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一緒に……




『ちょぉっと待ったぁああああああああああ!!!!!!!』


 最近聞き慣れたその声に、私たちは入場口の方へと顔を向けます。


 そこには、予想していた人物がいました。

 背景に『ドンッ!』というエフェクトが見えそうなほどに力強い仁王立ちです。


「…………何を、しているのですか?」


『その結婚式、ちょっと待ちなさい!』


「嫌ですけど?」


 止める理由もないので早々に却下すると、シルフィードは力が抜けたように体を崩しました。


『その結婚式、ちょっと待ちなさい!』


「言い直しても、嫌ですってば」


『原初の精霊、風のシルフィードの名において──その結婚式は認めないわ!』


「あ、それズルい」


 いつも身近にいるせいで忘れかけていますが、原初の精霊はこの世界にとっての『特別』な存在です。

 世界が創られた時からこの世界を守り続けていると言っても過言ではなく、場所によっては信仰されているほどの精霊で、彼女たちの言葉一つに大きな影響があります。


 そんな精霊が『認めない』と言ったのです。

 彼女の言葉を無視して、強引に式を進めることはできないでしょう。


「…………ふっ、ここで来るか」


 隣からは笑い声が────。

 見ると、アカネさんは面白そうに表情を柔らかくしていました。


 その様子から、こうなることを予想していたのでしょうか。

 ……状況を理解できていないのは、どうやら私だけみたいですね。


「シルフィ。最近見ないと思ったら、急になんです?」


『予想以上にこっちの準備に時間が掛かっちゃったのよ。支度を済ませて急いで戻ってきたら、もう終わりかけじゃない。だから、少し強引に止めさせてもらったわ』


 少し、って…………『かなり』の違いでは?


「はぁ……それで、何の用ですか?」


『リーフィア、貴女……大切な子を忘れていないかしら?』


 大切な子……?

 ここにはアカネさんがいます。

 他に思い浮かぶのはウンディーネのみです。


 …………そういえば、あの子の姿が見えませんね。

 シルフィードと一緒に行動していると思っていたのですが、どこにいるのでしょう?



『あの子はね、すっごく我慢しているのよ。今すぐに貴女と結ばれたいと思っているの』


「分かっていますよ。だから、次はウンディーネを」


『いいえ、分かっていないわ。貴女は何も分かっちゃいない』


 断言され、私は少しムッとします。

 ウンディーネのことを何も分かっていない? 私が? 彼女とは長い付き合いです。我慢させてしまっていることは理解しています。


 だから、帰ったらすぐにウンディーネとも式を挙げるつもりです。


『あの子は、口ではいつも遠慮しているけれど、本音では貴女の一番でありたいのよ。二番目なんて本当は望んでいない。……けれど、リーフィアもアカネも、どっちも大好きだから、わがままを言っちゃいけないって必死に我慢しているの。──だから、あの子の代わりに私がわがままを言うのよ』


 シルフィードはそう言い、魔力を解放しました。

 途端に、会場に流れ込んでくる風。それはとても暖かくて、心の底から安堵するように優しく私たちを包み込みます。


『風のシルフィードが宣言する。

 ──リーフィア、アカネ、ウンディーネ。三人の婚姻をここに成立させるわ』


「何を、言って……」


『ほら、土台は整えてあげたわよ。いい加減、出てきなさい』


 瞬間、会場にはもう一つの膨大な魔力が生まれました。

 それは徐々に人の形を作り、やがて見覚えのある姿に…………。


「…………ウンディーネ」


『リーフィア……あの、ごめんなさい。うち、やっぱり大丈夫。今日は二人を応援するから、うちは次で──いたいっ!?』


 後ろから『スパーンッ!』と良い音が鳴りました。

 犯人はシルフィードです。いつの間にか手にしていたスリッパで、ウンディーネの頭を思い切り叩いたみたいですね。精霊に物理攻撃は効かないはずなのですが……まさか、わざわざあれを魔力で作りだしたのでしょうか?


『な、何をするの……!』


『うっさい! この土壇場で遠慮するんじゃないわよ、このド阿呆! 私が頑張った意味がないじゃない。さっさと告っちゃいなさいよ。この人の一番になりたいのでしょう?』


『う、うぅ……でも、でもぉ……!』


 思い悩んでいる様子のウンディーネ。


「お主もいつまで悩んでおるつもりじゃ?

 ──ほら、さっさと行け」


 不意に背中を叩かれ、前のめりに一歩を踏み出しました。


「アカネ……」


「妾たちを幸せにしてくれるのじゃろう? ならば、その子に言わせるな。妾とウンディーネ。同時に幸せにする度胸くらい見せてみろ──旦那様?」


 ……本当に、ズルい人達です。

 それを言われたら、もう何も言えなくなるじゃないですか。


「……ウンディーネ」


 私はウンディーネの側へ近寄り、頭を下げます。


「申し訳ありませんでした」


『…………リー、フィア……?』


「どうやら、私は貴女に我慢をさせすぎてしまったようです。それに気づかず、私は目の前のことばかり……。どうか私に、もう一度チャンスをいただけませんか?」


 ウンディーネの前で跪き、手を差し伸べます。

 うるうると揺れる彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ、私はようやく覚悟を決めました。


「ウンディーネ。私と、私たちと結婚してください。もう二度と不安にさせないと誓います。幸せにしてみせると誓います。……だから、どうか私の手を取ってはくれませんか?」



 静寂に包まれた会場に、心臓の鼓動だけが聞こえてきます。


 緊張しているのでしょう。

 私の、一世一代のプロポーズ。

 ……まさか、二度も経験することになるとは思いませんでした。


『うちも、一緒で……いいの?』


「ええ。ウンディーネとアカネ。一緒がいいです」


『うち、面倒臭いよ? すぐに拗ねちゃうし、人見知りだし……リーフィアにいっぱい迷惑をかけちゃうかもしれないよ?』


「お互い様です。遠慮なく迷惑を掛けてください。どんどん頼ってください。ウンディーネの力になれるならば、その程度の迷惑は安いもんです」


 それが『夫婦』というものです。

 アカネさんも私も、ウンディーネのためなら喜んで協力しましょう。


「ウンディーネ」


『ひゃっ、ひゃい……!』


「そろそろ、返事をいただけますか?」


 早く返事をもらえないと、私も緊張で潰れてしまいそうです。


 ウンディーネは顔を赤くして、私の視線から逃れようとしました。

 ですが、それは私が許しません。目を逸らそうとしたところでもう一度名前を呼び、強制的にこちらへ振り向かせます。


『あ、の……えぇと……その…………』


 逃げられないと悟ったのか、ウンディーネは周囲に助けを求めました。

 しかし、残念ながらこの場に彼女の味方になってくれる人はいません。誰もが彼女を応援するように強い視線を送っています。


 とても長い時間、ウンディーネは下を向いていましたが……ようやく私と目を合わせてくれました。まだその瞳は揺れています。…………ですが、その中にはしっかりとした彼女の気持ちが見えていました。



『…………うん。……うちを、リーフィアのお嫁さんにしてください』


 そう言って微笑むウンディーネは、今までで一番輝いて見えました。




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