修羅場に巻き込まれました
「リーフィア。おいリーフィア!」
ようやく手にした安眠の時間。
直前にあった事件なんて綺麗さっぱり記憶から排除され、すやすやと心地よく眠っていたところ……急に誰かが私の体を激しく揺らしました。
目覚めるのも、目を開けるのも億劫でしたが、流石に許容できない揺れだったので、仕方ないと口だけを開きます。
「……………………誰ですかぁ?」
「余だ!」
「……ああ、肝心なところで使えない我が主人でしたか……おやすみなさい」
「おう、ゆっくり休め──って、待てぇ!」
毛布をガバッと取り上げられ、そこにしがみ付いていた私はマグロの一本釣りのように天高く持ち上げられます。その拍子に天井との壮絶なご対面を経験しました。ちなみに、まぁまぁ痛かったです。
「なぜ、お前が余の部屋で寝ているのだ! 余がお前を探して駆け回っている間、ぬけぬけと寝ていたのか! 後、余の城が凄いことになっているのだが!? この魔力、ウンディーネだろう。契約者がなんとか──寝るなぁぁぁぁ!!!!」
なんか、耳元でギャーギャーと喚かれました。
…………彼女、何か言ってました?
『な』の辺りで聞くのが面倒になり、そう思った時にはすでに意識を飛ばしていたので、何も聞き取れませんでした。おかしいですね。
「さっきからうるさいですねぇ。人様のベッドに無断で侵入してきて、それでも魔族の上に立つ魔王ですか? 傍若無人キャラはもう古いですよ?」
「余の部屋! 一応言っておくが、ここは余の部屋だから! 勝手に侵入してきているのリーフィアの方────」
『うぇえええええええんっ! リーフィアぁああああ!』
「今度はなにっ!?」
ミリアさんのボルテージが上がってきたところで、彼女の言葉を遮るようにウンディーネが大粒の涙を流しながら部屋に入ってきました。
そのまま一直線に私の胸元へ飛び込んできたので、優しく受け止めてあげます。
甘えてくれたのは嬉しいのですが、このままではベッドが水浸しになってしまいます。しばらくウンディーネの頭を撫でてあげた後、落ち着いた頃を見計らって泣いている原因を聞き出します。
「ウンディーネ、どうしました? あの赤い人と何かありましたか?」
『うぅ……アカネに……ぐすん、怒られた……』
おっと、これは予想外の人物が。
アカネさんは無意味に誰かを叱るような人ではありません。
ましてやウンディーネをだなんて……何か理由があるのでしょう。
「何か怒られることをしましたか?」
『ぅ、うぅぅぅ……!』
と、何か一瞬言い淀んだように思えましたが、また泣き出してしまいました。
これではラチがあきません。
あの赤い人がどうなったのかも気になります。
「ゆっくりでいいですよ。時間はあるのですから、ね?」
「いや、だからここ余の部屋……」
「アカネさんはウンディーネのことが嫌いだから怒ったのではありません。理由もなく怒る人ではないと、貴女も分かっているでしょう? 何かあったのなら正直にお願いします。私は怒りませんから」
『…………ほんと、ぅ?』
「ええ、本当です。私は鬼嫁とは違いますからね。ウンディーネは思う存分甘えていいんでスアバッ……!」
頭に鋭い一撃を受け、ベッドに埋まりました。
私の防御力を難なく貫通してくるこの痛みは、もう一人の嫁のもので間違いありません。
「……何をするのですか、愛する鬼嫁さま」
「誰が鬼嫁じゃ、誰が……ったく、説教中いきなり飛び出したと思ったら、こんな場所に居たのか」
アカネさんは溜め息混じりにそう言い、ちょっと強めの眼光でウンディーネを睨みました。
それに対して小さな悲鳴を漏らし、私の影に隠れようとするウンディーネ。
…………やはり、何かあったようですね。
「また一人増えた……もういいや、お菓子食べてこよう」
と、ここでミリアさんが退場しました。
残ったのは私とウンディーネ、アカネさん。
なぜか私は二人に挟まれた状況にあります。
…………あれ?
これは俗に言う修羅場では?




