これで終いですか?
「こんにちわ、だな。元気だったか? リーフィアよ」
私をこの世界に転生させた、神様。
数日ぶりの再開となりましたが、なぜこのような場所にいるのでしょう?
「なぁに、お前の様子を盗み見していたら、何やら困っているようだったからな。このわしが直々に、手助けに来てやったのだ。感謝しろ!」
「あ、結構です」
「感謝して!?」
唾を飛ばす勢いで叫ばれました。
……きったね。
「この罰当たりめ。わしが折角、お前のために現界してやったというのに……それを断るなど愚策もいいところだぞ?」
「いや、手伝うと言われましても。あなたのような方が、そんなホイホイと出て来ちゃっていいんですか?」
神様は、当然ながら『神様』です。
こういったファンタジー物では、神が下界の者と関わることは禁止されているはずなのですが、この世界では違うのでしょうか?
「本当はダメなのだが、今回に限っては特別だ。……少しばかり、こちらの事情も関わっているのでな」
そうなんですか。
というか、サラッと心を読んでくるのやめてくれません?
「それは無理な話だな。なにせ、わしは人智を超えた存在。意識しなくても人々の思考は流れてくるのだ」
「……それ、逆に不便じゃないです?」
「わかるか? わかってくれるか? いやぁ、わしだって時にはゆっくりしたいんだが、やはり下界に降りると────」
「あ、興味ないです」
「ちょっとは興味持って! 持ってくれ!」
「いや、そう言われましても……だるいです」
今は、神様なんかに構っている暇はありません。
皆も待たせていますから、手伝うならさっさと手伝ってほしいです。
「…………前々から思っていたのだが、やはりお前……わしの扱いが雑じゃないか?」
「気のせいだと思いますよ。あなたにはちゃんと敬意を表したいと思っています。最高の世界に案内してくれたのですから、もちろん感謝していますとも……ええ」
「そ、そうか? ふっ、ならば良い!」
「ちょろ」
「……んぁ? 何か言ったか?」
「いいえ、何も──んんっ。それより、この状況をどうすればいいですか?」
神様は『手伝う』と言いました。
ならば、今まさに私たちが頭を悩ませている問題を解決する『術』を持ち合わせている……と思っていいのでしょうか?
「心配するな。そこの闇に呑まれた若造を救う方法はある」
「──ほ、本当か!?」
バリツさんを救う方法はあると聞き、アカネさんは思わずと言った様子で声を荒げました。
彼女たちは一度、神社であったことがあります。
その時は私の知り合いということで納得してもらいましたが、まさか神様が全てを救う手掛かりになるとは予想していなかったのでしょう。
「落ち着け。鬼族の娘よ。数日ぶりだな、息災であったか?」
「ああ、夫のおかげでな。……じゃが、それよりも」
再会の挨拶より、アカネは答えを急いでいるようでした。
いつも冷静沈着だった彼女らしくない言動でしたが、これは仕方のないことです。
再びバリツさんが意識を取り戻し、襲いかかってくる前に……どうにかしたいのでしょう。
「一番手っ取り早く確実なのは、そこの精霊が魔力を吸い取ることだが」
「それは却下しました。絶対に許しません」
「…………と、いうわけだ。リーフィアは怒ると怖いからな。強引にその選択肢を取れば、わしが危ない。だからわしが出てきたのだ」
「精霊に頼らない方法が、あるのですか?」
「リーフィア。わしを誰と心得る? 精霊に出来ることなのだ。このわしに出来ないわけがないだろう?」
その言葉で、神様がやろうとしていることを理解しました。
彼女は、ウンディーネが提示してきた方法を自らやろうとしているのでしょう。
──精霊に出来るから、神様である自分にも出来る。
その理論はおかしいと思います……が、それ以外に方法はないようです。
「しかし、あれを吸い込んで大丈夫なのですか?」
「ほう? わしの心配か? 案外、優しいところもあるのだな」
「……からかわないでください。こちらの事情で巻き込むのは、好きじゃないだけです」
私と神様は知り合いですが、バリツさんと神様はただの他人です。
私が困っているとは言え、代わりに神様が助けてあげる義理はありません。
それが原因で神様の体調が悪くなったら、こちらとしても目覚めが悪いじゃありませんか。
「──はっ、わしを舐めるではない」
ですが、神様はそんな心配を鼻で笑い飛ばしました。
「下界の瘴気程度にやられるとあっては、天上の奴らからは後ろ指を差されるだろうな。……つまり、絶対にあり得てはならないということだ。何も心配するな」
そう言い、神様はバリツさんの側へ歩きます。
刺激しないように手をかざし、神様は────
「とりゃ!」
無防備な頬をぶん殴りました。
…………あれ? デジャヴ?
「いやぁ、スッキリしたぁ……こいつの我儘ぶりには腹が立っていたのだ。一度はぶん殴りたいと思っていたから、ちょうどいい機会だったな!」
「そんな理由で人をぶん殴っちゃダメでしょう」
いや、私もやりましたけど。
めちゃくちゃ気持ち良かったですけど。
「まぁまぁ、そう言うな。代わりに、ほら……もう治ったぞ?」
「──は?」
そんな馬鹿なとバリツさんを見つめれば、彼の表情は穏やかなものに変わっていました。彼から感じていた悍ましい魔力の気配もありません。
まさか、本当に?
あの一瞬で……治してしまったのですか?
「これにて一件落着だな。わしはもう帰る。……またな、リーフィア」
神様はひらひらと手を振り、私が制止の声を上げるより先に、その姿は霞に消えてしまいました。
残されたのは、最初のメンバーのみ。
あまりにも呆気ない終わり方に、私はしばらくその場で、呆然と立ち尽くすのでした。




