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本気を出しました




「アカネ、時間稼ぎは十分です。下がってください」


「うむ!」


 後退と同時に、アカネさんは地面を力任せに叩きました。

 それはバリツさんの体幹を崩し、舞い上がった砂埃が良い目潰しとなります。



 十分な距離を取ったのを見計らい、私たちも動き出しました。



「ウンディーネ」


『うんっ……!』


 名を呼ぶと同時にウンディーネは魔力を解放し、それに導かれるように彼女の周りには無数の微精霊が集まってきました。


 彼女の眷属である水の精霊だけではありません。

 その周辺にあった全ての属性に通じる精霊達が、ウンディーネのためにやってきたのです。


「シルフィード」


『準備完了よ! いつでもいいわ!』


 私も魔力を高めます。

 跪くように手を大地に付け、この地に宿る残り僅かな生命へと語りかけます。


「【最後の命を私の魔力に──捧げなさい】」






 ──ドクンッ。

 その時、心臓の鼓動が鳴るように、大地が脈動しました。







「私のありったけの魔力です。ありがたく受け取りなさい」


 それを合図に、バリツさんが立つ周囲の地面が隆起しました。


 這い出てくるように姿を現したのは、無数の木の根。

 それらが意思を持ったように動き、バリツさんの体へと巻きつき、動きを止めました。



 ですが────



「邪魔、するなぁあああああああああああああああ!!!!!」


 徐々に私のほうが押し負けています。

 ……さすがに、死にかけた自然の力では分が悪いですね。


「でも、それは予測済みです」


 私は一人ではない。

 私の後ろには、いつだって最高の相棒がいるのですから。


『──凍って』


 彼女の口から紡ぎ出されたのは、単純で冷酷な言葉。

 ギリギリで押し返そうとしていたバリツさんの四肢を凍らせ、動きを止めることに成功しました。



 しかし、



「ぐ、ぅおおおおおおおおおおおおおお! アアアアアアアアアアアアアッッッ!」


「…………驚いた。まだ抵抗しますか」


 バリツさんは天に向かって雄叫びを発します。

 ついでに先程の触手付き。……精神的に、あれには捕まりたくありませんね。


 幸い、回避できない速さではありません。

 本気で捕まりたくないのもあり、私は右へ左へ、全方位に精神を研ぎ澄ませて触手を掻い潜ります。


『きゃっ!』


『何これ! 気持ち悪い!』


 触手は精霊の二人にも襲いかかりますが、彼女たちは魔力体。拘束することは叶わず、体をすり抜けていますが……それでも気持ち悪い感触はあるようですね。


 助けに行かなくても大丈夫そうだと判断した私は、先にバリツさんをどうにかしようと動きます。


「アカネ。前に出ますよ」


「承知した! 飛ばすから──跳べ!」


「はぃ?」


 意味のわからない指示に困惑しつつ、体は無意識に跳躍していました。


「行くぞ!!」


「え、ちょ、ま──」


 気合いを入れたアカネさんは、全力で腕を振りかぶりました。


 その後は、いちいち聞かなくてもわかることですね。

 私は咄嗟に彼女の拳へ足を付け、ぶん殴られると同時に文字通り飛びました。


 ──ビュン! という


「ったく、相変わらずの力技ですねぇ」


 夫をぶん殴って敵のところに飛ばす妻とか、ちょっと強引すぎやしませんか? ……そう呆れつつ、すぐに対応出来てしまう私が恐ろしいです。


 でも、流石は夫婦。

 いちいち言葉を交わさずとも、コンビネーションは抜群ですね。


 私は一筋の矢となり、バリツさんへ一直線に飛んでいます。

 後一回まばたきをしたら、彼の元へ到着するでしょう。



「アァアアアアアアアアアアア、アアアアアアアアアアッッッ!!!」


 私を近づかせまいと、触手が襲いかかります。

 相手も本気なのでしょう。かなりの量の触手です。急な方向転換は難しい……というか、不可能です。




 でも、問題ありません。




『リーフィア……! 援護するよ!』


『さっきから、キモいのよ!』


 私の精霊は優秀です。

 この程度の触手は、障害にすらなりません。



「邪魔ヲ、ッ──!」


「さっきから、うるさいですね」


 いい大人が喚いて騒いで。

 …………いい加減、耳障りです。



「私の言ったこと、覚えていますか?」


 懐に潜り込み、拳を握ります。


「そろそろ──大人しくしなさい」





『ぶん殴りたい』


 その言葉を今、果たします。





 全身のバネをフル活用して放ったアッパーは、正確にバリツさんの顎を捉えました。

 手に伝わる確かな感触。彼は、綺麗な円を描きながら宙を舞いました。


 ドサッ……と、彼の体は地面に落ちます。


 動く気配はありません。

 バリツさんは白目を剥き、意識を失っていました。


「ふぅ……」


 …………やっと終わった。

 私は息を吐き出し、その場に座り込みました。




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