企み
「なんで、どうしてだ!?」
ボクは叫ぶ。
もう少しで計画は成功するところだった。
どんなに足掻いたところで、あの女は何かを犠牲にしなければならない。プライドの高い女の鼻っ柱をへし折るチャンスだったのに……!
「神、かみ……かみぃぃぃ!!!」
またしても、お前らはボクのことを邪魔するのか!
お前らもあの女に味方をするのか!
「どこまでボクの邪魔をすれば気が済むんだ! どこまで、ボクを馬鹿にすれば気が済むんだ!」
お前らさえいなければ!
あの女さえいなければ!
ボクは、この世界の主になれていたのに……!
──無様だな。
「っ、だれだ!」
何もかもが『存在しない』空間に、聞こえるはずのない声が聞こえた。
──そう驚くな、小僧。
侵入者だ。
ボクが作った、ボクだけが存在できる空間に入り込んだ侵入者だ。
それが出来るのは、ボクと同じか、それ以上の存在だけ。
つまり────
「お前、さっきの神だな!? お前が邪魔したせいで、ボクの計画は台無しだ!」
空気が揺れる。
それは、声の主が笑っているように感じられた。
──貴様の目論見を、我らが見過ごすと思うか?
内心、舌打ちをする。
ボクの計画は、もうすでにお見通しってわけか。
だからって焦ることはない。
なぜなら、あいつらは手を出せないはずだから。
むしろ、ボクの計画を邪魔した神の方が追い込まれているはずだ。
「ハッ! 狡猾なお前ららしい。だが、神が下界の人間に干渉するのは禁じられているはずだ! こんなことをして、タダで済むと思っているのかい!」
──それはこっちの台詞だ。
ブワッ、と全身の毛が逆立つような感覚。
首を締め付けられているように、上手く息が出来ない。手が震える。ボクが恐怖? そんなもの感じるはずがない。…………でも、これは一体。
──よくもやってくれたなぁ、貴様。
──面倒だからと放置していたが、もう好き勝手にはさせぬ。
「お、脅しのつもりかい? ボクを許さないと言っているけれど、そっちはもう何も手出しは出来ないはずだ。ボクの計画を邪魔するなんて、無理だろう?」
さっきも言ったように、神は下界の者との関わりを禁止されている。
今回はその制約に違反していると言っていい。
あの女を助けるために、あの神は馬鹿なことをしたんだ。
もう二度と下界に降りるどころか、近いうちに他との連絡手段を剥奪されるだろう。
あの女にそれだけの価値はないはずだ。
あれのために神であることを放棄するなんて考えられない。
だから、馬鹿な神だとボクは罵る。
──何を勘違いしているのか知らんが、わしにペナルティーは無いぞ。
「……………………は?」
ありえない。
それは、絶対にありえないはずだ。
あの頭の固い連中が、あの女を助けるためだけに例外を許すだって?
──貴様を止めるためだ。
──そのために彼女をこの世界に送り込んだ。
──もう二度と、貴様の好き勝手にさせないために。
「は、ははっ……あの女に、ボクの計画を止めるだけの力があるとでも?」
確かに、あの女は強い。
今までボクの邪魔をしてきた連中とは比べものにならないほどに、強い力を宿している。
でも、それによってボクの計画が無駄になるかと言われたら……話は別だ。
一度会ってみて、確信した。
あの女に、ボクを止める力はない。
今回は、以前に邪魔された腹いせにちょっかいを掛けたけれど、本当は無視しても構わない小さな存在だった。殺そうと思えば簡単に殺せる。……ただ、それをするのが面倒だっただけだ。
──そうだな、今のあやつにはちと厳しいかもしれぬ。
「『今の』、ねぇ……その言い方だと、いつかはボクを止められると言いたげだね?」
──その認識で間違いないだろうな。
さも当然のように肯定されて、ボクは少しムッと表情を顰める。
──そう怒るな、小僧。
──貴様が何をしたところで無駄だ。
──いつか必ず、我らの希望が目を覚ます。
「希望? 何を言っているんだ?」
──我らは希望を欲している。
──それが自覚を得た時が、貴様の最後となるだろう。
「ふざけるな! ボクが負けるはずがない。次こそはお前らをその高みから引き摺り落としてやる! 必ずだ!」
──では、その時を楽しみにしていよう。
ああ、そうしてくれ。
どうかその余裕のまま、後悔して堕ちろ。
あの時のように。
──さらばだ。
その言葉を最後に、見えない気配は霧散した。
同じくボクを縛っていた空気も嘘のように消え去る。
「あの女がボクの邪魔になる?」
それこそ、あり得ない。
…………あの言葉は、ボクを混乱させる嘘に決まっている。
「そうだ。ボクの計画はまだ終わっちゃいない」
誰にも邪魔されない。
もう誰にも邪魔させない。
あの頭の固いジジイ共にも、あの女にだって……絶対に。




