どうしましょうか
何だかんだありましたが、ようやく決着がつきました。
しかし、これで全て終わりチャンチャン……ではありません。
今は意識を失っているバリツさん。
目覚めたら、再び意味のわからないことを喚いて襲い掛かってくるでしょう。
「どうしましょうか、これ」
戦いを繰り返さないためには、彼の中に巣食う魔力をどうにかしなければなりません…………が、それをどうにかする術を、私たちは知りません。
簡単に終わらせてしまうのであれば、ここで彼を殺すのが手っ取り早いです。
魔物の襲撃で手薄になった警備の隙を狙い、混乱に乗じて魔王とその幹部一人を誘拐したのです。魔王軍としては見過ごせない相手であり、もし彼が魔物を手引きした関係者であるならば、話は魔王軍の判断だけでは済まなくなります。
良くて国外追放。
最悪──処刑でしょう。
つまり、生かしておく必要はありません。
…………でも、アカネさんは、彼を助けたいようです。
馬鹿でわがままで愚の骨頂とも言えるバリツさんですが、やはり幼馴染である関係に目を瞑ることはできないのでしょう。
正直に言います。
それは甘い考えです。
魔王軍の幹部として、魔王軍の頭脳を誇る者として、感情を優先するなんて絶対にしてはならない行為。正しい道を選ぶのであれば、この場で彼を殺した方が将来のためになるでしょう。
「…………リーフィア……」
それが正しい。
それが魔王軍のためになる。
将来、面倒事に巻き込まれないためには仕方のない犠牲。
わかっています。
そんなこと、わかっているんです。
でも私は、嫁の悲しむ姿を見たくない。
「何か、何か手は────」
あの魔力。私の予想が正しいのであれば、あれはとても危険なものです。
それこそ、放っておくと周りの全てを破滅に導くほどの、災厄な……。
『リーフィア、考えなら……あるよ』
と、悩んでいたところでウンディーネから救いの手が伸ばされました。
『私たち精霊は、魔力で形成されているわ。あの男に巣食う魔力を私たちが吸い取れば、あれは普通の体に戻るはずよ。……ただ、それが出来るのは精霊の中でも限られているわ』
「最高位精霊、ということですか?」
『半分正解。たしかに最高位精霊にしか出来ない荒技だけれど、残念ながら私には出来ないわ』
「…………それは、どういうことです?」
『人は弱い生き物よ。生命線とも言える魔力を吸い出すと、人体にどんな悪影響を及ぼすかわからない。……しかも、あれを見た感じ、問題の魔力は体の隅々まで侵食している。ただ魔力を吸い出すだけだと、間違いなくその過程で死ぬわね』
「つまり、特に魔力の扱いに長けた精霊でなければ、それを実行するのは難しいと?」
『理解が早くて助かるわ』
シルフィードは無理だと言いました。
でも、ウンディーネは考えならあると言いました。
それは、つまり……そういうことなのでしょう。
『うちなら、やれる。三大精霊の中で一番、魔力の扱いが得意な、うちなら……』
ウンディーネの魔力操作は──とても綺麗です。
魔力の構築や力への変換、一切の無駄がない彼女の手順は目を見張るものがあります。
たしかに、ウンディーネならば魔力の抽出は可能なのかもしれません。
しかし────
「ダメです。絶対に許しません」
それは、諸悪の根源となった魔力をウンディーネの体内に取り込むということになります。そんな危険な行為を、この私が許すと思いましたか?
『でもっ……そうしなきゃ方法が……!』
「それは理解しています。でも、ウンディーネが犠牲になることだけは……絶対に、ダメです」
アカネさんのために、バリツさんを助けてあげたい。
どうにかしてあげたい気持ちはありますが、大嫌いな犬っころの命より大切な人の安全です。
バリツさんを助けるためにウンディーネが危ない目に遭うのであれば、私は迷うことなく彼を切り捨てます。
冷徹な女だと思われるかもしれませんが、何事にも優先順位はあるのです。
私は勇者でも、英雄でもない。
全てを助けたいと身の丈に合わない願いは言いません。
だから、せめて大切な人だけは守りたい。
そのためには何だって犠牲にしてやります。
──と、つい熱くなってしまいました。
落ち着いて状況を整理しましょう。
また私たちは振り出しに戻った。バリツさんを助ける方法は未だ見つからず、唯一の手段はウンディーネを犠牲にすることだけ。……こんな時、何も出来ない自分に腹が立ちます。
「まさに、猫の手でも借りたいところで──」
「ふむ。どうやら困っているようだな」
言葉の途中で、誰かが割り込んできました。
アカネさんでも、ウンディーネでも、シルフィードでもない。ましてやバリツさんのものでもない、無駄に威厳のある少女のような声。
この声は、まさか…………?
振り向き、ああやっぱりかと溜め息を吐き出します。
──そこには虚無の胸を偉そうに張る、和服少女の姿がありました。
「……………………なんで居るんですか、神様」




