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子供をシメます




「ミリアさん。ミリアさん、ミリアさん……」


 何度も、何度も回復魔法を掛けます。

 ……なのに、ミリアさんは目を開けてくれません。


「目を開けてください、ミリアさん」


 とても小さな体から流れ出る、致死量の血液を見ました。

 その先にある最悪の悲劇だけは……想像したくありません。それだけはダメなのです。


 それは私の望みではありません。


 誰かが欠けたら、その先の未来に意味はないのです。


 だから、早く目を開けてください。

 いつものように、その純粋な笑顔を私に向けてくださいよ。



「お願いですから……お願い……」


 もっと。もっと私に、癒しの力を────





「リーフィア! しっかりしろ!」





 肩を掴まれ、激しく揺さぶられました。

 顔を上げたそこには、アカネさんの顔がありました。


「落ち着いてよく見ろ。ミリアはもう大丈夫じゃ。それ以上はリーフィアの負担でしかない」


 ハッと我に返って手元を見れば、ミリアさんは静かな呼吸を繰り返していました。


 その体に目立った外傷はありません。

 おびただしい血だまりも……ありませんでした。


「……あ、れ……?」


 でも、さっきまで確かにミリアさんは……。


「安心しろ。あの程度でミリアは死なぬ。こやつが見た目以上に頑丈なのは、リーフィアが一番知っているじゃろう? だから大丈夫じゃ。気をしっかり保て」


 抱きつかれ、背中を撫でられました。

 そこからじんわりと、熱がこもります。


 アカネさんの温もりです。

 アカネさんの匂いです。


 ──安心するなぁ。


 きっとこの先も、何度も私は……彼女に助けられるのでしょう。


 本当に情けない夫です。

 だから、これ以上の醜態は晒せませんよね。




「……リーフィア。今のバリツをどう思う?」


 そう言われて、今も激戦を繰り広げている方へ目を向けます。


 バリツさんは精霊二人を相手にしながらも、酷く暴れまわるように立ち回っていました。

 対してウンディーネとシルフィードは、これ以上被害を大きくしないようにと、後手に回ることを余儀無くされています。


 魔力は暴走していますね。

 手に入れた力を制御しきれなくなったせいで、最早あれは知能のない獣と同じになっています。





 ──何なんですか、あいつ。





 はっきり言います。

 私、バリツさんが嫌いです


 急に「アカネは俺のものだ!」とか言いだして邪魔してきて、人の部屋でギャーギャー喚いて、決闘でみっともなく負けたくせにまだ突っかかってきて……挙句には暴走してみんなを危険に晒している。──はぁ?


 アカネさんと馴染み深い人だからって大目に見てあげていましたが、もう我慢なりません。


 もう立派な大人でしょう?

 わがままもいい加減にしてほしいです。


 ──で、なんでしたっけ?

 今のバリツさんをどう思うか、でしたか?




 んなもん、一つしかないでしょう。




「とにかく、ぶん殴りたいです」


 欲望丸出しの言葉に、アカネさんは苦笑を浮かべました。


「そうじゃな。あの馬鹿は一度、痛い目に合わなければ治らない。ならば──」


「ええ、反省するまでやってやりましょう」


 これは夫婦の問題でもあります。

 私達が、この件を終わらせる必要がある。


 それに、あの『中身が子供のまま育った大人ワンちゃん』をぶん殴らなければ、私の気が収まりません。




 ──ええ、やってやりますとも。

 これ以上は手加減なんてしてあげません。




 立ち上がり、アカネさんと向かい合います。


「……思えば、初めての共闘ですね」


「夫婦の底力というやつをバリツに見せつける、絶好の機会じゃな」


 不思議な感覚です。

 さっきまでバリツさんに追い詰められていたはずなのに、アカネさんとの共闘となれば負ける気がありません。


「…………それでは」

「…………それじゃ」



 コツン、と拳を合わせます。



「「あの馬鹿を──」」


「静めるとしましょう」

「静めるとするかの」




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