森に戻ってきました
そこは以前、豊かな自然が広がっている場所でした。
野生の生物は多く、不純なものは極めて少ない。まさに自然界の楽園と呼ぶべき樹海。
しかし、今はもう見る影もありません。
見渡す限りは黒で塗りつぶされ、中央には大樹だったものの残骸が残っている。
過去に、世界最大規模の自然があったとは思えない惨状を前に、私はどこか懐かしい気持ちになりました。
──破滅したエルフの文明。
これをやったのは、他ならぬ魔王軍。
私も無関係ではなく、むしろ最も関わったと言ってもいいでしょう。
エルフどもに魔女として連れられ、奴らと対立し、森に巣食う魔女の成れの果てを終わらせた。
「……ここに来るのは、久しぶりですね」
今でも鮮明に思い返す光景に、私は小さく呟きます。
『リーフィア……』
「っと、今は感慨深くなっている場合ではありませんね」
和の国から遠く離れたこの地。
私とウンディーネによって導き出された仲間の居場所は、ここでした。
見た感じ、そこには何もありません。
なのに、今も強くアカネさんとミリアさんの魔力を感じます。
『リーフィア、二人は、もしかして……』
「おそらく、あの空間にいるのでしょう」
私が隔離された場所。
魔女たちの森。
探し人は目に見えないところにある。
ならば、こことは別にある異空間にいると考えて間違いないでしょう。
「問題は、どうやってそこに行くか……ですね」
以前は空間を扱えるエルフ……えっと、名前はなんでしたっけ?
……だ〜……、ダーウィン? アイーン? ダミン?
──あっ、ダインさん!
思い出した思い出した。
その人がいたから、私は異空間に飛ぶことができました。
ですが、今はもうあの人はいない。
アカネさんの話では、あの里にいたエルフは全て滅ぼしたとのこと。
それはエルフの代表者でも同じことです。魔王軍が求めていた『魔女の秘術』が、他人を犠牲にする外法だったとわかり、私もヴィエラさんも秘術に頼るのはあり得ないという考えに至りました。
ならば、もう彼を生かす意味がありません。
まさかそれが自分の首を締める行為になるとは……その時は夢にも思いませんでした。
「とにかく、入口を探しましょう。魔力が変に流れている場所はありますか?」
『……ある、けれど…………いっぱいある。多分、正解をわからなくさせようとしているみたい』
「──チッ。ここでも嫌がらせですか。本当に徹底していますね」
魔力の流れが不規則な場所があれば、そこが異界の入り口である可能性が高い。
そう思ったのですが、偽造のゲートが多く作られていると……。私の邪魔をすることが大好きそうな彼らしいやり方ですね。
『リーフィア。どうしよう……このままじゃ、二人が……』
「…………まだ二人が殺されるようなことは……ないと思います。相手が悠長に私達を待っているのですから、私達も焦らず、ゆっくりと手掛かりを探しましょう」
とは言え、厳しい状況なことには変わりありません。
現状、相手の気分次第で全ては決まる。
今は私達を待ってくれていますが、それがいつ痺れを切らすか分かったものではありませんからね。もし相手が心変わりした場合────。
「…………いや、今は信じましょう」
とにかく、私達はやれることをするのみ。
──と意気込んでみるものの、何も出来ないのが現実です。
「せめて、スキルが使えれば」
ここはもう森とは呼べません。
自然は全て燃やし尽くされ、生命は何も残っていない。
となれば、私のスキル【自然の担い手】は使えません。
もし効果があれば、自然に語りかけて正解を導き出せたのですが……今となっては無い物ねだりです。
空間を繋げられる者がいない今、私達はどう足掻いても二人の元にはたどり着けない。
「もしかしなくても、これ……詰んでます?」
何でも出来るチート能力があると油断していましたが、ところがどっこい。何も出来ません。これは笑えないし、どうしようもない。──まさしく『詰み』です。
何か。何でもいい。
今を変えるだけの手掛かりを。
その時、風が吹きました。
『──お困りかしら?』
私達しかいないはずの森に、第三者の声。
振り向いて声の主を見た私は、あまりの美しさに息を飲みました。
透き通るような翡翠の髪。黄金に輝くその瞳は、まるで全てを見通すような妖艶さを漂わせています。
そこにいるのが当然かの如く、空に浮かぶその姿は──幻を見ていると錯覚するほどに魅力的で、幻想的でした。
『こんにちは。麗しいエルフさん』
美女はニコリと微笑み、『会いたかったわ』と手を握ってきました。
「……あの、あなたは……?」
『ああ、ごめんなさい。挨拶が先よね。私はシルフィード。全ての空と風の支配者であり、創世の時を生きる──原初の精霊よ』
貴女を助けにきたわ。
その美女、シルフィードはそう言い、私の頬にキスを────。
『ダメえええええええええええええええッ!!!』
私達の間を切り裂くウンディーネの絶叫。
瞬間、頭上に滝が落ちてきました。




