしぶり〜! こんなところで会うなんて、夢にも思ってなかったわ!』
意気揚々と、シルフィードが部屋に入ってきました。
しかも、赤い人の正体を言ってしまう放送事故のおまけ付きです。
『………………………………』
ああ、ほら……赤い人もとい、イフリートさんが真顔になっちゃいました。
ようやく回ってきた名乗りの出番だったというのに、乱入してきた第三者に全てをぶち壊されたら、誰だってこうなりますよね。
『あらら? ねぇイフリートってば、どうしたの急に黙って。数十年ぶりの再会じゃない! もっと明るくしましょうよ!』
シルフィードは彼のことなんて御構い無しに再会を喜び、グイグイと詰め寄ります。
それに対してイフリートさんは無反応。もはや虚無です。
風と空を司る精霊なのに、空気を読まないとはこれ如何に。
それがシルフィードらしいと言えば、そうなのですが……これは流石に彼が可哀想です。
『お、…………』
と、それまで無言を通していたイフリートさんが、ようやく口を開きました。
『覚えてろオオオオオオオオ!!!!!』
脱兎のごとく部屋を出て行くイフリートさん。
その目元に輝くものが見えたのは、気のせいではないのでしょう。
「……………………」
悲壮感漂う彼の背中。
私は静かに、その後ろ姿に敬礼したのでした。
更新遅れて申し訳ないです……!




