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次こそは守ります




 このままではラチがあかないということで、ワンちゃんことバリツさんが目覚めるまで彼を放置し、私達は周囲に警戒しつつも適当に暇な時間を潰すことになりました。


 その間に、新たに協力者として加わった精霊、シルフィードの紹介も済ませてしまおうかと思ったのですが、ここで問題発生。


 早速新しい女を引っ掛けてきたのかと、アカネさんに疑われてしまいました。

 ウンディーネと私の説得でどうにか誤解を解き、事なきを終えましたが……私、そんな軽い女に見えますかね?


 そんな紆余曲折があり、シルフィードが『原初の精霊』だと説明し終えたところで────



「うぁああああっ!」


 バリツさんが奇声を発しながら目覚めました。

 広げていた軽食を収納魔法に入れながら、私達は警戒心を引き上げつつ彼のところへ集まります。


 何かしらの悪夢でも見たのでしょうか。


 瞳はこれでもかというほどに開かれ、激しい呼吸を繰り返しています。風景が変わっていることにも驚きを隠せないのでしょう。キョロキョロと辺りを見回し、ようやく私達の姿をその視界に捉えました。


「ようやくお目覚めか? バリツ」


「アカ、ネ……くっ! アカネぇぇぇ!!」


 アカネさんの姿を見た途端、狼狽しきっていた態度は何処へやら。敵意を剥き出しにしながら全身の毛を逆立て、今にも彼女へ襲いかかろうと足に力を入れました。


「──私のアカネに触れないでいただけますか?」


 が、その前に風を操り、バリツさんの体を地面に縫い付けました。

 シルフィードの手助けもあり、並大抵の力では打ち破れない擬似的『重力結界』となっています。いくら新たな力を手に入れた彼とはいえ、抜け出すのは不可能でしょう。


「お、まぇ……お前ぇ! リーフィア・ウィンドぉ!」


「あら? 本名を教えた覚えはないのですが、どこでそれを?」


「殺す! 俺のアカネを……! 殺すぅぅぅ!」


 尋常ではない敵意。

 いえ、これは最早──殺気ですね。


 決闘の時は、ここまで酷いものではなかった。

 私がホームランで吹き飛ばした後、彼の中で何かしらの変化があったと見て間違いないでしょう。



「リーフィア。ここは妾が」


「いいえ。私も同行します」


 大切な婚約者に殺気を向ける輩がいる。

 その存在を知りながら、遠くで見ていることなんてできません。


 しかし、アカネさんは納得していない顔です。


 おそらく、拷問している姿を見られたくないのでしょう。

 今更そんなことで失望しないのに、ほんと、そういうところですよ。


「お願いですから守らせてください。また貴女の身に何かあれば、私は……今度こそおかしくなってしまいます」


 もう二度と、あのような気持ちにはなりたくない。

 絶対に。絶対です。


「リーフィア……」

「アカネ……」



「──リーフィア・ウィンドぉぉぉ!」



「「チッ」」


 二人同時に舌打ちをします。


 私達の間に入るだなんて、許されることではありません。

 世の中には過激派もいるのですから、そういうのは慎重に──って、どうせ聞こえませんよね。




 では、主犯が目覚めたことですし、そろそろ本題に入るとしましょう。




「…………さて、バリツさん。あなたには色々と聞きたいことがあります」


「リーフィア・ウィンド! 殺す! 殺す!!」


 私にだけ殺意高すぎやしませんか?

 ちょっと……いや、かなり変ですよね。元から話を一切聞かない変なワンちゃんでしたが、流石にここまで酷くありませんでした。洗脳されているのかと疑うレベルの変わりようです。


「一体、どうしたというのじゃ? お前は昔からの知り合いだからわかるが、決闘に負けた程度で、ここまでの大事を引き起こすような馬鹿ではなかったはずじゃ」


「アカネは俺の女だ! その女には相応しくない! 俺の、俺だけのものだ!」


 本名を知られていることで何となく察していましたが、性別までバレているとは……。


「それにしても、ぶん殴りたくなりますね。アカネの気持ちがわかります」


「妾は、好きで他人を殴るような女ではないぞ。……じゃが、そうだな。これは本当に殴りたくなる」


 同時に握り拳を作ったことで、バリツさんは一瞬怯んだように体を震えさせました。しかし、ドロドロとした殺気の濃度は変わりません。



 ……これは、アカネさんが主体になって話したほうがいいかもしれませんね。

 私には問答無用で殺意しか抱かない様子。これでは一向に話し合いが進みません。


「アカネ。彼に、その力はどこで手に入れたのか聞いてくれますか? 決闘が終わった後に何があったのかも」


「力、な……確かに、以前のバリツでは比べ物にならぬ魔力を宿している。覗こうと思えば思うほど悍ましいような……不気味な魔力じゃ。もしや、原因はこの力なのか?」


「まだ確信しているわけではありません。ですが、もし私の思っている通りの力だったのであれば、元凶の特定は可能です。しかし、これが当たっているなら、最悪としか言いようがありません」



 出来るなら、これは当たってほしくない予想です。



「バリツ。貴様、その力をどこで手に入れた? あの後、何があった?」


「…………力?」


「そうじゃ。その力はお主のものではなかろう。どうやってそれを手に入れた?」


「…………力。そうだ。俺には力がある。誰にも負けない、絶対に負けない力がある。あるんだ。そうだろう。アカネを手に入れる力が……。あの生意気なエルフに負けない力が」


 バリツさんは俯き、ぶつぶつと呟きます。

 聞いているだけで不快になるような、とても怪しい言葉です。


 どうでもいいですけど、生意気なエルフって私のことを言っています?

 正気を失っていても、私への憎悪は変わらないってことですかね。


 いやぁ、罪な女って困るなぁ。

 ……はい。面倒臭いこと限りないです。



「アカネは俺のものだ。俺のものなんだ。誰かに、あいつなんかに取られてたまるか」


「…………バリ、ツ……?」


 アカネさんも不審に思ったのか、俯いたままのバリツさんに手を伸ばし──





「アカネ、アカネ──アカネアカネあかねアカネアカネアカネ、アカネぇぇぇ!!!」





「っ、下がって! アカネ!」


 不意に感じ取った嫌な予感。

 即座に動き出し、魔力を纏ってアカネさんの前に飛び出します。


「アカネぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」


 その瞬間、大気を震わせる巨大な魔力が、彼を中心に荒れ狂いました。




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